第4話 おっさん、裏切り者のホームレス魔法少女の所以を知る 1



「私が裏切り者の魔法少女と呼ばれるようになった元凶、それは第十三ダンジョン『黒雨こくう』の創造者、第十三魔王【レインレート】です」



 木澤さんは、開口一番に自分が裏切り者と呼ばれるようになった元凶の名を口にした。だが、てっきり元凶は人間であると考えていたため、魔王が元凶であると宣言され少し困惑している。


 魔王は人間に友好的とは言わないまでも、害をもたらすことはないと思っていたのだが……



「半年前、私は第十三ダンジョン『黒雨』の攻略隊に選抜されました。当時はまだ未攻略ダンジョンだった『黒雨』の攻略隊に、駆け出しのダンジョン探索者であった私が抜擢されたのは、私の能力が特殊な能力であったことが理由でした」


「私が魔王から与えられた能力【共有きょうゆう】は、私自身のステータス値を指定した相手のステータス値に上乗せする能力です。指定できる対象は同時に三人までで、指定対象の切り替えや共有の切断は即時私の意思で行うことができます」


「申請されている能力の中で、バフ効果を付与する能力はほとんどの場合が乗算方式で、加算方式のバフ系能力は、私のみが有している能力である【共有】以外は自身を強化する能力しか当時はなかったようでした」



 木澤さんの能力は、【共有】という能力らしい。どうやら味方にバフ効果を付与する能力なようで、加算式であるのはとても珍しいようだ。だが、バフ効果というものは加算よりも乗算の方が強いと思うのだが……もしかしたら乗算のバフ効果と併用することで真価を発揮するタイプなのかもしれない。


 しかし疑問なのは、当時駆け出しだった木澤さんを、未攻略ダンジョンの攻略というダンジョン探索の最前線に送り出してまで欲しい能力であるとは到底思えない。未攻略ダンジョンの攻略隊ということは、攻略隊メンバーは基本的に最前線をひた走る歴戦のダンジョン探索者であったことは想像にかたくない。そんな中に、素人同然の子を組み込んだら、メリットよりもデメリットの方が大きいのではと思ってしまう。 



「『あれ?そんなに強い能力じゃないような気がする。これ木澤さんを攻略隊に入れるメリットよりも、デメリットの方が大きいような?』と思ってそうな顔をしてますね、菊池さん。まあ、この後理解できますよ。私自身攻略隊に選抜されたときは『何で私が?』と思いましたが、この話を聞いて納得しましたから」


「本当に申し訳ないのですが、少しそう思ってしまいました。バフ効果が強力であることは理解しているのですが、攻略隊と言うぐらいなのでメンバーとの連携や個々の経験値などが重要なのかなと思いまして。そんな攻略隊の中に、当時経験の浅かった木澤さんを加入させるのは少し無謀なのではと」


「全くもってその通りだと私も思います。本来なら無謀すぎて、案が出たとしてもすぐに却下されるでしょうね。ですが、第十三ダンジョン『黒雨』を攻略するにあたっては、そんなことを言っていられなかったのでしょうね」



 木澤さんに考えていたことを見透かされていた。少し酷いことを思ってしまったため、申し訳ない気持ちになったが、どうやら木澤さん自身もそう思っていたようだ。


 だが、駆け出しの探索者を最前線の攻略隊に帯同させなくてはならない理由が、未だに全く分からない。第十三ダンジョン『黒雨』に何か秘密があるようだが。木澤さんは続けて語りだす。



「第十三ダンジョン『黒雨』のダンジョン特性【全基礎ステータス値を1に固定・デバフ効果無効・状態異常効果無効・魔法攻撃無効】に対する対抗策として、私の能力【共有】が有効であると判断され、私は『黒雨』の攻略隊に選抜されました」



 ……はっ?


 え、ステータス値1にされた挙句、デバフも効かず状態異常にもならず魔法攻撃すら無効!?


 物理攻撃オンリーで攻略しろってことですか!?


