第30話「いや、ふたりきりで会うとか、いろいろ考えたんですが……緊張し過ぎて無理っす。ハードルが高すぎて……」

何と何と何と!

5つもの依頼を、ルナール商会から一度に発注されたクランステイゴールド。


冒険者ギルド担当職員リディのアドバイスのもと、

いつ、どこへ、どこで、何を、誰がどうするという、

カテゴリーで各依頼を整理し直し、手段、手間、効率、

必要経費との兼ね合いも考えつつ……

まるで難解なパズルゲームをあっさり解くように巧みにスケジュールを組んで行く。


ここで能力を発揮したのが、クランリーダーたるロックは勿論だが、

新メンバーのウスターシュである。


付呪エンチャント魔道具製作はデリケートで緻密な作業。

細かい几帳面さと決してへこたれない根気さも要求される。


それゆえ、このスケジューリングは、ウスターシュは大得意。


びし! びしっと、指摘し、スムーズに予定を組んで行った。


そんなウスターシュに、リディも笑顔。


クランステイゴールドの『参謀役』には適任だと絶賛したのだ。


ここでリディが念押し。


「冒険者ギルドの規則にもありますが、依頼はスケジュールを始め、内容、状況、結果等に関しては関係者以外厳秘、基本的に行動は隠密裏にという方針です。必要に迫られた以外、第三者ヘ漏らしてはなりません。ご認識はされていると思いますが、何卒宜しくお願い致します」


「ただ第三者へ説明するのがOKな例外として、今回のルナール商会社員救助のように、依頼遂行中、犯罪に巻き込まれたり、賊、肉食獣、魔物等に襲撃されるなど……

結果、衛兵、兵士など、公的な治安維持権を持つ者から事情聴取があった場合、

名前、身分、目的地、仕事内容などを明かし、捜査に協力しても構いません」


との事だ。


そしていよいよ! 5つの依頼を全て完遂した場合の気になる報奨金の算定だが、

何と何と何と!! 

基本報奨金だけで『金貨4,000枚4,000万円』にものぼった。


各依頼には当然、様々なインセンティブも付くから、全てを完璧に遂行すれば、

更に更に!追加され、考えられないくらい『莫大な金額』となるのは確実である。


ちなみに支度金、着手金を兼ねた前金の支払いも、

金貨1,000枚1,000万円にもなった。


そんなこんなで、打合せは終了。


一行は冒険者ギルドを辞去、支度金も潤沢なので、

途中、地図店へ赴き、まずは今回の依頼5件関連のありとあらゆる地図を大量購入。


次に武器防具屋へ。


ロックの革鎧数着と、念の為に片刃の直刀スクラマサクスふた振り、

手ごろなこん棒を購入。


特急で、とオーダー発注していたグレゴリーの特別サイズ革鎧もようやく完成。

再び破損しても大丈夫? なように何と!都合5着も作って貰い、受け取った。

さすがにこれはグレゴリーが自腹で購入した。


ウスターシュ特製、物理、魔法とも防御力抜群な超魔導革鎧であるが、

ロックの着用可能なサイズは数着あった。


だが、さすがに、常にイージーオーダー発注するグレゴリーのサイズは無かった。

なので、彼が以前から予備で所有していた物へ、

急ぎ付呪エンチャントとして貰い、何とか『1着だけ』は間に合った次第。

これで、興奮したグレゴリーでも革鎧を四散させる事は無いだろう、知らんけど。


そして魔道具店やその他の商店へも赴き、魔導捕縛ロープ、魔導発煙筒等々、

生活物資も含め、必需品となる品も数多購入。


……ようやく帰途についた。


帰還先はウスターシュの店、『アンクタン魔道具店』


現在休業中のこの店が、先日3人で相談の結果、

クランステイゴールドの新オフィスとなったのだ。


帰路――王都の街中を歩きながら、ウスターシュは笑顔、そしてしみじみと言う。


「ははは、終わりかけていたわしの人生が、こんなにも面白くリスタートするとは思わんかったぞ。ロック、グレゴリー、本当にお前達のおかげだ!」


対して、


「いえいえ、人生が終わりかけるなんて、まだまだ、これからですよ」


「そうです! まずは100歳を目指し、そこからまだまだ元気で頑張って頂かないと……ウスターシュさんは、ウチのクランには必要不可欠な名参謀だと、リディさんも言っていたじゃないですか」


