第36話「お! 衛兵隊が来てくれたようです」

王都からたった5㎞しか離れていない街道上で、

5人の強盗を行動不能にしたロックとグレゴリー。


事前に通報してあるから、まもなく衛兵隊が強盗を捕縛に来るであろう。


と、そこへ、ゴブリンが10体ほど現れ、様子をうかがっていた。


動けない人間どもを見て、絶好の『餌』ゲットチャンスだと考えたに違いない。


当然、索敵で忍び寄るゴブリンどもの存在を認識していたロックは、


しばらく放置した後、ぱっと風弾の魔法杖を抜き放ち、


どしゅっ!どしゅっ!どしゅっ!どしゅっ!と威嚇、


見せしめにと、1体だけ、どてっぱらを撃ち抜き、あっさり倒した。


撃ち抜かれたゴブリンは呆気なく息絶え、無残なむくろをさらし、

他のゴブリンどもは、大げさに悲鳴をあげ、逃げ去った。


更にどしゅっ!どしゅっ!どしゅっ!どしゅっ!と、

もう来るな!と言わんばかりに、ゴブリンどもを追い立てるように威嚇。


逃げ去るゴブリンどもを笑みを浮かべて見送ったロック。

倒した死骸1体は第2号装備の超魔導葬送魔法杖を使い、灰にした。


補足しよう。

葬送魔法とは主に創世神教会の司祭が行使する魔法。

死者の魂を昇天させる術がメインだが、

死骸が不死アンデッド化せぬよう灰にもしたり、

不死者に対し、対抗するべくダメージを与える魔法だ。


さてさて!

ロックは、ふうと息を吐き、行動不能となった5人の強盗どもへ振り返る。


「おい、強盗ども! 俺達がゴブリンどもを威嚇し、追い払わなければ、今頃、襲いかかって来たところだな。そしてお前らは生きたまま喰われる!」


ロックがそう言えば、5人の強盗は動けないまま震えあがり、

声の無い悲鳴を上げた。


そんな5人へ更にロックは言う。


「お前ら、良く聞け。俺達は冒険者クランステイゴールドだ。もう間もなく、王都から衛兵隊が来るだろう。しっかりと心の底から反省し、犯した罪を償え!」


きっぱりと言い放ち、


「では……俺達は行くからな」


ロックの言葉に反応し、グレゴリーは背を向けた。


ぱっと『魔導しょいこ』に乗り、ロックはハーネスを締める。


グレゴリーに背負われたまま、賊どもへ告げる。


「さっきの人喰いゴブリンどもが戻るのが先か、王都からお前らの逮捕に向かっている衛兵隊が来るのが先か、せいぜい祈るんだな。生き残るのはこれからの心がけ、そして運次第だ」


ロックは賊どもに告げると、グレゴリーを促す。


「では、グレゴリーさん、行きましょう」


「はい!」


という事で、ロックとグレゴリーは現場を離脱。


置いて行かれ、すがるような、強盗達の視線を感じる……


ゆっくりと歩きながら……グレゴリーが心配そうに言う。


「ロックさん、あいつら大丈夫っすかね? あんな外道な奴らでも万が一、戻って来たゴブリンどもに無抵抗で喰われると思うと寝覚めが悪いです」


「ははは、多分、大丈夫です」


「え? 多分、大丈夫なんですか?」


「はい、俺達が現場へ移動、話して時間を稼いでいる間、召喚した超魔法鳩が既に衛兵隊本部へ到着したみたいですよ」


「え? 本当ですか? 早いですね! でも何故、分かるのですか?」


「ええ、現場が王都に近い事もあり、衛兵隊がすぐ対応してくれたのでしょうね。何故分かったのかといえば、既に王都正門を出て、こちらへ接近する衛兵達の気配を、はっきりと感じましたから」


