太陽をつまんだ男


近い将来人間のやる仕事が無くなると聞いてはいたが、まさか職安だけ残るとは思わなかった。


僕は毎日、職安に通っている。


だいたい50億年先まで求人はないといつも言われる。


それでも他にやることがないので日々通っている。


こんなにマメに通っているのなんてもう地球上で僕くらいなものだろう。


もちろん職安の人だってボランティアみたいなものだ。


そんなある日、焼けつくような暑さの日。


ついに仕事の話が出た。


50億年先に役に立つ仕事ならありますよと言われたのだ。


“太陽の寿命がきて大爆発しても太陽系が大丈夫なように太陽をダイソン球で覆う仕事”


つまりはそういうものらしい。


「50億年も先に役に立つことが急募なんですか?」


「ええ、大至急人手が欲しいみたいです」


「それにそういうのって遠隔操作とか自動建築で行うんじゃないですか?」


「太陽には人工知能は近づけないらしいですよ、人工知能見知りするみたいで……。だから人じゃないと近くに寄れないんだそうです。詳しくは分かりませんが」


「そんな、子供騙しもいいとこですよ」


「まあ、そう言わずに。よく太陽みたいな人とか、太陽みたいな存在とかって言うじゃないですか。太陽ってきっと太陽みたいなんですよ」


「そうでしょうね、きっと」


あまりにも危険すぎる。


少しムッとして僕が席を立とうとすると、


彼はさっと、この仕事の報酬例を見せてからまた机の中にしまった。


とんでもない額だ。しかも今品切れ続出の家庭用太陽(家庭で手軽に使える太陽)まで付くなんて。


「やりましょう」


即座に僕はそう言った。




☀️ ☀️ ☀️ ☀️





ダイソン球という巨大な建築物で太陽を包み込む

その仕事は『宇宙組』という土建屋が地球から請け負っていた。


よくもまあ絶滅せずに事業所というものが存在していたものだ。


工程的には、サグラダファミリアの人たちに引き継いでもらった方が良さそうな感じのものだ。


「いやー、今日も暑いねー」と毎秒言ってる現場。


現場監督が手に持っている顔扇風機が羨ましい。


新たに開発された、『太陽の近くでもそんなにダメージがないクリーム』を体に塗ってはいるものの、やはりきつい。


のっけから申し訳ないが、無重力朝礼だと全く誰も話を聞いていないというか聞けない。


無重力ラジオ体操で1名、体を痛めてしまい、運ばれた。


「ゼロ災でいこー、よし!」


「ゼロ災でいこー、よし!」


僕も復唱する。


さあ、いよいよ仕事だ。


まずは太陽の周りに足場を組んでいく


無重力なのに。


太陽の近くで日焼けしているセレブの人たちから騒音がうるさいと苦情が入る。


宇宙なのに。


艱難辛苦を乗り越え、夜に日を継ぐ作業の末(宇宙にコンプラないです)予定より49億年以上早く完成した。


「よーし、完全に覆ったぞ!」


「やっぱなんとなく涼しいな」


「あーっ!大変ですっ。1箇所太陽がはみ出てます」僕は見つけてしまったのだ。よっちゃんイカくらいのフレア。


「押し込んどいて!太陽見えなくなってからのは全部深夜割増で給料だすから」


「は、はい」


僕はその部分の太陽をちょっとつまんでから、押し込んだ。


その際に軽い火傷をしてしまい労災の対象になった。


流石に特殊なクリームを塗っていても触るとそうなってしまう。


太陽に触って火傷した跡とかを飲み屋で女の子に見せるとすごくモテるんだぞと先輩が言ってくれた。


僕は火傷した指先の部分を宇宙を使って冷やした。


労基のひとがはるばる地球からやってきて、色々調べていた。


労基の人は、最終的には太陽に対して改善命令を出して帰った。


僕はこれからも宇宙に住み込みで働いていくつもりなので、おそらくは次は火星の現場だろうとのことだった。火星なら遊ぶところがいっぱいあるそうだ。地球でモテなかった僕が宇宙でモテることってあるんだろうか。男なら一度はモテててみたいものだ。忘れたころに指先がまたズキズキした。




※追記⇨火星ではまだキスは禁止されていたので、キスがうまいだけの僕は地球へと強制送還される。








             (次の仕事へ)つづく

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