第3話 おっさん、裏切り者のホームレス魔法少女から学ぶ



「了解です!じゃあ、まずどこから説明するか決めないとですね。菊池さんは、魔法少女についてどこまで知っていますか?」


「本当に申し訳ないのですが、魔法少女についてはおろか、ダンジョンについての知見すら全くないものでして……。もし木澤さんがよろしければですが、そこから説明していただけると……」


 

 魔法少女についての知識など、せいぜい魔王から能力を与えられた女性を、誰が言い出したかそのように形容し始めたということを知っているぐらいなものである。あと、彼女が裏切り者の魔法少女と呼ばれていることをニュースで少しだけ目にした程度だ。


 魔法少女についての知識をこの程度しか有していない人間が、同じく能力を与えられた男性の形容である勇者、そして彼らに能力を与えた存在である魔王、その魔王が巣食うダンジョンについて詳しく知っているはずがない。


 我ながら社会性の欠片すらないなと感じる……



「わーお!そこからですか。まあ、確かに興味がないことってあんまり知らないものですから、しょうがないですよ。それにしても、興味が全くない人にも知られてる私って……こんな形で有名になんてなりたくなかったですねぇ……」



 あっ、なんかフォローしてくれた。優しくされて嬉しいような、同情されているようで恥ずかしいような……

 あと、最後の方木澤さんの顔死んでたな。確かに、興味・関心・知見ほぼ無しのおっさんにすら認知されていたら、彼女のことを知らない人間の方が少ないだろう。何だか可哀想だなと思う。



「私は木澤さんのこと信じたいと思っていますよ。話次第ではありますが、少なくとも全員が敵ってことにはならないと思うので大丈夫ですよ」


「はい、ありがとうございます!やっぱり菊池さんは優しい人ですね」



 お互いに同情の仕合いのような形になってしまった。なんだろう、傷の舐め合いをしている猫のような気分だ。だが、悪い気はしないな。



「よし!気分も良くなったし、説明を始めますか!まずは、ダンジョンについて話しますね!」


「よろしくお願いします、木澤さん」



 それから、木澤さんはダンジョンについて語り始めた。



「はい、まずですがダンジョンを簡潔に言い表しますと、魔王の住処兼遊び場です」


「なるほど、魔王の住処であることは分かりました。ですが、遊び場?ですか?」



 その言葉を聞いて疑問符が立ち並ぶ。遊び場という言葉が、魔王という存在に対して幼稚に聞こえたからである。もし仮に魔王の目的がダンジョンで人間を痛めつけることであり、その様がまるで赤子の手をひねるかのようであったならば、その言葉選びは適切であると言える。


 だが、そうではないと断言できる。何故なら、魔王が全ての人間に仇なす者ものであったならば、もっと魔王の危険性について周知されているはずである。でも、実際はそうではない。このことから、少なくとも魔王はダンジョンの外に害をもたらす存在ではないことが分かる。それ故に、遊び場という言葉選びに引っかかりを覚えたのだ。



「はい、遊び場です!魔王たちが自分でそう言ったみたいですよ!」



「えっ!?魔王と話した人がいるんですか!?というか、自分で遊び場って言ったんですか!?」



 流石に驚きを隠せなかった。魔王と呼ばれているぐらいなのだから、自分の要求だけ突きつけて、自分勝手に動いているものだと思っていた。だが、実際はそうではないのかもしれない。遊び場と言うぐらいなのだから、意外と人間に友好的な存在であるのかもしれない。



「いや、会話というよりは、意思の伝達?ですかね。魔王たちが初めて姿を現したときに、伝えることだけ伝えてそのままダンジョンに引き籠もっちゃったみたいで、今は意思疎通がほとんどできていないみたいですよ」



 訂正しよう、魔王という存在はやはり自分勝手な存在だった。



「そうなんですね、そんなことがあったなんて全く知りませんでした。この調子だと、多分ほとんどの話に質問をしてしまいそうなので、一度木澤さんの話を通しで聞いてみたいと思います」



