第37話「そうだ! 俺達はもう無能ではない! 認め、評価してくれる人々が居るんだ!」
「お~い! こちらは王都衛兵隊だあ! 賊の捕縛を魔法鳩で通報してくれた、冒険者クランステイゴールドとは君達かああ!!」
と大声を張り上げる衛兵の声が響き渡った。
補足しよう。
この世界において、各国の騎士隊、軍、衛兵隊の出動には一定のルールがある。
例外やローカルルールも一部あるが、まず治安を脅かす大元、原因、内容、
また相手の規模により、騎士隊、軍、衛兵隊の使い分けがされている。
まず騎士隊は、王族、貴族直属の精鋭部隊。
王族、貴族から直接の命令を受け、治安維持、治安向上を担う。
当然だが、敵方の数が圧倒的に多かったり、強力だったりした場合、
騎士隊に続き、軍も合わせて、出動する。
軍出動の最終判断を下すのは国王などトップなのだが、
大体が宰相か、軍、衛兵隊を統括する将軍など、実務部門の長が出動の判断を行う。
それ以外は、町村に設置された衛兵隊が、治安維持、向上の活動を行う。
衛兵隊は、衛兵隊長が率いて、
本部が設置された場所から一定の範囲内を担当する事となる。
今回ロック達が通報した王都から5㎞地点は勿論、
100㎞前後までが王都衛兵隊の担当なのだ。
話を戻そう。
衛兵達の総勢は20人ほど。
イケオジのリーダーらしき衛兵が率いている。
対してロックも手を振りながら、
「は~い!! ここに居ま~す!! 俺達が冒険者クランステイゴールドでえすす!!」
と声を張り上げ、すっくと立ちあがった。
「グレゴリーさん、行きましょう」
「はい!」
という事でふたりは衛兵達の下へ赴き、それぞれ名乗り、
ルナール商会から依頼を受け、ピオニエ農場、コルヌ牧場へ移動中だと、
まずはシンプルに目的と状況を説明した。
対して、衛兵隊の反応は、意外であった。
何故たったふたりで、ここまでの賊、魔物を倒す事が出来たのか?と、
根掘り葉掘り尋ねられるかと思ったが……イケオジ30代後半だろうか、
衛兵隊を率いるリーダーが言う。
「おお! ロック・プロスト君に、グレゴリーバルト君! 自分は王都衛兵隊副隊長のブリス・エリュアールだ。君達が冒険者クランステイゴールドのふたりか! 実は先日、アガットの衛兵隊本部から連絡があってな!」
という言葉から始まり……
ロックとグレゴリーが捕縛したルナール商会アガット支店押し入り強盗どもの事件、
そしてアルレットを暴漢3人から救ったふたつの事件報告があった事。
アガットの衛兵隊本部曰はく、
冒険者クランステイゴールドのロック、グレゴリーは、
見た目は平凡陰キャ?と暑苦しいムキムキ男?だが、
「内面は凄くすがすがしい勇敢なふたりの若者達だ!」と。
そんな話を聞き、「そのふたりにちょっと会ってみたいな」と、
「王都の衛兵隊本部で話題になっていたところだった」
とブリス副隊長から、フレンドリーな口調で告げられたのだ。
「隊内で皆が噂をしていれば影って奴さ。だから君達の魔法鳩便による緊急通報があって、大至急で出動したよ」
「そうだったんですか。大至急とは、すぐご対応して頂き、凄く助かりました。本当にありがとうございます」
「いやいや、こちらこそだ。本当に良くやってくれた! 凶悪な賊どもを、これだけ大量にかつ簡単に逮捕出来て助かったよ。この付近の治安も良くなったと思う」
「それは良かったです」
「うむ! 噂というものは尾ひれが付き、たくさん話が盛られておおげさに伝わる。君達の噂も話半分だと思っていたら、このとんでもない結果だ」
「え? とんでもない、ですか」
「うむ、悪い意味ではなく良い意味さ。
「巷の噂は本当だった、ですか」