 何そのクソゲー……でも、確かにこのダンジョン『黒雨』に限った話ならば、木澤さんの能力【共有】は完全に特攻能力であるなと納得する。



「あっ、因みにこのダンジョン特性というものは人間側に一方的に縛りを加えるものなので、魔獣側は普通にデバフや状態異常攻撃をしてきますし、魔獣側のステータス値はそのままなんですよ!なんか菊池さんがクソゲーって言いたそうな顔をしていたので、補足させて頂きました!」


「マジもんのクソゲーじゃないですか!!!」



 補足された文言も酷いものだったため、つい言葉に出してしまった。



「まあ、『黒雨』はバフ効果無しだとほぼ攻略不可能と言われているので、理不尽さは二十のダンジョンの中でもトップクラスだと思います。ですが、一応分類は中級の真ん中レベルですので、出てくる魔獣自体はあまり強くはありませんよ」



 トップと言い切らない辺り、他にもえげつないダンジョン特性のダンジョンがあるようだ……そして中級という言葉、これはダンジョンの難易度を表す言葉だろうか?思わず顎に手を当てる。

 


「そう言えば、ダンジョンのクラス分けについては説明していませんでしたね。ダンジョンはその攻略難易度から初級、中級、上級の3つのクラスに分類されていて、ダンジョン名にある数字がそのまま難易度に対応しています」


「探索者の共通理解としては、第一から第九ダンジョンが初級、主に駆け出しのダンジョン探索者やダンジョン配信者が多く、攻略も比較的容易なのが特徴です。また、第六から第九ダンジョンは難易度が一段階上がるため、一人前のダンジョン探索者になるための登竜門とうりゅうもんと呼ばれています」


「次に中級ですが、第十から第十五ダンジョンがこのクラスに当たります。初級のダンジョンとは比べ物にならないほど難易度が急上昇するため、例え一人前のダンジョン探索者として認められるようになったとしても、すぐに挑むことは推奨されていません。特に、第十四・十五ダンジョンは異次元であると攻略隊のメンバーが言っていました。因みに、現在攻略済みのダンジョンは第十五ダンジョン以下の全てのダンジョンで、最近になってやっと中級以下最後の未攻略ダンジョンであった第十三ダンジョン『黒雨』が攻略されたと、捨てられた新聞で目にしました。そのせいで私の件が再熱して、東京にバウンティーハンターがつどっているようですが……」


「最後に上級ですが、第十六から第二十ダンジョンがこのクラスに当たります。ですが、実際のところほとんど情報がなく、攻略隊が編成されたのも私が知る限りでは第十六ダンジョンでの一回のみです。国主導ではなく個人で挑んだという探索者もちらほらいるようですが、皆口を揃えて無理ゲーと言うのだとか。特に第十八から二十ダンジョンは、探索者がダンジョンに入って一分もしないうちに転送され戻ってきたという逸話だけが残っています。とにかく、上級ダンジョンは攻略をするとかそう言う問題ではない場所とだけ覚えておいてください」



 なるほど、ダンジョンがここまで分類されているとは思わなかった。そして、あの理不尽極まりないと感じた『黒雨』が、何故中級クラスのダンジョンとして分類されているのか理由がよく分かった。どれだけ理不尽だろうと、情報があるだけマシなのである。


 それにしても、木澤さんを捕まえるためにバウンティハンターが東京に集っているとは……改めて彼女は大分追い詰められているのだなと思う。この先、彼女はどうなってしまうのだろうか……


 できることなら彼女の助けになってあげたいと本気で思っている。たった一人のおっさんに何ができるのかは一旦置いておいて、少しでもできることをしてあげたい。


 勿論この後の話次第ではあるが、今のところ彼女は悪ではないと考えている。もしこれが真実であるならば、彼女は仲間を本当の意味では裏切っていないということになる。捕まれば彼女は刑罰を受けるだろう、それがもし冤罪であったとしても……そんなのはあまりにも不憫ふびんすぎる。



 長い間思考を巡らせていたのだろう、木澤さんが不思議そうにこちらを見ていた。



「菊池さん、何か気になることでもありましたか?何かありましたら、私の知っている限りではありますがお答えしますよ!」


「いや、少し考え事をしていただけですよ。お気遣いありがとうございます、木澤さん。それよりも、第十三ダンジョン『黒雨』の攻略で木澤さんに何があったのですか?」


「そうですね、その話でしたよね……ごめんなさい、さっき決心したはずなのにやっぱり少し怖いみたいです。だから長々と別の話題で先延ばしにして……せっかく菊池さんと仲良くなれたのに、この話をしたら嘘つきだと言われ、嫌われてしまうと思って……でも、そうですね!話さないと何も始まりませんね!よし、頑張れ私!」



 どうやら、木澤さんはずっと葛藤していたようだった。出会ったときは、気弱な演技をして騙す小悪魔のような子だと思ったが 、本当の彼女はそうではないのだろう。



 心の中で、『頑張れ、木澤さん』と叫ぶ。



 そして、木澤さんは第十三ダンジョン『黒雨』の攻略で起こった、彼女が裏切り者の魔法少女と呼ばれるようになった事件について話し始める。

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