「う、うお! す、凄いっすね! さすが段取り上手のロックさん!」


「いえいえ、ゴブリンどもは結構遠くへ逃げたみたいですし、万が一戻って来たとしても、衛兵隊の方が先に到着するでしょう。上手く行って何よりです」


「ですか! 良かったあ!」


「ですね!」


「でも、ウスターシュさんの魔道具の数々、第1号装備の超魔導夜間兼用望遠鏡! 同じく超魔法鳩召喚魔法杖! そして第2号装備の超魔導威嚇&束縛魔法杖! どれもこれも皆、凄いっす! これからの依頼遂行に本当に本当に役に立ちますね!」


「ええ、そうですね。ウスターシュさんの魔道具はまだまだたくさんありますし、俺達にとって大きな力になりそうです」


「おお! まだまだたくさんですか! ロックさん、ありがとうございます! ウスターシュさんみたいな良い方を仲間に入れて頂き本当にグッジョブです! これからも新たな人材確保、優秀な方のスカウト! 何卒宜しくお願い致します!」


「了解です! ちなみに超魔導威嚇&束縛魔法杖はいくつか本数があって、ひとつはオフィスへ置いて来ました。ウスターシュさんひとりでは不用心なので、自衛用です」


「成る程! ならば俺もぜひ欲しいです! そして使ってみたいです! 超魔導威嚇&束縛魔法杖!」


そう!

この世界の生きとし生ける者は誰でも体内魔力があり、

魔法使いでなくとも、適応した魔道具を使えば、魔法を行使する事が可能である。

つまり戦士冒険者であるグレゴリーも、

超魔導威嚇&束縛魔法杖を使用する事が出来るのだ。


「了解です! 念の為、言いますが、元騎士の現戦士が魔法杖なんて、卑怯だ、いかがなものかと、非難されたりはしませんか?」


「そんな非難はスルーします。無視一択です。確かに俺は元騎士ですが、もう戦士冒険者ですし!」


「ですが、グレゴリーさんの好きな打撃武器でもありませんが」


「構いません!」


「この先、賊や魔物が出たら、少し射撃練習しますか?」


「ぜひ!」


「では、1本お渡ししておきます。但し必ず俺の指示に従って使ってくださいね」


「わっかりましたあ!」


笑顔で返事をしたグレゴリーは、また勢い良く走りだしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で、引き続き、街道を進む、ロックとグレゴリー。


出来るだけスムーズに依頼された仕事場所へ到着したい。


しかし、アガット往復輸送の時と同様であった。

否、もしくはそれ以上かもしれない。


更に20㎞ほど進んだが……


物陰に潜み、旅行者をつけ狙う山賊、追いはぎ。

数を頼み、群れで襲って来るゴブリンども。


ロックとグレゴリーも戦いの経験を積み、充分な対策を立て、

実戦に備えた訓練を徹底している。


ロックの相手の全てを見通す索敵スキル、正確無比な魔法射撃。


グレゴリーの人間離れしたスピードと底知れぬ持久力。


更に百人力どころか、千人力、万人力以上たる

ウスターシュとその付呪魔道具達も加わっていた。


油断は禁物ではあるが、よほど数が多かったり、

想定外の敵でなければ、負ける要素は無い。


そもそもロックの索敵スキルにより相手への分析を行えば、

正面からの戦いを避けたり、奇襲を仕掛ける事も可能だ。


ロックは勿論、グレゴリーは元騎士爵家子弟とはいえ、

今や冒険者。


冒険者の戦法は前面から正々堂々オンリーではない。


背後からの攻撃、相手の弱点や虚をつくのが卑怯!などという論理は、

全く通らないのである。


さてさて!

