第33話「おふたりに無事にお帰りになって欲しいと、グレゴリーさんと俺で決めました」

堅苦しい雰囲気にならないよう、気楽に話し、

グレゴリーとアルレットの心の距離を縮める。


そして、交際に導いて行く……


ロックが目指す、この食事会の目的、とりあえずの着地点である。

上手く行き、着地点へ到達し、交際が始まったら、

更に仲を深めて欲しいと切に願う。


また、グレゴリーの失策……気弱からアルレットの好物を聞き出せなかった、

つまり店の選定が出来ない事をカバーする為、


ロックはこの放題居酒屋ビストロリヴァル好敵手』を選んだのだ。


その目論見は今のところ大当たりであった。


まずフレンドリーで開放的、ざっくばらんなこの店の雰囲気が、

近付きつつあったグレゴリーとアルレットの心の距離を更に縮め、

わずかに残っていた壁を完全に取っ払った。


そして数多の料理から好きなものを自由に、量も選択出来るから、

好き嫌い云々うんぬんも完全に関係なくなってしまった。


「凄く美味しいです! グレゴリーさん!」


「アルレットさんの好きなものが好きなだけ、自由自在に選べるから良いですよね!」 


「はい! そして凄く楽しいです!」


「は、はい! 俺も凄く楽しいです!」


「お店、グレゴリーさんへお任せして凄く良かったです!」 


「ま、任された甲斐がありましたあ!」


会話は盛り上がりに盛り上がり……

ふたりは今や、完全に意気投合していたのである。


またロック抜きで1回店内の露店、屋台へ行くと、

3人は完全にこの店の作法、システムに慣れてしまったから、

もう自分ひとりでも行く事が可能!


もういちいち指示せずとも自動運転でOK!


だが……ここからが本日の食事会の『本番』である。


頃合いと見て、ロックが「つんつん」とグレゴリーのわき腹をつつく。

「次の段階だ、アルレットさんとふたりきりで、料理を取りに行け!」

という合図だ。


つんつんと突かれ、びくっとするグレゴリー。


「うお!」


「え? どうしました? グレゴリーさん」


「え、ええっと……い、一緒に料理を取りに行きませんか? ア、アルレットさん」


「はいっ! 喜んで!」


いそいそと立ち上がり、ぴたっと寄り添い、仲睦まじく歩くふたり。


この分なら、グレゴリーがよほどの『へま』をしない限り、上手く行きそうだ。


「ほう」と安堵の息を吐くロック。


と、そんなロックを見て対面に座るエレーヌは、


「うふふふふ」と面白そうに笑った。


「どうしました? エレーヌさん」


「何か、ほほえましいです、ロックさんが。今日は黒子に徹しているのですね」


「分かりますか」


「はい! 私達全員へいろいろと気をつかっていらっしゃるから。それに私には分かります。実はこの店をお選びになったのはロックさん、ですよね?」


エレーヌは勘が鋭い女子らしい。


ここは変な影響が出ないよう、下手な嘘はつかない方が賢明。


なのでロックは正直に告げる。


「ええ、グレゴリーさんと相談はしましたが、この店なら楽しく過ごせると思いました。それよりも本日はありがとうございました。それと初回の食事会なのに少しお高い店にお連れして申し訳ありませんでした」


「いえいえ、とんでないですよ」


「ですが、初めての会食で、ひとり金貨1枚は少し高い。今回に関しては、よろしければ俺とグレゴリーさんで、ご馳走させてください」


「ダメです! ロックさん達がご馳走するなんて! 私もアルレットも凄く楽しんでいますから。でもアルレットは、私より、ず~っと楽しんでいるようですが」


「ははは、良かったです」


「親友のアルレットは……休暇を使って、以前から楽しみにしていた歴史と食の町アガットまで旅行し、良き思い出を作るどころか、とんでもなくひどい目にうところでした」


「確かに、そうでしたね」


「ええ、実は私もアガットへ一緒に旅行へ行く予定だったのですが、どうしても外せない所用があって行けなくなり、結局は彼女ひとりで行ったんです」


「そうだったのですか」


「はい、ひとり旅となったアルレットがとても心配でしたが、その心配の予感は悪い事に的中してしまいました。町の暴漢3人に絡まれ、どこかへ連れて行かれそうになりましたから」


「ですね」


「ですが! 絶体絶命の危機に陥ったアルレットをグレゴリーさんが飛び込んで来て盾となり、ロックさんが魔法で救ってくれました。アルレットはおふたりに心から感謝していますし、私も親友を救ってくれた事を深く感謝致します。本当にありがとうございました」


