第35話「これまでは俺の遠距離魔法射撃で威嚇、撃退にとどめていましたが、たまには見せしめが必要です。接近してこいつを使いましょう」

出発日当日、午前5時。


王都サフィールの正門前には、早起きし、オフィスを後にした、

ロックとグレゴリーの姿があった。

ふたりとも、ウスターシュが付呪エンチャントした、

超魔導革鎧に身を固めていた。


1番目、2番目の依頼を遂行すべく、

赴く目的地は、ルナール商会系列のピオニエ農場、コルヌ牧場。

王都を中心に新鮮な食材を提供する立ち位置にある大規模な農場、牧場である。


その2か所両方に数多の賊、魔物が跋扈していた。

最初と2番目の依頼はその脅威を無くし、スムーズな生産活動を行わせる事なのだ。


「賊や魔物が相手だが、わしの付呪エンチャントした、超魔導革鎧をまとったお前達ならば下手な攻撃など受け付けん。しかし気を付けてな。留守は任せろ」


と言うウスターシュに見送られて。


通算2回目の依頼遂行とあって、ふたりは落ち着き払っていた。


これから王都を出るが、1回目のアガット往復輸送ほど緊張はしていない。


アガットで強盗を戦闘不能とし、捕縛。

支店社員は勿論、その家族、町の人々にも感謝されたのは大きな喜びに。

アルレットを救った事も結構な自信となっている。


正門を守る門番に対し、冒険者ギルドランクDの所属登録証を提示し、

確認が取れると、ロックとグレゴリーは正門を出た。


見上げれば今日も快晴、広がる青空には雲ひとつ無い。


早朝ゆえ、人影は少ない。


付近の町から来たらしい行商人達、

同じく付近の農村から来たらしい生産物を売る為に来た農民らが、

ちらほらと居るくらいだ。


彼ら彼女達は全くの見ず知らず、赤の他人だが、

ロックとグレゴリーは軽く会釈をし、街道を歩いて行く……


程よいところで、先日同様、魔導しょいこを取り出し、グレゴリーへ装着。

同じ手順で、ロックが背におぶさった。


ハーネスでロックが自身の身体を固定する。


そして念の為、ロックはポケットから、

びっしりと書き込みのある当該地図を取り出し、自身の記憶と重ね、刻み直す。


「では、行きましょうか、グレゴリーさん」


「はいっ!」


「まずは、ピオニエ農場ですね。この街道をず~っと、道なりに真っすぐ。80㎞先の脇道を左折しますが、その際はまた改めて俺から指示を出します」


「分かりました! 宜しくお願い致します! しばらくは真っすぐ、ですね?」


「です! 速度は新巡航速度時速40㎞でお願いします」


「了解です! では、グレゴリー、発進します! クランステイゴールド! アー! ゴオー!」


グレゴリーは、全員で取り決めた決め言葉を発し、


たっ、たっ、たっ、と、最初はゆっくり走りつつ、徐々に速度を上げて行く。


しばし走ったところで、勢いがつき、だっ!だっ!だっ!だっ!

と力強く大地を蹴り、グレゴリーは駆けて行く。


背にるロックは、正門を出た時から既に索敵を全開。


訓練の時に確認したが、探知の最大範囲はどんどん広がり、

1㎞から一気に3倍! 今や直径3㎞にも及んでいた。


そして!

ロックの索敵は探知の最大範囲だけではなく、同じく認識精度も、

対象者のスペック、様子等の捕捉が著しく著しく、増していたのだ。


なので、グレゴリーもロックに全幅の信頼を置いている。


ロックが警告を発しさえしなければ、行く道は平和で安全だと。


しかし!


この平和と安全はすぐに破壊された。


そう!

たった2㎞ほど進んだところで、ロックの索敵が、

「街道の先に賊が複数現れた!」事を捕捉したのだ!


いきなりの敵の待ち伏せ!