「ああ! アガットの衛兵隊本部は言っていた。まだ冒険者ランクが低い20歳前後の若者達が怪我も無く無傷で、ルナール商会の支店へ押し入った凶悪な強盗どもを、あっという間に無力化し、あっさりと人質の安全を確保し、無事解放したと」
「はい、大体おっしゃった感じです」
「そうか! 更に君達はその後、アガットの街中で3人の暴漢に襲われ、拉致されかけた女性を同じように助けたとも聞いたぞ。アガット衛兵隊だけではなく、町の住民も君達を英雄と称えていたと」
「ははは、英雄なんて、何か大げさに伝わっていますね」
「いやいや、全然大げさではない! 今回の件で噂は真実だと我々も確信した。
我々はここへ来るまでに身動きが出来ない賊を30人、何の苦労も無く逮捕した。だが賊どもを行動不能とした君達はと見れば全くの無傷。素晴らしいのひと言だ」
「ですか」
「ああ、ここへ来るまで各現場には戦った痕跡があったが……賊どもにはけが人が誰も居らず、死骸も全く無かった。もしかして賊や魔物を倒した後、死骸の処理は葬送魔法でも使ったのかい?」
「はい、魔物はそうですね! しかし、とどめを刺す必要が無かったので賊はひとりも殺していません。アガットの時同様、全員行動不能としましたよ」
「成る程! そうか!」
「はい、不可抗力や必要でなければ、賊にとどめは刺しません」
「うむ。で、どうやって賊どもを無傷で捕らえたのか、詳しい話を聞かせてくれるかな?」
「はい、分かりました、ブリス副隊長。但し申し訳ありませんが、お話し出来る範囲内で」
「ああ、分かった。魔導法があるからな」
補足しよう。
この世界には魔導法という各国共通の法律が定められている。
基本的には魔法、スキルを使う術者の奥義を秘匿させる為の法律だ。
つまり術者が自身の手の内をどうしても隠したい場合、
黙秘する権利が公的に認められているのだ。
但し、自身が犯罪を犯した場合は除かれ、魔導法を盾にする事は認められず、
衛兵などの官憲から、徹底的に追及される。
なので今回のロックのケースは魔導法を基にし、
聴取に応じて構わないという事となる。
ロックは、経過と結果をなるべくシンプルかつ分かりやすく話そうと決めた。
自分の魔法、スキルの詳しい説明、
またウスターシュが譲ってくれた魔道具第1号第2号装備の事等々は、
一切話さないつもりだ。
「はい! 自分ロック・プロストが索敵にて事前に賊、魔物の存在を捕捉。遠距離魔法射撃で威嚇した上、接近。威圧のスキルで行動不能とし、その隙に捕縛しました。その繰り返しですね」
そしてグレゴリーも同じく必要最小限のコメントだ。
「はい! 自分グレゴリー・バルトはリーダーロックの足となり、彼を背負いながら戦いました。捕縛方法はリーダーが述べた通りです」
更にロックが補足。
「ちなみに魔物はゴブリンが数多出現しましたが、賊と同じように威圧し、更に数体を倒し、葬送魔法で灰にしました。以上です」
「……うむ、成る程! ロック君、グレゴリー君、改めて言おう! 我がプラティヌ王国の治安向上に貢献してくれてありがとう!」
「いえいえ、目的地へ行く途中、必要やむなくですから」
「リーダーの言う通りです」
「いやいや本当にお疲れ様だったな! ふたりとも話の筋は通っている。それ以上の情報は我々衛兵隊には不要だろう」
「分かりました、ブリス副隊長。お気遣い頂きありがとうございます」
「そちらこそ、わざわざいらして頂きありがとうございました」
「後程、冒険者ギルドへはこちらから報告を入れておく。アガットの件もあったし、合わせ技ではないが、今回の事も含め、衛兵隊から治安維持、向上の協力金として、報奨金を支払おうと思っているよ」
ブリス副隊長はそう言い、にっこりと笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで、事情聴取は終わり、