「いえいえ、グレゴリーさんと俺は当然の事をしたまでです」


「うふふ、当然の事ですか……でも、本日一緒に来て、こうして食事を共にして、アルレットの言う事は真実だと、分かりました」


「真実、とは?」


「はい! 冒険者と言えばがさつで荒くれ者というイメージがありますが、アルレットが言うには、グレゴリーさんとロックさんは全く違う方々だと。ですから私、本当かなあ? この子、大丈夫かなあ? と一応心配して、今日一緒に来たんです」


「そうだったのですか」


「はい! でもその心配は全くの杞憂きゆうに終わりました。疑って申し訳ありませんでした」


笑顔で深く一礼し、エレーナは話を続ける。


「気は優しくて力持ちということわざがありますが、グレゴリーさんは本当に『そのもの』ですし、ロックさんは気遣いが出来る仲間思いの優しい方だとアルレットは常々、申しておりました。ここまでおふたりと話し、様子を見て、私も全く同意で、そう思いましたよ」


「ありがとうございます。ふたりが戻って来たら、エレーヌさんが気に入った料理、飲み物を取りに行きましょう。俺も一緒に運びますよ」


「……分かりました。ぜひ行きましょう、ロックさん。私も貴方の好きなものを運びますよ」


エレーヌはそう言い、じっとロックを見つめたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


まもなくして……


「うふふ、ただいまあ♡」


「も、戻りましたあ!」


とアルレット、グレゴリーの『カップル』が料理を仲良く持ちながら、戻って来た。


ふたりの心の距離は順調に縮まっているようである。


戻って来たふたりが着席すると、エレーヌが言う。


「うふふ、では私達の番ですね、ロックさん」


「はい、行きましょうか。では、エレーヌさんのお好きな料理から行きましょう」


「いえ、ロックさんから」


「いえいえ、エレーヌさんから」


というやりとりの末、結局はエレーヌの好きな料理、

ロックの好きな料理という順番で回り、ふたりは席へ戻って来た。


こうなると仲良くなった4人の話題は更に広がり、生い立ちや日常生活の話となった。


聞けば、生い立ちは様々であったが、現在4人は全員がひとり暮らし。

皆、自炊、外食が混在する食生活であった。


また更に仕事の話にもなる。


「おふたりはレストラン勤務という事ですが、どのようなお仕事をされているのですか?」


ロックが尋ねると、


「この近くのカフェレストランで、調理、給仕の両方をやっています。制服がそれぞれ違うのですよ」


「夜はお酒もお出ししますが、あまり深酒する方は居ませんね」


との事。


逆にロックとグレゴリーの仕事も尋ねられる。


「この前のアガットはお仕事でいらしたんですよね? 私、ルナール商会のアガット支店の強盗事件の話、町の方から聞きましたわ」


「押し入って、ルナール商会の社員に暴行した凶悪な強盗を捕まえたって……私、その事件の話をアルレットから聞いて、本当に凄いなって、でもおふたりが強過ぎて、凄く怖い人だったらって心配でした。それも全くの杞憂でしたけど」


……それからも、「カフェレストランでふたりはどんな料理を作るのか」とか、

「賊や魔物とはどう戦ったのか」とか、

話は弾みに弾み、食事会はとても良い雰囲気で進行した。


ロック、グレゴリーは勿論だが、アルレットとエレーヌも結構な食欲を見せた。


最後のデザートも存分に楽しみ、3時間の食べ放題を目一杯使って、

雰囲気は最高に盛り上がり……食事会は終了したのである。


「わあ! もう10時ですよ!」


「あっという間の3時間でしたね!」


普通の食事会であれば、2次会もあり、なのだが……4人ともお腹一杯、

もうこれ以上は入りそうもない。


さあ、会計は……といえば。


いろいろやりとりの結果、女子は金貨1枚の半額、

銀貨5枚づつ出すことでまとまった。

残りの金貨3枚を、ロックとグレゴリーが折半するのだ。


「凄く美味しく、楽しかったです!」

「ごちそうさまでした!」


とお辞儀するアルレットとエレーヌ。


……店の外へ出ると、チャーター便と書かれた馬車が2台停まっていた。


実はこれ、ロックが手配していた送迎車、帰宅用の馬車である。


「えええ!!!???」

「そ、そんな!!??」


と驚くアルレットとエレーヌだったが、


「おふたりには無事にお帰りになって欲しいと、グレゴリーさんと俺で決めました」


とロックが言えば……


最後は心の底から嬉しそうな笑顔で、ふたりの女子は馬車へ乗り、

帰って行ったのである。

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