第34話「各自の欠点を補い合い強さを発揮する! のがクランステイゴールドの『売り』だ」

翌日午前10時、ロックはウスターシュの店アンクタン魔道具店、

つまりクランステイゴールドのオフィスに赴いていた。


いよいよルナール商会の次の依頼、その次の依頼、2案件を遂行する。


これからオフィスに連泊、明後日早朝午前5時、

最初の目的地ピオニエ農場へ向かう。


時間厳守で早朝に王都を出発する為、事前の打合せも大詰め。

ロックとグレゴリーはそれぞれ自分の荷物を持参する事となっていた。


3人での話し合いの結果……

残念ながら年齢、移動手段、現場の負担等々の諸問題もあり、

ウスターシュはこの王都サフィールのオフィス待機、となり、本人も了解している。

これからはよほどの非常事態にならない限り、オフィスに常駐するだろう。


先述したが、依頼は、王都近郊にあるルナール商会系列の、

ピオニエ農場とコルヌ牧場において、

常駐のスタッフと協力をしつつ、窃盗を働く賊の捕縛と害を為す魔物の討伐。


必要な物資の購入忘れ、手配し忘れが決して無いよう、

改めて全員で確認を行うのである。


ちなみに、オフィスの扉のダブルロックのカギは、

3人のメンバーがいずれも所持していた。


なので、ロックはしれっと開けてイン!である。


売り場を改造したロビーを抜け、奥の事務室へ。


既にウスターシュは自分の席へ座っていた。


「ウスターシュさん! おはようございます! お疲れ様です!」


「おう! ロックか? おはよう! お疲れさん! ところで昨夜はどうだった? 例の食事会は上手く行ったのか?」


「はい、まあ何とか。女子達には食事を楽しんで頂き、無事、送れたと思います……ただウスターシュさんを仲間外れのような形にして申し訳ありませんでした」


ロックは丁寧にお詫びした。


対して、ウスターシュは苦笑。


「いやいや、そう何回も謝らんでも良い。わしは万が一誘われても遠慮する」


「そうですか」


「ああ、今更70代半ばのじじいが孫みたいな20歳前の女子と食事をして、どうする? 昨夜は、ゆっくりさせて貰ったよ」


その瞬間、ばん!と扉が開いた音がし、


ドドドドドドドドド!!っと足音を響かせ、グレゴリーが事務室へ駆け込んで来た。


「友よ~!!!」


声を張り上げ、両手を大きく広げ、どこかのガキ大将のように、

ロックを思い切りハグしようと迫って来る。


グレゴリーの馬鹿力で思い切りハグされたら大けが必至だ。


しかし!

グレゴリーの放つ波動で動きはまるわかり。

簡単に予測がつく。


緩慢な動作のロックでもあっさりとかわせた。


躱しざまにロックは回復魔法杖を抜き、撃った。


放たれた魔力がグレゴリーの身体を包み込む。

「はあ……」と脱力するグレゴリー。


先述したがこの魔法杖は体力徳回復だけではなく、

気持ちを静める鎮静の効果もあるのだ。


「昨日はお疲れ様です、グレゴリーさん……落ち着いたようですね」


「う、うお……感謝のハグをさせてくれないのですか?」


「ええ、気持ちだけは受け取っておきますね」


「そんなあ、冷たいっす」


「いえ、冷たくないです。大けがをしたくありませんから。それと念の為、そういう段階になってもアルレットさんをハグする際は絶対に絶対にそっと、優しくですよ。万が一、思い切り抱きしめたら、大けがして破局一直線です」