ブリス副隊長以下衛兵隊20人は王都へ戻る事に。
逮捕した賊は全て数珠繋ぎ。
全員を王都へ連行し、犯した罪をはかり裁きを受けさせるのだ。
ブリス副隊長が言う。
「再度の確認だが、先ほどの話だと、クランステイゴールドは、ピオニエ農場、コルヌ牧場へ行くんだったな?」
「はい、警備もろもろの仕事です。最初にピオニエ農場、次にコルヌ牧場へ行きます」
ロックがあいまいに答えれば、ブリス副隊長はうんうんと頷く。
クライアントとの契約もあり、
依頼内容は簡単にはしゃべれないと知っているのだろう。
「うむ、警備か。ピオニエ農場、コルヌ牧場、両方とも以前に盗難届が出ていて、当衛兵隊も何回か、出動した事がある。何かあればすぐに魔法鳩便で連絡を入れてくれ」
と言い、更には、
「礼儀正しく、誠実な君達ならば、必ず難儀する人々の助けになる働きが出来る。そして、この勇敢さならば、たとえオークが群れで出現しても、臆せず戦えるだろう。但し! 依頼遂行は大事だが、決して油断せず命を一番大切にな」
振る舞い、実力を認められ、最後は心配までされてしまった。
「ありがとうございます、ブリス副隊長。おっしゃって頂いた事をしっかりと胸へ刻み、油断せず、頑張りたいと思います」
ロックが礼を言うと、ブリス副隊長は満足そうに微笑んだ。
他の衛兵達も皆、笑顔である。
「おう! 頑張れ! ロック! グレゴリー! 立場上、
更に! エールまで送られてしまった!
アガットの町民、衛兵隊だけではなく、
王都衛兵隊の心もつかんだロックとグレゴリーである。
「失礼します!」
「失礼します!」
ふたりは深く一礼し、街道を歩き始めた。
背後からはすぐ去らず、衛兵達が整列し、びしっ!と敬礼。
ふたりを見送る気配がする。
ブリス副隊長の言葉を聞き、感極まったロックは目頭が熱くなった。
そして突如、心の中に、前職クランラパス、クランリーダーの声が甦る。
……俺の評価も含め、君は戦力外と決定したんだ。ウチのクランでは使えないとね。
……君を雇ってはみたが、はっきり言って、期待外れだった。
……つまり君はどの役職も不適格。冒険者には全く不向き、資質、適性が全くない。
そして、自分が嘆く声も……はああ……ダメ出しの更にダメ出しって事ですね。
そう、俺はラパスのクランリーダーにダメ出しされ、
自らも才能の無さを認めたんだ。
しかし!
クランリーダーの目も俺の目も節穴だった。
諦めず、このままでは終われない! とあがいていたら、
努力の結果なのか、俺の中に眠る未知の力が目覚め、覚醒した。
その後、俺の欠点を補い、助け合うグレゴリーさんとも巡り合った。
新たな師となったウスターシュさんも加わり、俺達は巻き返しつつある!
皆の力を合わせ、弱みを強みに変えたんだ!
そしてリディさんを始めとしたルナール商会の方々、
王都の衛兵達、アガットの人々が認め、俺達を称え、応援してくれる。
大いに期待してくれている!
そうだ!
俺達はもう無能ではない!
認め、評価してくれる人々が居るんだ!
やるぞ! やってやる!
ウスターシュさんの言葉ではないが、
俺が! 俺達が! この世に生きた
そう思ったロックがちらとグレゴリーを見やれば、
彼も同じ気持ちだったのか、決意を秘めるような強い眼差しであった。
しばし歩き、衛兵隊が撤収する気配がした。
通常モードへ戻る頃合いである。
「よし! 行きますか! グレゴリーさん!」
「行きましょう! リーダー!」
決意を新たにしたふたりは、いつもの仕様……
ロックがグレゴリーに背負われて、再び街道を力強く進み始めたのである。
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