第九筆 電脳小説大賞!
諸君、今日は『花の金曜日』である。
週のお仕事が終わる象徴とされる金曜日だ。
そして、今日は『第12回電脳小説大賞』の一次選考発表の
「時は来た! それだけだ――」
仕事を完了した龍は悠々とタイムカードを切った。
そうだ。これから結果発表を確認しよう。
てな感じで、意気揚々とロッカールームに直行する龍。
トレードマークの赤い鉢巻を巻き、黒地に赤い花柄というド派手なプリントシャツを着こむ。
ちなみに、ズボンは『ファッションセンターしばくさ』で買ったジーンズだぞ。
(一次選考……俺の『男一匹ウルフ大将』の通過なるか……)
龍は思った。
神がいるなら頼む、俺の面白過ぎる作品をどうか通してくれ。
かの剣豪、宮本武蔵は『我、神仏を尊びて、神仏を頼らず』と言った。
しかし、龍は宮本武蔵のような剣豪ではない。
底辺を這いつくばるWeb小説家なのだ。ハングリー精神の塊なのだ。
成り上がりたい、ストギル小説のテンプレ主人公のように成り上がりたいと深く願っていた。
目指すは書籍化作家、そのためには受賞せねばならないのだから……。
「パイセン! 何を眉間に皺を寄せているんスか?」
龍に話しかけるのは美少女ではない。
頭を金髪に染めた韓流アイドル風の若者である。
彼の名は
龍の後輩となる
「ぬっ! 泰ちゃん!」
フランクに『泰ちゃん』と呼ぶ龍。
年齢は二歳ほど変わらないため、二人は先輩と後輩、正社員とアルバイトの関係ではあるが仲が良かった。
「仕事が終わりましたので、飲みに行きませんか」
「むう……」
泰ちゃんの申し出は嬉しかった。
しかし、今日の龍は早く帰りたかったのが本音。
明日は土曜日であるが、シフト制勤務の龍は出勤となっている。
お酒を飲んで二日酔いにでもなったら大変だ。
それに早く一次選考の結果発表を見たい、ダッシュで見たいのだ。
「泰ちゃん! すまん! 今日の俺は早く帰らなければならない!」
「マジっスか? 折角、女子大生の女の子を集めたのにな……」
「じょ、女子大生!?」
「うっス! オレが卒業した大学の後輩の伝手で集めました」
「つ、つまり……」
「合コンっスよ! 可愛い子ばかりっス!」
龍の心に稲妻が走った。
合コンだ。それもJD、女子大生が集まるのだ。
これまで龍はストイックに生きてきた。求道のWeb小説家だ。
だけども、龍もそろそろいい年齢だ。彼女の一人は欲しいところ。
この合コンはそのチャンスとなるかもしれない。
「ぐぬぬぬ……」
悩んだ、激しく悩んだ。
女をとるか、Web小説をとるかの二択――。
「喝ッ!」
龍は己の煩悩を振り払った。
俺はWeb小説家だ、女よりもWeb小説をとるッ!