という事で……グレゴリーは早速、出て来る敵、出て来る敵に対し、

超魔導威嚇&束縛魔法杖で、行動不能にしようと撃ちまくっていた。


当然魔法杖射撃など全くの未経験。


弓矢などの飛び道具も使った事はない。


これまでに数回、投げやりにチャレンジしたが、全く適性が無かったらしい。


「うお! やっぱり中々当たらないっす! す、凄く! む、難しいっす! 言うは易く行うは難しっす!」


「ほらほら、落ち着いて良く狙って!」


「はいっす!」


さすがに魔法杖射撃は、いきなりの百発百中は無理。


なので、外したら、ロックがフォロー。

また外したらロックがフォロー。

それを何度も何度も繰り返す。


但し、射撃が外れるというのは隙が生まれる事だ。


なので決して敵に付け込まれないよう、ロックはしっかりとフォローし通した。


そしてロックのフォローにより、敵は行動不能イコール無力化。


さすがに行動不能となれば、今のグレゴリーならほぼ100%ヒット出来る。


賊は発見時に衛兵隊へ通報し、行動不能にし捕縛。


ロックが索敵で確認し、まだ王都から5㎞地点に居た衛兵隊へ、

再度同じく超魔法鳩で急ぎ通報し、まとめて賊どもの逮捕を要請。

ちなみに捕縛に関しては、冒険者ギルドで購入した魔導ロープが大いに役立った。


同じく行動不能のゴブリンは容赦なく次々とクリティカルヒットで悪即斬の討伐。

ゴブリンの死骸はやはり超魔導葬送魔法杖で灰にして処理をした。


ひと通り、賊、魔物の掃討が終わり、街道脇の空き地で敷物を広げて座り、

ふたりは、ようやく休憩。


索敵を張り巡らせ、捕縛した賊どもが、第三者、肉食獣、魔物に襲われぬよう、

衛兵隊の到着待ちも兼ねた。


水筒から冷たいお茶を飲み、ひと息つき、ロックは言う。


「グレゴリーさん、どうせリディさんが設定した想定日数よりは早く最初の目的地ピオニエ農場へ到着します」


「ですね!」


「わざわいを転じて福と為す!と言います。今回は敵を生け捕りにしたり、戦うであろう依頼内容を考えれば、完遂日数短縮のインセンティブ達成よりも、実戦訓練が優先と切り替えましょう」


「了解です、ロックさん」


「良いですか、グレゴリーさん。この超魔導威嚇&束縛魔法杖を上手く使いこなせれば、相手を無傷のまま、無力化出来ます。今回の賊捕縛依頼には、特に有効な魔道具だと思います。そして例えばですが、大立ち回り厳禁の王都街中で、大事なアルレットさんを暴漢から守る際にはとても役に立ちますよ」


「な、成る程! 大事なアルレットさんを暴漢から守る際にはですか! 今、リアルに想像しました! 大いに納得です!」


「そして、更にメリットもあります。この超魔導威嚇&束縛魔法杖は使用者の魔力に比例し、威力の変更が出来ます。魔力のそう高くないグレゴリーさんであれば、最大レベルの魔力で発射しても、相手は行動不能あるいは気絶ぐらいですみます」


「おお、成る程! それは願ったり叶ったりで理想的です。ロックさんがこの魔法杖を使うとヤバい石化もありだと思いますが、俺が使う分には、絶対に過剰防衛とはならないですね!」


「そうなります。ですが、この魔法杖が役立つと言っても焦りは禁物です。一朝一夕に射撃は上手くなりません」


「ですね! 今、自分の下手さ加減を痛感しています」


「いえ卑下する事はないです。正直、即、達人になるのは不可能ですから。今回は上手くならずとも、魔法杖射撃にチャレンジしたという経験レベルで良いと思います」


そんな会話をグレゴリーと交わしていたら……


「お! 衛兵隊が来てくれたようです」


と笑顔のロック。


得意の索敵で、接近する衛兵隊をしっかりと捕捉したようだ。


やがて……ロックとグレゴリーが「捕縛した」賊どもを数珠つなぎで引き連れ、


「お~い! こちらは王都衛兵隊だあ! 賊の捕縛を魔法鳩で通報してくれた、冒険者クランステイゴールドとは君達かああ!!」


と大声を張り上げる衛兵の声が響き渡ったのである。

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