とロック、グレゴリーも笑顔である。


「ははは、ならまずは100歳まで頑張ってみるか! だが、さすがに商人の血筋もあって口が上手いよ、あの子は」


と返したウスターシュは更に、公の場なのでリディの名を具体的には言わず、


「わしが思うに……あの子は間違いなくロックに好意的だ。仕事の域を超えてな!」


と言えば、グレゴリーも同調。


「魔法使いの勘って奴ですか? でも俺も以前、そうロックさんへ指摘したんっすよ」


「おお! グレゴリーもか?」


「はいっす! でもクライアントだし、格差があり過ぎるから無理って、却下されましたけど」


「いやいや、まあ一理はあるが、いくらクライアントといえど、ロックはな、嫌みの無いさわやかな笑顔くらい見せても構わんとわしは思う」


「そうっす! やり過ぎはヤバいっすけど、ロックさんみたいな塩対応もいかがなものっすか、ですよ」


ここでロックも参戦。


「いやいや塩対応って……グレゴリーさん、俺、そんなに事務的ですか?」


「ええ、いくら仕事中とはいっても、もう少し笑顔があっても良いかと思いますよ、ロックさんは」


「うむ! 激しく同意だな! ロックはもう少し笑顔があった方が必ずモテる!」


そんなこんなで、和気あいあい?と会話を交わしながら、

3人はウスターシュの店へ到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


休業中である店は、手を加えられ……


販売スペースであった場所に、受付が設置、

そして応接セット2組とついたてが置かれ、客への応対と打合せが可能となった。


そしてロックが空間魔法で付呪魔道具を回収し、空となった倉庫には、

会議兼食事用の長テーブル、机、書架、そして仮眠用のベッドも置かれ、

打合せと食事、寝泊りも出来るようになったのである。


それらの費用はとりあえず全てロックが支払った。


そしてこれを機に、報奨金分配の再調整がされ……

結果、リーダーのロックが4割、サブリーダーのグレゴリーが2割、

顧問のウスターシュが2割、残りの2割を共用費という事となった。


今後、このような費用は共用費から出そうという話にもなる。


さてさて!

戻って来た3人は早速打合せを行う。


まずは最初と2番目の依頼がほぼ連続で遂行される。


いつ、1週間後に出発。


どこで何をする、

王都近郊にあるルナール商会系列のピオニエ農場とコルヌ牧場、

気になる依頼内容は、常駐のスタッフと協力をしつつ、

窃盗を働く賊の捕縛と害を為す魔物の討伐である。


3人でいろいろと意見が交わされる。


「昼だけではなく、夜間は勿論、深夜のパトロールもありますね。というか近くで相手に見つからないよう待機し、捕縛、討伐とも実施するとか」


「で、あれば! 気配を消す隠形対応、夜間対応、などの魔道具があればいいですね」


「うむ! お安い御用だ。楽勝、楽勝。それと捕縛と討伐はアプローチと対処方法が全く違う。捕縛ならば、相手に怪我をさせず無力化出来るものも有効だろうよ。それぞれの装備、魔道具をしっかりと用意しておこう」