「う、うお! こ、心得ましたあ! こ、今度こそ、忘れないようメモしまあす!」


そんなやりとりを見て、ウスターシュ、今度は大笑い。


「ははははは! ロックから聞いたが昨夜は上手く行ったんだって?」


「はい! ロックさんの企画、セッティング、進行、調整、クロージングのお陰で女子達には大満足して貰い、無事に帰宅して頂きましたあ!」


「ははは、企画、セッティング、進行、調整、クロージングだと? そりゃ全てじゃないのか?」


「はい、そんな感じでお任せです」


「ばかたれが! そんな感じでお任せだと? 全てがロックへ丸投げではないか! 少しはお前も考え、行動せんか! せっかく好意を持ってくれた彼女に振られるぞ!」


「す、すびばせん~!」


平身低頭で謝るグレゴリー。

ガチムチ男子でいかついが、憎めない奴、なのである。


「グレゴリーさん」


「はいい~、何でしょう、ロックさん」


「アフターケアは、ばっちりしておいた方が良いですよ。しばらくは仕事で会えないとアルレットさんへ連絡しておいた方が賢明です」


「わ、分かりましたあ! 連絡しておきます! ですが、それ、俺だけじゃなく、ロックさんもですよお」


「は、はあ、まあそうですね」


ここでウスターシュが口をはさむ。


「おいおい、グレゴリー、そりゃどういう意味だい?」


「ええ、ウスターシュさん。ロックさんも帰り際、アルレットさんの友人エレーヌさんから、熱い眼差しを浴びつつ、連絡先を書いた紙を渡されていましたから」


「おお! そうなのか? ロック」


「はい、まあ、楽しかったです、ありがとうございましたと、感謝の手紙で連絡だけは入れておきます」


「何だそれ、もったいないだろ? 女子自ら連絡先を渡すのは相当な脈ありじゃないのか?」


そんなウスターシュの言葉に反応したのはグレゴリー。


「そうですよね? でも仕方がないっす。やっぱりロックさんの本命はリディさんでっすから」


おお!! グレゴリーの衝撃発言!?


さすがにウスターシュは驚く。


「おいおい! やっぱりロックさんの本命はリディさんって、グレゴリーよ、そりゃ、まじか!」


「はい! まじっす! ウスターシュさん! 俺には確信があるっす!」


「やっぱりそうか! わしは以前に言ったな? あの才女がロックにとても好意的だと! あのスーパーお嬢様のリディ・ルナールさんが、ロックのど本命なんだな?」


対して、ロックは全面的に否定。


「いえ、確信とか、ど本命とか、全く違いますって。何度も言いますが、そもそも俺と彼女では経済格差があり過ぎるからありえません」


「ははは、ロックよ、そう言うが、この世には絶対などない。いつ何が起こるか分からんぞ」


「そうっす! ウスターシュさんの言う通りっす」


「いやいやいや、俺の事はもういいですから。これから遂行する依頼の打合せをしましょう」


こうして……無理やり食事会ネタを終わらせ、3人は打合せに入ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


本日の打合せの趣旨は、実際に現場で賊、魔物と対峙した時、

どのように対応し、捕縛するか、討伐するのかというシミュレーション。


ルナール商会の依頼書には、詳しいデータも添付されていた。


前回ロックが使った、当該依頼場所の基本地図にこのデータも含めた、

ありとあらゆる情報を書き込んだものが、打合せのベースになった。


現状のロックとグレゴリーのスペック。


そしてウスターシュの付呪エンチャント魔道具を、

どのように使うのかが話し合われる。


3人寄れば文殊の知恵というが、ロックとグレゴリーの知識と経験に、

全く違うウスターシュの視点と知識が加わり、

全員が「そうか、成る程!」と感心しつつの打合せになった。


出発の際、地図は当然携行するが、ロックはそれを見ずとも、

円滑に行動出来るよう、地形、データ、打合せの内容等々を、

記憶にしっかりと刻んでおく。


またウスターシュに続く次の新規メンバー加入に関しても、議題に上がった。


全ての天候、ありとあらゆる地形、いろいろな魔物、

どんな条件でも強さを発揮した名も無き勇者様のような完璧人材が居ればなあと、

いう話になったが……


そんな都合の良い超逸材が居るわけもないし、

クランステイゴールドのような結成したて且つ、

新進のクランへ入隊してくれるはずもない。


そもそも今のメンバーが欠点ばかりの者ばかり。


各自の欠点を補い合い強さを発揮する! のがクランステイゴールドの『売り』だ。


で、あるから他のクランが持て余している、

一芸に秀でた者をスカウトするのが良いだろうという話にもなった。


…そんなこんなで、打合せは終了。


ここはリーダー、ロックの指示が飛ぶ。


「さて! いくつか不足品が確認出来ましたので、いくつかの店を回り、購入を。それから冒険者ギルドへ行き、明後日午前5時に出発するとリディさんへ連絡。そして前祝にウスターシュさん馴染みの居酒屋ビストロで食事をしましょう。皆さん、宜しいでしょうか?」


対して、


「OKです!」

「了解した!」


というグレゴリーとウスターシュの声が事務室に響いていたのである。

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