 このまま質問と回答を繰り返していたら、一向に話が進まないだろう。質問は後でまとめてすればいいのだから、今は聞くことに専念した方が効率的である。もしかしたら、話の中で回答が出てくることだってあるだろう。タイム・イズ・マネーの精神である。



「分かりました。では、続きを話していきますね!」



 それから、木澤さんの話は続いた。


 その話を一つ一つ集中して聞いていたが、それらの話に対して沢山質問したいことが出てきたため、改めて聞き専に回ったことは英断であったと思った。


 木澤さんの話をまとめると、こうである。



 ──5年前、突如として魔王を自称する者たちが現れ、東京に二十のダンジョンを創造した。さらに、魔王は人間がダンジョンに挑むことができるようにと、魔王側が勝手に選んだ者に対して能力を与えた。


 その日、日本は滅亡の危機にひんしていると大混乱に見舞われたが、魔王側の要求が『ただ人間たちと戯れたいだけ』であったことや、『ダンジョン内外問わず、殺し合いや傷つけ合いの類をする気はない』という魔王の意思が世に広まり、世間の関心は魔王たち、ダンジョン、力を与えられた者たちに移っていったという。


 まず、魔王たちは異世界から来たらしく、気がつくと東京にいたのだという。よく分からない土地でヤバそうな奴らが一堂に会するという地獄絵図であったため、最初は一触即発のような状態に陥ったようだが、話をすると皆帰り方が分からず困っているとのことだったため、とりあえずダンジョンを作り、そこに住みながら帰り方を模索するということになったのだと魔王は語ったという。そのため、ダンジョンは魔王たちの住処であり、人間たちと戯れるための暇つぶしの場所なのだとか。


 次に、ダンジョンは先述した通り魔王のお家であり遊び場である。ダンジョンの中には魔王が生み出した魔物がおり、魔物を倒すと宝石がドロップする。また、魔王曰くダンジョンらしさの追求として、宝箱やトラップなんかも備え付けられている。そして、極め付きにはダンジョン内で死亡してもすぐに外に転送され、更には蘇生、負った傷すらも綺麗さっぱり無かったことになる。おまけに傷を負ったときの痛みはなく、代わりにダンジョン内でのみ見えるようになるHPバーが減少する仕組みとなっている。

 この至れり尽くせりな対応は、魔王たちによる遊んでくれる人間たちへのおもてなしの表れであり、殺し合いや傷つけ合いが目的ではないことの意思表示であった。だが、くだんの魔王は現在ダンジョンに引き籠もっており、面会も謝絶している状態なのだとか。


 最後に、魔法少女と勇者についてだが、この呼び名はどこかの誰かがそう呼び始め、今では一般的にもそう呼ばれるようになったという。魔王に能力を与えられた女性を魔法少女、男性を勇者と呼ぶそうだ。また、彼らのほとんどはダンジョン探索者として活動しており、国からの委託としてダンジョン内の調査や攻略を行ったり、ドロップした宝石や宝箱の中身を売ることで生計を立てているのだという。最近では、ダンジョン配信者ならぬものが一大ブームになっており、母数が少ないためすぐに人気配信者になれてしまうそうだ。



「どうでしたか?菊池さん。ダンジョンや魔王、そして私たち能力者について分かって頂けましたか?」


「そうですね、ざっくりとですが理解できたと思います。木澤さんの説明が丁寧でしたので、とても助かりました」


「そう言って頂けて嬉しい限りですよ!そう言えば、質問とかってありますか?」


「いや、気になったことはいくつかありましたが、後にしておきます。それとですが、木澤さんのお陰で人並みの知識を得ることができました、本当にありがとうございます」


「いえいえ、こちらとしても本題に入る前に知っておいて貰わないといけないなと思っていたので。では、本題に入りますか……」



 彼女はほぞを固めたようだった。



「分かりました。聞きたいことができても、最後まで黙って聞いていますね」


「そうして頂けると助かります。では、話しますね……」



『何故私が裏切り者と呼ばれるようになってしまったのかについて』



 彼女はこの真実について語り始めた。

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