後編:友人夫婦の新しい家族

 牧場のような広々としたドッグランに辿り着いた私達は早速、愛犬と駆け回っていました。


「ほら、ソル君! おいでおいで〜!」


 私の掛け声に応えるように駆け回る我が家の愛犬・ソル君。その後ろには友人の愛犬・フクちゃんとコウ君の姿もあり、そのまた後ろにはまた見知らぬワンちゃん達が笑顔で着いてきています。


(凄い、凄いぞ!! ここは天国……わんわんパラダイスや!!)


 雲一つない青い空と少し冷たい風が気持ち良く、友人の言った通り、めちゃくちゃ良い気分転換になっておりました。


 普段から運動していない私はすぐに息が上がってしまい、大の字で芝生の上に寝転がりました。


 周りには愛犬を含めたいろんな犬に囲まれ、フンフンと身体中の匂いを嗅がれていましたが、どの子も犬特有の匂いがなく、毛も艶々。大事にされているのが一目でわかりました。


(あぁ、めっちゃ癒される……。一ヶ月もの間、朝の九時から夜の二十時まで残業で、オフィスに缶詰の状態やったんや。テレワークも始まっても体調改善せんかったら小説もエッセイも書かれへんし。そうなったら色々考えんとなぁ……。けど、自分の生活もあるしどうしたものか……。とりあえず、仕事は覚えてきたからもう少しだけ辛抱しよ)


 私は優しく愛犬の身体を撫でながら、「ごめんなぁ」と謝りましたが、ソル君は長い舌を出したまま終始ご機嫌な様子でした。


 長時間仕事に出ている間、ソル君も狭い寝床に缶詰になって窮屈な思いをさせているのです。久しぶりに愛犬の笑顔が見れて本当に嬉しく思ってるのも束の間、事件は起こりました。


「ギャンギャンギャンギャン!!」


 突如、ドッグランに響き渡る犬の悲鳴。声の元を辿ると、生後四ヶ月のトイプードル・コウ君が友人の足元で叫び散らしていました。


 ドッグランにいたワンちゃん達も『どうした!? 何があった!?』と驚き、友人の周りにはあっという間に三十匹以上の犬が集まりました。


「どうしたん!?」


 友人は私達の問いかけに返事をする余裕がないようで、コウ君の右足を摩り続けています。状況を察するに、友人が飼い犬であるコウ君の足を踏んでしまったようです。


「俺、コウ君の足を踏んだ感覚なかったんやけど……。でも、痛いから鳴いてるんやんな。ごめん。ごめんな、コウ君……」


 心配そうな顔でコウ君に謝り続ける友人。その間もコウ君は「ギャンギャンギャン!!」と悲鳴をあげ続けています。


 友人達の側に集まった犬は三十匹から五十匹程に増えておりました。勿論、愛犬のソル君も心配そうにキュンキュンと鳴き続けています。


「怪我したのがうちの犬で良かったけど、骨折とかしてたらどうしよう。今日、日曜日やけど診てくれる所あるかな……」

「今から探そう! かかりつけの病院は休みやから、近くの病院探して電話するわ!」


 友人夫婦はオロオロとしながらも、いくつかの動物病院に電話をし、現在地から一時間程の距離にある動物病院を受診することになりました。


◇◇◇


 お開きになって数時間後――。


『あ、もしもし。今日はご迷惑をおかけしてしまって、すみませんでした』


 主人が車を運転している途中、友人から電話がかかってきましたので、助手席に座っていた私はスピーカーをオンにした状態で応答ボタンを押しました。


「こっちは大丈夫やから気にせんでええよ! それより、コウ君は大丈夫なん? やっぱり骨折してた?」


 あれだけ大きな声でギャン泣きしていたのです。

きっと足の骨が折れている――そう思っていたのですが、友人の口から出てきた言葉に私達は驚く事になりました。


『いやぁ、それが骨折してなかったんです』

「お、良かったやん! じゃあ、酷い捻挫やった感じ?」

『えぇっと、捻挫でもないですかね。アハハ……』

「んん? どういう事? 怪我してなかったって事?」


 そう聞くと友人は長い沈黙の後に『……はい』と肯定し、堪えきれなかったのか軽く吹き出したのでした。


『先生曰く、大した怪我もしてないそうなんです。例えるなら、タンスに小指がぶつけてしまった……みたいな感じですかね。あの時はコウ君が大袈裟に痛がってしまったみたいで、無理やり怪我名をつけるなら、本当に軽〜い打撲ですね』


 それを聞いた私達も安堵からか吹き出してしまい、「酷い怪我じゃなくて良かったやん!」と友人夫婦を励ましたのでした。


 確かに人間でもタンスに小指をぶつけたら悶絶するくらい痛い時があります。それにコウ君は生後四ヶ月なのです。初めて経験する小指の痛みに悶絶してしまった――それだけなのです。


 とりあえず、骨折してなくて良かったと思った一件なのでした。

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ドッグランは最高の癒しとほんの少しの危険で溢れている。 梵ぽんず @r-mugiboshi

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