第32話「頼んだ作り立ての肉料理を見て、女子ふたりは目を輝かせる」

「では店に移動しましょう。自分が先頭に立ちますから、皆さんは後からついて来てください」


そう言い、ロックはゆっくりと歩きだした。


しばし歩くと、予約した店に到着する。


外見は木造建築の3階建て、一見中規模なホテル風。

どうやらホテルを買い取り、大幅に改築、改装したようである。


店の出入り口の真上には看板が掲げられていた。

看板には居酒屋ビストロ『リヴァル』

……『好敵手』と店名が書いてあった。


出入り口からは、店内に居る客の声が聞こえて来る……


「お疲れ様でした。到着しましたよ、ここです。予約を入れてあります」


と、ロックが店を指さす。そして、


「アルレットさん、エレーヌさん、こちらのお店には?」


と尋ねたが、女子はふたりとも「名前は知っていましたが」と口ごもり、

「来た事はない」とばかりに首を横へ振った。


出入り口の扉を押して4人が中へ入ると……

天井が高い広々とした空間が広がっていた。


更に見やれば、ホールの中央に置かれた数多のテーブルに、

数多の椅子が置かれているのが、視界に飛び込んで来る。


これだけなら、どこにでもある居酒屋の光景かもしれない。


しかし!

置かれていたテーブルと椅子のデザインがやけにオシャレ。


更に正面、左右と店の3方の雰囲気が全く違っている。


3方にあるのは、ただの壁ではなかった。


何と何と!

各壁に3つ、都合9つの露店が造り込まれているのだ。


また店内には3つほど屋台もあった。


「わあ!」と歓声を上げる女子達。


ここでロック達へ声がかかる。


出入り口そばに、『会計』と書かれた札が置かれたカウンターがあった。


声は、カウンター内に居る、メイド服姿の若い女性スタッフからである。


「いらっしゃいませ! 居酒屋ビストロリヴァル好敵手』へ、ようこそ。料金は先払いとなります。こちらで、お支払いをお願い致します。おひとり様、ディナー料金金貨1枚1万円となります」


「お願いします、4名で予約しているロック・プロストです」


ディナー料金、金貨1枚はそこそこの金額である。

とんでもなく高くはないが、決して安くはない。


だが、もしかして……女子達からは、

初めての会食で、いきなりこれは「高い!」と思われているかもしれない。

なので、ここは、とりあえずロックが「はい!」と挙手。

とりあえず全員分の料金、全額を支払う。


後は成り行き次第だが、各自の支払い方法は流動的だろうと。


グレゴリーの恋路の為、全てがロック持ちか、

女子達の分も含め、総額をロックとグレゴリーで折半とするのか、


「いきなりのおごられはいかがなものか、と思いますし、私達は自分の分を支払います」

と常識的に女子達が言えば、完全に『割りかん』か、

それとも女子のみ半額か等々、いろいろと考えられる。


まあ良い、それはその時の状況で決めれば構わないだろう。


と同時に、スタッフが声を張り上げる。


「はい! ご予約のロック・プロスト様! ……確認致しました! そして4名様で金貨4枚、確かに頂戴致しました! 当店のシステムはご存知でしょうか?」


「説明をお願いします」


ロックが説明を求めると、スタッフは姿勢を正す。


「はい! ではディナーコースのご説明をさせて頂きます! 当居酒屋ビストロリヴァル好敵手』は、お食事開始から、3時間以内、完全セルフサービスで食べ放題、飲み放題となります。お好きなお店、お屋台で思う存分、ご自由にご飲食をお楽しみくださいませ!」


そう!

スタッフの言う通り、

この『リヴァル好敵手』は、

ディナータイムはひとり金貨1枚で3時間、

セルフサービスで食べ放題、飲み放題のいわゆる『放題店』なのだ。


制限時間さえ守れば、予算オーバーの心配は全くなく、

数多ある種類の中で、

好きな料理、飲料、デザート等々を心行くまで楽しめる最高の店。


王都の中央市場にある露店、屋台を、いくつかまとめて屋内型の店にした仕様。

そういう形式なので、わくわく感満載で、探索気分も味わえる。


スタッフの説明は更に続く。


「……但し、注意事項として、食べ終わった食器は返却台へ。お料理の食べ残し、飲料の飲み残し、持ち帰りは厳禁。暴力、恐喝、窃盗、薬物使用、器物破損、賭博などの犯罪行為は即座に衛兵へ通報し、逮捕させます。大声で騒ぐ、ナンパ行為等々、他のお客様、店へ迷惑をかける、公序良俗に反する行動は厳禁。スタッフが注意しても迷惑行為を改めない場合は、これまた即衛兵へ通報し、当店への出入りを永久に禁止致します。また貴重品の盗難には一切責任を負いませんので、管理には充分なご注意を! ご不明な点等ございましたら、スタッフまでお問合せくださいませ!」


そう! この『リヴァル好敵手』には、

厳しい店内ルールがあり、客は皆、遵守をしている。

犯罪行為は勿論、衛兵へ即通報し、逮捕させる。

ルール、マナーを守れない者は警告の上、それでも従わない者はやはり衛兵へ通報、

退店を命じられ、永久に出入り禁止となるからだ。


またスタッフや警備員も店内を随時巡回し、

不法暴力等々の迷惑行為に目を光らせているから、

犯罪が極めて少なく、リスクは少ない。


安全、味が美味しいのは勿論、

おもちゃ箱&遊園地感覚のフードコート。

自由、楽しさを追求した食べ放題。


居酒屋ビストロリヴァル好敵手』は、

そんな店なのだ。


または、フードコートの要素を盛り込んだ現代ホテルのビュッフェ形式パーティ。

それが更に『庶民的になった雰囲気』……とも言えよう。


さてさて!