だがロックには懸念どころか、不敵な笑みが浮かんでいる。


すかさず、「グレゴリーさん、一旦止まってください」と、

無言の『合図』を送った。


みるみるうちに減速し、街道上で一時停止した、グレゴリー。


「どうしました? ロックさん、……まさか! こんな王都の近くで!?」


「はい、グレゴリーさんのお察しの通りです。ここから3㎞先、つまり王都の正門から5㎞先くらいですね。賊が居ます、それも複数!」


「賊!? 複数!」


「ええ、王都のこんな近くでこんなに朝早くから、ご苦労さんって感じですか、賊が5人ですね、現れました」


「おお! 賊が5人、ですか!」


「はい、全員が戦士崩れ、魔法使いは居らず、飛び道具も無いようです。ちょうど良い、ですね」


ロックの言葉を聞き、グレゴリーもピン!と来たようである。


「あ、確かに! ロックさん! 良い機会だから、いろいろと試しますか? ウスターシュさんから譲って頂いた魔道具を」


「ふふ、ですね、グレゴリーさん。この後の仕事の為に、奴らには良き実験台になって貰いますか」


いかにも面白そうに、ロックはにやり、と笑ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まずは第1号装備、超魔導夜間兼用望遠鏡を使用しましょう」


ロックはそう言い、しれっと、

空間魔法で仕舞っていた超魔導夜間兼用望遠鏡を取り出した。


補足しよう。


ロックは、自身が所持する魔道具、ウスターシュから譲って貰った魔道具、

それ以外に購入したものをカテゴリー別に分け、各〇号装備として整理整頓した。


グレゴリー、ウスターシュへも周知し、今後、使用する際にその都度告知。

更に新たな物も機会があれば追加し、

新カテゴリー設置、入れ替え等も含め、随時バージョンアップするつもりだ。


そして、ウスターシュが付呪エンチャントしたこの夜間兼用魔導望遠鏡は、

偵察、連絡、情報収集、調査確認、罠解除などなど、

シーフ職的カテゴリーの第1号装備に属する。

この夜間兼用魔導望遠鏡は、内蔵された水晶板に映し出す仕様で、何と何と何と!!

約10㎞先まで見通す事が可能なのである。


また夜間兼用と名付けられている通りで、

ロックの索敵と同じ論理の魔石が内蔵されており、

夜間でも波動を発する対象者を的確に捉え、映し出す事も可能な優れものだ。


「うん、良く見えます! さすがウスターシュさん自慢の付呪エンチャント魔道具! 間違いなく5人、風体からすると、やはり戦士崩れの強盗ってとこですね」


ロックの索敵に加え、視認でも敵の存在を確認すれば万全だ。


「ですか! ロックさん! お願いします! 俺にも見せてください!」


「ええ、どうぞ!」


超魔導夜間兼用望遠鏡を受け取り、覗き込んだグレゴリーも、


「おお、凄く良く見えます! 申し訳ないですけど、以前、使っていた魔導望遠鏡の比じゃないっすね! これ、ロックさんの索敵同様、本当に便利です!」


と感嘆の声を上げた。


「さて! では次に同じく第1号装備、超魔法鳩召喚魔法杖で王都の衛兵隊へ通報しておきましょう」


「了解です! それも超便利そうですね!」


補足しよう。


魔法鳩とは、魔法で身体強化された伝書鳩である。

習性は一般の伝書鳩に準じるが、速度、スタミナともアップし、

最高速度、約時速60㎞で飛行可能。

一般の伝書鳩と大きく異なるのは、夜間飛行も出来る事。

そして休みながらだが、一度に1,500㎞もの距離を飛ぶ事が可能なのである。


そしてウスターシュが製作した第1号装備に属する超魔法鳩召喚魔法杖は、

使い魔としてこの魔法鳩を召喚。

召喚者の記憶を基に、目的地へ到達する事が可能。


またある意味便利な事に、命じた目的地へ到達したら、

約1時間で自動的に異界へ戻ってしまうのだ。


使い魔召喚という、召喚魔法では初級レベルの行使が可能な魔法杖なのだが、

先述した通り、ロックは召喚魔法が全く使えない。


だから、他者への『連絡』という最重要である手段のひとつが、

この魔法杖でたやすく取れるというこれまた優れものなのである。


「ええ、この魔法杖で召喚する魔法鳩は、普通の魔法鳩よりも遥かにスペックが優れていて、最高速度は約時速80㎞ぶっとおしで休み無し、一度に約2,000㎞も飛べるそうです」


