5倍デー

つなぎのバイトの少ない給料が出た日の会社帰り、スーパーマーケットのレジにて。


ピ ピ ピ


最近ポイ活にはまっている僕が買い物カゴに入れたものを、新人マークの名札のついた男性店員さんが全てスキャンし終える。


店「ポイントカードはお持ちでしょうか」


僕「あ、はい、あ、あれ?ないな」


店「すいません、キス口になってますよ」


ピピとなぜか僕の唇をスキャン。なんでや。


僕「あっすいません。キスではないです」


店「ちなみに、お客様、本日はポイント5倍デーなので大変お得でございますので」


僕「あ、そうなんですか、はい、あ、ありました」



店「あー、お客様、大変申し訳ございません、ちょっとワタクシ勘違いしておりまして、本日ポイント5乗デーでした、すみません」


僕「えーっ、5乗もしてくれるんですか」


店「もう一度、お借りします」  ピ


店「あー、お客様、5乗いたしましたところですね、ポイント数が全クリになりました。おめでとうございます!」


僕「ぜ、全クリってなんですか⁉︎」


店「全面クリアーですけども」


僕「で、どうなるんですかポイントは」


店「おそらく、1面からになるかと存じますが……」


僕「1面て……なんですか」


店「1-1ですね」


僕「なんですか? それ? ここフツーのスーパーですよね」


店「はい、当店は元々スーパーマリオケットだったのが長い年月をかけてスーパーマーケットになったと聞いております」


僕「なんすかそれ……。もう、なんかややこしいんでいいです。今日の分のポイントいいですから、もうカード返してください」



店「あわわわ、お客様、重ね重ね申し訳ございません。ワタクシ大きな勘違いをしておりまして、本日“お買い物5倍デー”でございましたので、お客様のお買い物が5倍になります」


僕「それって支出増えてないですか?それとも買ったものが増えるんですですか?」


店「そうですね、ニュアンスとしましてはお買い物が5倍楽しめます」


僕「それ買わされてるだけじゃないですか、もうフツーに買い物させてください」



店「あ、お客様、お客様も人が悪い、どうして言ってくれなかったんですか?」


僕「なんですか急に、何をですか?」


店「お客様は今日はお客様5倍デーですよね。ズルはいけませんよ」


僕「なんか悪いことしたんですか、僕」


店「ちょっと店長呼んできます。店長ー、店長ー」


店長「どうしたんですか?」


店「店長、実はこのお客様がお客様5倍デーなのにフツーにお買い物をしようとなさって……」


店長「そりゃーひどい、万引きよりも悪質ですよ」


僕「そんな、僕はただポイントカード出しただけですよ」


店長「ちょっとGメン呼んできて」


店「はい」


Gメン「この人が5倍してるの見たっす」


僕「え? なんですかそれ?5倍なんてしてないですよ、誤解ですよ」


僕は取り押さえられ、取り調べを受けた。


店長「とりあえず、誰か身元引受人の方ににも来てもらいますよ」


僕「そんな、僕、あの元カノにはアパートから追い出されて、それで……」


店長「じゃあ、元カノさんを呼んでください」


ええーー。そしてそんなのダサいっすよー。


電話が繋がった。もちろん元カノは不機嫌だ。


電話の向こうの元カノ「5倍した人だけはお断りよ」ガチャリ。


いったい僕は何をしたんだろう。


店長「まあ、初めてみたいだから、今回は多めにみますけど、次からは即通報しますからね」


僕「あ、はい、すいませんでした」


僕が猛省✖️5をしていると、部屋に先ほどのレジの店員さんが飛び込んできた。


店「あー、申し訳ありません。あの、“お客様5倍デー”だと思ったら、ワタクシの勘違いで、“ポイントカード5倍デー”でした」


店長「なんだー、そうかー、じゃあすぐにお客様にポイントカード4枚お渡しして」


店「はい。どうぞ」


僕「……どうも。で、帰っていいですか」


店「はい、どうぞ」


てか、これ何の時間なん?


僕「じゃあ、失礼します」


店「ちなみに明日は当店、年に一度の“5年デー”を実施しておりますので、ぜひご利用ください」


もういいよ。







             (次の仕事へ)つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る