僕ドローン

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【ドローン】 無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる航空機の総称


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昨今の人手不足が家庭にも波及した結果、


僕はドローンに改造された。


── 元カノに。


元カノは急に“キスがうまいだけだった僕”に仕返しがしたくなったらしい。


悪意のある改造も魔改造って言うんだろうか


どうだろうか。


一応、会社員は続けているので、兼業ドローンといったところか。


もちろん僕はドローンなので、必要に応じて元カノに遠隔操作される。


その際には心が空っぽになったような気持ちになるので、『無人』という定義にも当てはまるんじゃないだろうか。


平社員の僕は会社でもいろいろとパシられる日々。


それなのに元カノがいちいち勤務中に僕を飛ばすので、ぜんぜん仕事にならない。


課長には「ドローンだからってドロンばっかじゃ困る」と怒られる毎日。


笑うとこかと思って笑ったら課長キレた。


空中にばっかいると空気も読めなくなる。


そんな飛ぶ“撃沈”くんな僕に社内でそっと優しい言葉をかけてくれる唯一の存在。それが新人のエミちゃん。


「ワタシって、ドローンな感じの人ほっとけないんですよねぇ。いっしょに乗り越えましょ❤️」


「う、うん」


それだけが慰め。


ここはキスがうまいだけの僕を存分に発揮して……、


エミちゃんが差し伸べてくれた手に僕が触れようとすると


──体が浮いた。


「エミちゃーーん」


「せんぱーーい」


と、大衆演劇っぽく引き離されていく僕ら。


しかも上昇時は背広の襟首が持ち上がってカッコ悪いのだ。


結局僕はドローンとなって元カノが今さっきネットで見て気になった商品を実際に見に行かされた。


甘い思いは絶対にさせてはもらえない。


やっと会社に戻ってくると、社内がざわついている。


同僚の話によると、なんと、エミちゃんがクレーマーに泣かされているとのこと。


なんだって!


僕が盾になって守らねば‼︎


受付へと急行。


そこにはすごい剣幕で捲し立てているお客さまとすすり泣くエミちゃん。


もういいからと僕はエミちゃんを奥へやり、対応を代わる。


こういう場合は低身低位ひたすら謝るの一択だ。


僕は日頃磨き上げた謝罪美を発揮すべく「まことにもうしわけ……」と始めようとしたら、


──体が浮いた。


マジかんべん💦


どんどん上昇する。


それでも「高いところからスイマセン💦」と謝りまくるしかない。


「高すぎんだよ、ばかやろう💢、謝る気あんのか💢」


と、ごもっともなお怒り。


ほんとーーに高いところからスイマセーーン😭


なんとかその場を収めて一息。


終業時になり、エミちゃんが僕のところへ。


エ「ありがとうございます」


僕「いいんだよ、あーゆう汚れ役は僕みたいなのが一番なんすよ」


エ「あのーもしご迷惑じゃなければ、お礼に今夜、お食事でも…」


僕「ぜんぜんOK、もーぜんぜんよ」


キス口のまま彼女が差し伸べてくれたその手を取ろうとした時


──あーあ、浮いた。


大衆演劇の最終公演日みたいに華々しく引き離される僕ら。


「エミちゅわーーん」


「せんぴゃーーい」


上昇……。


一気に疲れが出て、もはや自分が上昇しているのか何かに救助されて引っ張りあげられてあるのかわからないくらいだ。


そして家路は瓦解する。


ここからドローンとしていろいろな目にあうのだ。


帰り道恒例の水中ドローン。


水中を爆進させられる。


拷問やん😢 ドローンに人権を……🥺


そしてさらに急上昇して上空のジェット気流で乾燥。風邪ひくわ。


そのあとは低空飛行で元カノのためのお買い物。


買い物便扱いかいっ😿


スーパーのレジは長蛇の列。


でも元カノには関係ない、遠隔操作で僕をみんなの上を飛び越えさせて最前列へ。


その間中、みんなの白眼視に耐えながら、「すいません僕ドローンなんで」とか「僕は僕を動かしてないんで」とか“ききしにまさらない”言い訳連呼。


会計。


さらに帰り道で非情な元カノは飛行禁止区域に僕を飛ばすもんだから軍の対ドローンレーザー照射で危うく死にかけた。


ネクタイが燃えたし。


「ただいまお届けにあがりました〜」


元カノのためにド・ローンという、どぎついローンを組まされた家にお届けに上がる。


応答がないので置き配です……。


その後歩いて自分のアパートに帰宅。疲れたっす。




※この物語はフィクションです




💤  💤  💤  💤





次の日も、同僚たちの刺すような視線に囲まれながら、会社でバリバリ生産性の低い無駄な動き(僕のせいではないです)をしていると、社内にあるテレビを見たエミちゃんが叫んだ。


「せんぱーい、たいへん!」


何事だ??


僕はテレビの前へと急ぐ。


緊急ニュースがやっていて、僕の家の近くで不発弾が見つかったとか騒いでいる(フィクション?)。


たいへんだ。


さらにニュースが伝えるには、爆発物処理班が人手不足でごめんなさいとのこと。


その画面の奥で気になるものが映っている。


── 元カノだ。


現地当局の人と何か話し合っている。


『任せろ』みたいなジェスチャーの元カノ。


やな予感😨


「ただいま速報が入りました!爆弾の処理については民間の力を借りることになりました」


体が浮く。


うぇーん😿ちから貸すなやー


僕ドローンは現場上空へと急行。


ぼ、ぼく自信ないっすけど……


妻からコール。「プロがちゃんと操作するから安心して」とかぜんぜんうれしくねー。




💣  💣  💣  💣




なんとか不発弾処理を終えたあと会社に戻って残業した。


この件で表彰式に出ることになった元カノから何を着ていけばいいと思うかメッセージが来たので返した。


極限のプレッシャーのせいで次の日から熱が出てダウンして、人手不足なのに会社を休んでしまった。


元カノは表彰式やら、ディナーショーやら表敬訪問やらでなにかとバタバタしているんだとか。


へー。


なのに病人の僕に、最低限やっといてほしい家事リストを元カノは送ってきた。膨大な量だ。


とくべつに、家の中の床の上を歩いてもいいとの沙汰あり。


どうも  ありがとう。


もし僕が死んで化けて出るとしてもきっと床の上を歩くことでしょう




👻  👻  👻  👻




何日かして少し良くなったし、家にいるのも辛いので、久々に出社。


きっと課長はカンカンだろうなぁ……。


朝一番で課長のデスクへ。


即座に謝ろうと思ったら……


か、課長……。


課長は浮いていた。


── 課長ドローン。


「実は私もワイフにドローンにされてしまってね」


苦渋に満ちた課長ドローン。


「なんと言っていいやら……」僕は……。


「今は君の気持ちがわかるよ、すまなかった」


「い、いいんすよ、課長」


僕らはそこで手と手を取り合った。


そのあとで頷き合い、自分では押せない背中の位置にある緊急じゆうボタンを互いにポチっと押し合った。


そして輝く僕らはオフィスから飛び立ったのです✨


ドローンが幸せになれる国を目指して……







※このフィクションは物語です

      (次の仕事へ)つづく      

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