第31話「ぼうっとせず、しっかりしろ! という気合い入注入である」
昨日の打合せ終了後、
グレゴリーは「アルレットへ速達の手紙を出す!」と言い、すぐに帰宅。
片やロックとウスターシュは約束していた
ウスターシュのおごりで、しこたま飲み食いして、それぞれが帰宅。
「ははは、恋か! 若いってのは良いな! ロック、お前も頑張れ! だがグレゴリーは女子には超ヘタレだからちゃんと助けてやれよ!」
と、はっぱをかけられたのである。
翌日、ロックが打合せの為、アンクタン魔道具店へ行くと、
少々飲み過ぎたのか、ウスターシュはまだ寝ていた。
と、そこへ、慌てた表情でグレゴリーが現れた。
顔を合わせた瞬間、すぐロックへ話しかけて来る。
「ロ、ロックさん! た、大変ですっ!」
「はい、グレゴリーさん、そんなに慌てて、一体何が起こったのですか? 落ち着いてください」
「いいええ! こんな事が起こり、落ち着いてなどいられません!」
「ですか? とりあえず理由を話してください」
いつも通り、沈着冷静、落ち着き払ったロック。
対して、グレゴリーは身を乗り出すようにし、話し続ける。
「はいっ! 昨日の打合せの後すぐ、魔法鳩速達便で手紙を送ったら、アルレットさんからすぐ折り返しで今朝、魔法鳩速達便の返事が来たのですよ! 友人がOKしたから2対2の食事会を行おうって!」
これは朗報と言えるだろう。
すぐにレスポンスが来る、なんて相手も前向きだという事が分かるから。
「へえ、成る程。それは大いに脈ありです。良かったじゃないですか」
「うお!? へえ、成る程って!? な、何故、そんなに落ち着いていられるのですか! 俺だけじゃなく、ロックさんも参加するのですよ! 食事会!」
「はあ、まあそうですよね」
「き、緊張しないのですか!? 可愛い女子達との楽しい楽しい食事会ですよ!」
「ええ、まあ、正直、緊張はしないですね。何故ならば、今回行う食事会の第一目的は自分
「う、うお!? お、俺がアルレットさんと交際するきっかけ作り!! そ、それは凄く凄く嬉しいですけど!! ロックさんだってアルレットさんの友人と仲良くなれるチャンスかもしれないじゃないですか!!」
「う~ん、チャンスですか? でも、想像してみてください」
「な、何を想像するのでしょうか?」
「はい、俺がアルレットさんのご友人さんと上手く行って付き合ったとしても、万が一その人と喧嘩したり、結果、別れたりしたら、グレゴリーさんの交際へ悪影響を及ぼすかもしれないじゃないですか」
「いや、それは考え過ぎというか、心配し過ぎでは……」
「いえ、可能性がゼロではないならば、リスクは最小限に、です。なので、食事会の場でアルレットさんのご友人さんと仲良くなる事はあっても、その先はありません」
「えええ!? そ、そうなんですか!?」
「はい、今回に関してはそう決めています。まずは第一目的の達成が大優先。ただ当日は場を盛り上げて、グレゴリーさんを大いにフォローしますね。まあ俺、女子には不慣れなので、若干の無作法はご容赦ください」
いずれ彼女を作りたいと願うロックであったが……
今回は滅私奉公の精神で行くようだ。
「わ、分かりました!」
「それより店の選択はどうなりましたか? アルレットさん達の好物を聞いて、店はリサーチ出来たのですか? 予約はしましたよね?」
「そ、それが!! み、店の予約どころか!! こ、好物を!! 上手く聞き出せませんでしたああ!!」
「えっと……予約をしていない上、好物を上手く聞き出せなかったって、どうしてですか?」
「あ、あの……ロックさんから言われた通り、手紙には好みの料理は? と書いたんですが、早くお会いしたいです。お店はグレゴリーさんへお任せしますって……今朝来た手紙には書いてありました」
「成る程。グレゴリーさんが食事会の店の選択を任されるのですか? それでどう答えるつもりですか?」
「は、はい! ご、ごめんなさい!」
「え? ごめんなさいって?」
「は、はいっ!! もう答えてしまいましたああ!!」
「え? もう答えたとは?」
「つ、つい! 嬉しくなって! 気が大きくなり! 俺に! ま、任せて くださいと! さっき送った手紙に書き、もう出してしまいましたあ! あ、あの……何とかなりませんかね?」
「何とかなりませんかね?って……手紙を出してしまったら、もう後の祭りですよ。今更、何とかはならないですね」
「そ、そんなあ!」
「ですが、改めて聞くのは、それこそかっこ悪いですし、あれだけ何度も念押ししたのに、ダメじゃないですか」
「ああ! ダメなんて、そんな事言わずに、助けてくださいよ、ろく〇も~ん!」