まさに日本男児、これぞもののふと呼べよう。
「ドラゴンダッシュ!」
世界の盗塁王如き足さばきを見せた。
ダッシュだ、龍はダッシュでロッカールームの出口へと向かう。
「俺には『男のケジメ』がある! 合コンへは行けんッ!」
「りゅ、龍さん! この合コンには古田島さんも参加するんスよ」
「何故、それを早く言わなかったアアアッ!」
泰ちゃんの言葉が決定打となった。
あのメガネ女が合コンに参加するという。
堅物そうなイメージだが、案外軽いところもあるじゃあないか古田島さんよ。
これは願ったり叶ったり、俺の選択に誤りはナッシング。
龍は天翔けるドラゴンの如く、早々に帰宅しようと倍速で体を動かす。
「古田島さんになんて言い訳しようかな」
泰ちゃんはそう言ったが知るか。
メガネ女には上手くいっておけ、と龍はダークに思うのであった。
「竜王起動ッ!」
帰宅した龍はパソコンを起動。
「飛龍クリック!」
そして、お気に入りに登録したストーリーギルドのサイトを秒速でクリックする。
そこには『第12回電脳小説大賞』の特設サイトがあった。
「飛龍クリック! 飛龍クリック×飛龍クリック! 合わせて! デュアルドラゴン!」
こいつも秒速でクリックだ。
そこには、紛れもない一次選考の結果発表が掲載されていた。
「ティアマットリサーチ!」
龍は自作品『男一匹ウルフ大将』をくまなく探す。
さて、龍が探している間に『第12回電脳小説大賞』のことを説明しよう。
これは日本で開催されるWeb小説の最大級のコンテストである。
参加方法はアホみたいに簡単だ。
ストーリーギルドに登録し、作品に『電脳12』とタグ付けすればよいだけ。
原稿用紙に書いて郵送する時代ではなくなった、それだけ軽くなったのだ。
規定もこれといってなし。(ただし『R18作品』は参加出来ない)
オールジャンルで文字数制限なし、完結、未完結に限らず応募が出来る。
協賛企業はニ十社、四十レーベルに同時選考してもらえるのも特徴だ。
従って、書籍化のチャンスも大きい。
過去には、二桁の総合評価ポイントで受賞し書籍化した作品もあった。
それだけに、ワナビスト達がこのコンテストにかける思いも強い。
ひょっとしたら、俺や私の作品が選考員の目に留まり書籍化するかもしれない――。
そんな甘い想いを持ちながら、龍は血眼になって『男一匹ウルフ大将』の名を探す。
――――――
第12回電脳小説大賞・一次選考の結果発表!
通過作品・著者名。(順不同)
作品タイトル:戦力外野球戦士のストレート無双 ~ストレートゴリラの俺はニンフに惚れられて~
著者名:アラン・クロニクル
作品タイトル:せや、美少女だらけの冒険者パーティを作ろう。
著者名:黒鳥 響士郎@『最強の青魔導師2巻発売中』
作品タイトル:くしゃみが止まるまで溺愛をやめません! 胡椒少々、伯爵少々、彼は砂糖令嬢だけを愛してくれる。
著者名:まるぐりっと
作品タイトル:追放された悪役令嬢は無人島でスローライフを送りたいと思いますが、何故か異世界最強のイケメン賢者に目をつけられてしまいました。
著者名:まるぐりっと
作品タイトル:婚約破棄された女勇者令嬢は、今日から魔王城のカフェを経営します。
著者名:まるぐりっと
作品タイトル:追放商人トルゼニの冒険 ~魔法の算盤で自分も敵もステータスは思いのまま! 今更戻れと言われても「もう遅い」!~
著者名:ランサルセ
作品タイトル:モンスター×ガチ×プロレス
著者名:シュートが強いうまむすこ
作品タイトル:転生したら『小野善鬼』でした。
著者名:毒斬り無刀斎
作品タイトル:エロゲのモブ僧侶に転生した「非モテ」の俺、異世界で美少女魔女達にモテモテな件について。
著者名:ヴァルプルギス
作品タイトル:フーリガンゾンビの金曜日
著者名:腐ったみかんスミス
以下省略。
――――――
「ま、まるぐりっと……」
龍はまるぐりっとの強さに震えた。
一次選考に何と三作品も通過していたのである。
恐るべきまるぐりっと、強いぞ異世界恋愛、無双だ令嬢もの。
「そ、そんなバカな!」
人のことはいい、それよりも自分のことだ。
ここで悲しいお知らせがある。
画面には『男一匹ウルフ大将』も『ギアドラゴン』の名前がない。
「ブルードラゴン! スクロール!」
やめろ龍! 見苦しいぞ龍! 未練がましいぞ龍!
10分間程、画面を上下にスクロールさせて探しているぜ。
マジで呆れるよな。
「ハワアアアアアアアアッ!」
しかし、現実は現実だ。
龍のご自慢の作品も、ギアドラゴンの名もないのが真実。
残念ながら、龍の作品は今年も一次選考を通過出来なかった。
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