そして現場への移動だが……


ふたり乗りの人力車を既に購入済み、

グレゴリーにけん引して貰う事となっている。


更に王都内、王都郊外でテスト走行も済ませており、

スムーズに走れる事が実証されていた。

ちなみにグレゴリーがけん引した人力車の巡航速度は平均約10㎞、

最高速度は時速20㎞強になった。

ただ地形、路面により著しく変わる。

時間がある時、航続距離のテストもする予定だ。


この人力車は、現場でウスターシュが必要不可欠な場合、

出張って貰う為にはどうしたら? と考え、ロックが購入したもの。


パワー自慢のグレゴリーでも、大型馬車はけん引が困難。

ゆっくり動かすくらいは可能だが、

馬が引くように速く走らせる事は難しいのだ。


ただ人力車は馬車とは違い、馬のエサやり等の必要が無い。

空間魔法収納の手間は全く同じだが、手ごろな大きさで小回りもきく。


他にもいろいろ用途がありそうではあるし、

もしも将来、馬車を購入したとしても、

ケースバイケースで使い分ければ良いとロックは思う。


また出張る必要のない依頼の場合、

ウスターシュはこのオフィスに留守番という形で常駐となる。


そして1番目、2番目の依頼におけるウスターシュの参加だが、

相談に相談を重ねた結果……


窃盗を働く賊の捕縛と害を為す魔物の討伐という実務。

深夜の対応も、という事で、健康面を考え、不参加。

全員の意見が一致、オフィスでの待機という事となった。


「ふむ、賊、魔物との戦いや深夜対応等々、万が一何かあって、迷惑をかけ、お前達の足を引っ張ってはいかん。なので申し訳ないが、わしは無理をせずのスタンスで行かせて貰う。その代わり、このオフィスで連絡受付け、残り3件の依頼の精査、新たな魔道具の製作準備などをしておくよ」との事。


そう!

超ベテランたるウスターシュの立ち位置は、

オフィスでの連絡役、事務処理役、新魔道具の開発、

メンテナンス役等々で、これまた全員の意見が一致した。


ここでロックの提案。


「今回受諾した都合5件の依頼に関し、ウスターシュさんの魔道具でほぼ対処可能とは思いますが、打合せをし、足りない、というものがある場合、必要な際に無いと困ります。購入可能な時、思い立った時、こまめに購入しておきましょう」


「賛成です!」


「うむ、ロックの言う通りだな! すぐ魔道具は作れんからな。だが経費節減の意味もある! 改めて魔道具のスペックを精査しておこうか」


打てば響くという感じで、打合せは極めてスムーズ。


ここで、グレゴリーが「はああああ」と大きくため息を吐く。


少し表情が曇っている。


「どうしたのですか? グレゴリーさん。浮かない顔をしていますが」


「はい、ロックさん。アルレットさんとも、この打合せのように上手くやりとりが出来ればなあという願望がわき起こりまして」


「いや、この打合せのように上手くやりとりが出来ればなあって……手紙のやりとりはしているんですよね?」


「はい、ですが、上手くコミュニケーションが取れてないっていうか……」


「では依頼の開始まで、まだ少し時間がありますから、アルレットさんの都合を聞いて、ふたりだけで会い、直接顔を突き合わせていろいろと話せば良いのでは?」


「いや、ふたりきりで会うとか、いろいろ考えたんですが……緊張し過ぎて無理っす。ハードルが高すぎて……」


ここまで煮え切らないと、いらっとするのが普通だろう。


傍らで聞いていたウスターシュも、


「こら! グレゴリー! お前はクランの先頭に立つ盾役タンクで戦士だというのに、何を意気地の無い、ヘタレた事を言っておるのか、情けない!」


と嘆いていたが……ロックは突き放したりはしなかった。


「仕方がありません、では提案です。アルレットさんにお願いし、友人をひとり誘って貰い、俺が入り4人でメシでも食べますか? ふたりきりが無理でも、それなら出来るでしょう?」


「え!? それって、合コンですか?」


「いえ、合コンではありません。単なる食事会ですよ」


そう言いながら、ロックはウスターシュへ向かい、


「こういう事情なので、この企画はウスターシュさんへはお声がけしません。申し訳ありませんが」


と言えば、ウスターシュは笑顔。


「いやいや、わしの事は全く気にせず、グレゴリーの恋路を応援してやればよい」


と答えてくれた。


その最中も、グレゴリーは考え込み……


「う~ん……な、成る程! 単なる……食事会……ですか! ふたりきりではなく、4人で、そ、それなら! い、行けます!」


「では、アルレットさんへ、4人の食事会って事で誘えますか? あ、そうそう、以前も俺からは言いましたが、女子達の好物を聞くのを絶対に忘れないでくださいね。それをもとにグレゴリーさんが、該当する店を探すんです」


「は、はいっ! メモります! 女子達の好物を聞くのを絶対に忘れないと! それで俺が該当する店を探すと! ……よし! 分かりましたっ! すぐに誘ってみます! 超速達の魔法鳩便で!!」


そんなグレゴリーを見て、ウスターシュは、


クランを守る盾役ならば、もう少し、しっかりしてくれよ!


と苦笑していたのである。

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