グレゴリーは手紙でアルレットとやりとりをしたのだが、
「お任せします」と言われたまま、結局、食べ物の好みは聞けずじまい。
少々情けないが……全く女子慣れしていない不器用なグレゴリーは、
どうしたら良いのか分からず、リーダーのロックへ泣きついたのだ。
「はあ? ろく〇も~ん! って、どこの誰ですか、それは? 仕方がないですね。分かりました、俺が何とかしましょう」
「あ、ありがとうございますうう!! 何とかしてくださ~い!! ロックさ~ん!!」
「その代わり、俺が選んだ店に対し、クレームは一切無しですよ」
「クレームなんか、絶対に入れませ~ん!!」
……こうして、ロックはアルレットとの食事会の店の選定、
予約を引き受ける事になった。
しかし、何とかすると言っても、ロックも彼女居ない歴イコール年齢。
グレゴリーほどではないが、女子慣れしているわけではない。
顔をしかめ、難しい表情となり……
ロックは、う~んと考え込んでしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……そんなこんなで、打合せやら、訓練やら、買い出しやら、
ルナール商会の依頼遂行準備が忙しい中……
時間の無い中、ロックは知恵を絞り、店の予約の手配に奔走し、
何とか食事会の店が決定。
それからすぐにスケジューリングが為され、調整。
結果、3日後に、アルレットとの食事会は行われる事となった。
グレゴリーによれば、
その日は、アルレットの勤務するレストランの定休日なので調整がついたという。
当日の待ち合わせ場所は王都の中央広場。
方向音痴のグレゴリーの遅刻防止の為……
ロックはグレゴリーのアパートへ迎えに行き、
そこからふたりで直接、中央広場某所へ。
待ち合わせの約束時間は午後6時30分。
店の予約は午後7時から。
全て、ロックが手配したセッティングである。
正直、おんぶにだっこの丸投げ状態ではあるが、
俺の時は宜しく!と笑顔のロックはグレゴリーへ念押し。
ばつが悪そうなグレゴリーは平身低頭であった。
さてさて!
現在の時刻は午後6時15分。
ロックとグレゴリーは、いつも通り少し早めに来て、女子達を待っていた。
やがて……アルレットと友人女子ひとりがやって来た。
アルレットはにっこり笑顔で親しげに、グレゴリーへ手を振った後、
ロックを見て、「先日はお世話になりました」と丁寧にお辞儀をした。
栗毛のセミロング、濃いブラウンの瞳を持つ、
可愛い系の顔立ちのアルレット。
そして気になる?アルレットの友人はといえば、
対照的なクールビューティー系美女。
髪色はプラチナブロンドで髪型もさっぱりしたショートカット。
切れ長の瞳の色はダークブルーだ。
クールビューティーと言えば……
セミロングで明るめな金髪碧眼のスーパーお嬢様リディとは、
髪型や髪色、瞳の色も違うのだが、
鼻筋がすっと通ったクールな雰囲気は何となく似ていたのである。
そんなアルレットの友人美女は、ロックとグレゴリーへやはり丁寧にお辞儀をした。
ここでロックがグレゴリーのわき腹をつん!と突っついた。
ぼうっとせず、しっかりしろ! という気合い入注入である。
びくっ!としたグレゴリーは、「あわあわ」と口を開く。
「は、はいっ! ア、アルレットさん! きょ、今日は宜しくお願い致しますっ!」
対してアルレットはにこやかで穏やか。
「ええ、こちらこそ、宜しくお願い致しますわ。そして、まずは改めてお礼を申し上げます。アガットでは暴漢に襲われた私をお助け頂き、本当にありがとうございました」
「い、いえいえ、そ、そんな! お安い御用ですっ!」
「うふふ、こちらは本日のお食事会にご一緒する、私の職場の同僚で友人でもあるエレーヌ・オリオルさんです」
「初めまして、エレーヌ・オリオルです。私からもお礼を申し上げます。親友のアルレットをお助け頂き本当にありがとうございました。本日は宜しくお願い致します」
店に行く前、待ち合わせで友人を紹介される、これは当然、想定内。
なので続いて、グレゴリーがあいさつをする。
「は、初めまして! エレーヌ・オリオルさん! こちらこそ、宜しくお願い致します。こちらが自分が所属する冒険者クラン、ステイゴールドのリーダー、ロック・プロストさんです」
「初めまして! ロック・プロストです。何卒宜しくお願い致します」
と、最初の自己紹介が終わり、店へ移動する事に。
「では店に移動しましょう。自分が先頭に立ちますから、皆さんは後からついて来てください」
そう言い、ロックはゆっくりと歩きだしたのである。
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