「す、凄い!! もの凄いっす!!」


「ええ、もの凄いです。以前テストで、王都の郊外40㎞地点から使って貰った時は、アンクタン魔道具店、つまりオフィスへは約30分少しで来たと、ウスターシュさんが言っていました」


「本当にもの凄いっすねえ!!」


「はい、で、この超魔法鳩で手紙を今、先に送っておけば、俺達で無力化した賊どもを衛兵隊があまり時間を置かず、ピックアップに来るって寸法です」


「な、成る程!」


「という事で、片づけましょう。冒険者ギルドの通報書に記載して送れば対応してくれるはずです」


補足しよう。


冒険者ギルドの通報書とは、衛兵隊へ、

犯罪者、魔物の出現、処理を通報する報告書の事。


冒険者ギルドとの連携を図る為、衛兵隊公認で作成した正式な報告書なので、

普通の通報よりも全然信用度が高い。


「はい!」


という事でロックは、さささっと通報書へ事の仔細を記入、

王都から約5㎞の街道上で襲撃して来た賊5人を無力化、迅速な回収を願う。

クランステイゴールド……と。


そして超魔法鳩召喚魔法杖を空間魔法で取り出し、超魔法鳩を召喚。

通報書をしっかりと、くくり付け、衛兵隊の場所を念じ、王都へ向け、放った。


超魔法鳩は羽ばたきながら、大空へ舞い上がり、あっという間に見えなくなった。


「これまでは俺の遠距離魔法射撃で威嚇、撃退にとどめていましたが、たまには見せしめが必要です。接近してこいつを使いましょう」


ロックは超魔法鳩召喚魔法杖を仕舞い、別の魔法杖を取り出した。


「おお、ロックさん、今度のそれは何でしょう?」


「はい、第2号装備、超魔導威嚇&束縛魔法杖です。最大出力で魔王の眼差しに匹敵する効果があり、相手によっては石化します」


第2号装備は、主にリーダーのロックが使用するもの。

他のメンバーも折り合えばケースバイケースで使用する。

攻撃、防御、回復、支援、攪乱かくらん、解呪、状態異常緩和、解除など、

総合的なカテゴリーに属する物だ。


「えええ!!?? せ、せ、石化!!?? こ、こわ!!!」


「はは、怖いというかヤバいですね。奴らには余罪があるかもしれませんが、俺達がそこまですると、さすがにやり過ぎなので、魔力使用量をずっと少なくセーブ。身体能力を奪い、奴らを行動不能とします。ちなみにこの魔法杖の射程距離は約300mです。ぐっと接近して使いますから何卒宜しくお願い致します」


「わ、分かりました!」


そんなこんなで、ロックとグレゴリーは、

敵の動きをしっかり把握しながら、慎重に賊まで1㎞の距離へ接近。


更に更に慎重に300mまで近付き……やっと相手が気付き、襲って来たところを、


しゅば! しゅば! しゅば! しゅば! しゅば!


と超魔導威嚇&束縛魔法杖から放たれた強い威嚇魔力が賊5人を包み込み、


「ひえ!」「ぐわ!」「うわあっ!」「ひいい……」「た、助けてくれ!」


全員が悲鳴を上げ、ばたばたばたと倒れ、行動不能となってしまった。


こうして、クランステイゴールドは最強、無双への第一歩を踏み出したのである。

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