メイド服姿のスタッフ女子の説明が終わり……


「予約したお席にご案内致します」


と言われ、スタッフは、女子ふたり、アルレット、エレーヌ、

そしてロック、グレゴリーを先導し、歩き出す。


アルレットとエレーヌんはまだ半信半疑という面持ち。

この店のシステム、そして楽しさを充分に理解していないから無理もない。


事前に説明してあるグレゴリーも首を少し傾げているから、同様かもしれなかった。


再び見やれば……店名の通り、各屋台がまるで競い合うよう声を張り上げ、

客へ自分が作る料理のアピールを熱く熱く語っていた。


そして店内は結構な込み具合。

予約をしておいて正解……である。


案内したスタッフは、テーブル上にあったリザーブと書いた札を取り、

手で「ここでどうぞ」と示して、お辞儀をし、去って行った。


着席した4人は改めてお互いに自己紹介。

アルレットは再び、アガットで暴漢から救って貰った礼を述べた。


よし!

段取りはOKだ!


ロックは3人へ言う。


「念の為、改めてご説明しますと、ここは3時間以内であれば、好きなものを選んで、飲み食いするのがOKな先払い方式のお店なんです。用意が出来たら早速食べ物を選びましょう。宜しいですかね?」


説明を聞き、店のシステムを理解し頷く3人。


だが最初はロックがアテンドした方が良いだろう。


「アルレットさん、エレーヌさんは何が食べたいですか?」


「じゃ、じゃあ! お肉を!」

「わ、私もお肉を!」


「肉なら、串焼き、揚げ物、煮物等々、いろいろありますよ」


「では! 串焼きで!」

「私は揚げ物で!」


「了解です!」


ロックと3人はすぐ肉料理専門の露店を見つけた。


牛豚鶏の可愛らしいイラストが描かれ、いろいろな部位の様々な料理を作っている。


「当然、牛ロースの串焼きですわ」

「私は鶏肉の大きなから揚げね!」


「じゃあ、それぞれ4つずつ貰いますよ。これを自分の取り皿へ移し、食べるんです」


「分かりましたわ! ロック様!」

「ご親切にありがとうございます!」


という事で、一枚の皿に4本……4人分の牛のロース串焼き、

それから同じく4つの大から揚げを、ロックは屋台のスタッフから受け取る。


頼んだ作り立ての肉料理を見て、女子ふたりは目を輝かせる。


「わ~お! 美味しそう! いっぱい食べちゃおう!」

「私もガンガン行っちゃおう! 食べ残しだけは要注意だね!」


初回の食事会とは思えないくらいのフレンドリーな雰囲気となって行く。


ロックの計算通りである。


ここで一旦、2種類の肉料理をテーブルに並べておく。


これで3人も『店の作法』一連を理解したであろう。


「じゃあ俺、ここで料理を見ていますから! サラダ、飲み物も含め、皆さん好きなものを取りに行って来てください! まあ、さすがにいきなりデザートは無いでしょうが。そして食べ残し防止の為、一度に取り過ぎないようにお願いしま~す!」


声を張り上げたロックが席に座り、

再度、アルレット、エレーヌ、そしてグレゴリーは料理の確保へ。


魚料理、卵料理各1種、それとサラダ、エール、ワインなどの飲み物などをゲット!

テーブルの上は、様々な料理がてんこ盛り。


まずは、これくらいで良いだろう。

もう一度言うが、食べ残しは厳禁だから。


ここでロックがささっと走り、

フォークとナイフ、スプーン、1つずつ4セット。

それと取り皿をひとりにつき2枚、計8枚をゲットし、席へ持ち帰る。


これで各自が自分の好きな料理を取り分けて食べられる。


席の並びは、アルレット、エレーヌ様が横並びに、

グレゴリーが想い人?アルレットの対面、ロックがエレーヌの対面である。


これでばっちり!

……完全にロックの思惑通りだ。


さあ! いよいよ食事会のスタートだ!


まずはロックが道筋を作る。


「とりあえず、料理と飲み物が並びました。自分ロック・プロスト、彼グレゴリー・バルトの冒険者クランステイゴールドとアルレット・クラヴリーさんとの再会、エレーヌ・オリオルさんとの出会いを祝し、乾杯をしたいと思います」


ここでロックが「つんつん」とグレゴリーのわき腹をつつく。


準備完了だから、貴方が乾杯のコールをし、食事開始の宣言を! という合図だ。


「で、では!! か、乾杯!!」


「「「乾杯!」」」


かちんこちんと、エールが満たされた4つの陶器製マグカップが合わされる。


「た、食べましょうっ!!」


大きな声を張り上げたグレゴリーの開始宣言とともに、

楽しい食事会は始まったのである。

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