第29話「成る程。では5つ、全てをステイゴールドへ依頼致しましょう」
1週間後……
ロックは、ウスターシュから無償で譲られた
目録作成の上、全て記憶、ディスプレイされたままの状態で空間魔法を行使、
あっさりと仕舞ってしまった。
これは正直凄い事だ。
ロックが身ひとつで現場へ行きさえすれば、
その場で収納された魔道具を取り出して使い、様々な案件に対処が可能となった。
通常で運ぶなら、馬車数台をも要するから、便利な事この上ない。
移動手段もグレゴリーの快足さ&持久力があれば、全く問題ナッシングだ。
そしてクランメンバーといえば……
グレゴリーは1週間みっちりマンツーマンで打撃系武器講座を受講。
手ごたえを感じていたのは決して錯覚などではなく、
コンタクトスキルが大幅に改善、著しく向上された。
最初は、百発百中クリティカルヒットと、とんでもなく大きな目標を立てた。
ただやはりそこまでは行かず、現状では7割強の確率でヒットし、
クリティカルヒットもそのうち、5割ほど。
しかしこれまでは10回に1回しか当たらなかったからぶり率を考えたら、
とんでもなく大きな進歩だ。
頼りになる戦士として、計算出来るようになった。
そしてまだまだ伸びしろはあるぞと教官からは太鼓判を押され、
大いに気を良くしたグレゴリーは、引き続き打撃系武器講座を受講しながら、
更に盾役講座も受講。
防御のスキル習得を目指し、がちむちの肉体を更に鍛えるべく頑張っている。
そうこうしているうちに……
アガットでナンパ男どもから救出したアルレット・クラヴリーからも、
無事王都へ戻ったと、グレゴリー宛で魔法鳩便の手紙での連絡があった。
グレゴリーは、ロックの忠告通り、タイミングをはかり、
貰ったアルレットの連絡先へ、
魔法鳩便で自身が王都帰還済みの手紙を出しておいたのだ。
なので、返事を貰ったグレゴリーも魔法鳩便で再び手紙を送り、
改めてやり取りをしたようである。
聞けば、アルレットも休暇明けのレストラン勤務で多忙との事。
ふたりが再会するのは少し後になりそうだとか……
そんなふたりの仲が上手く行くよう、深まるよう、
ロックがアドバイスした通り、まずは、さりげなく、
彼女の好物を聞き出せれば良いのだが……
そして、ウスターシュも70代半ばにして、全く気力が衰えず意気盛ん。
冒険者登録を終え、確定したランクは何と、C。
ランクDのロックとグレゴリーよりも格上の冒険者となってしまった。
これで冒険者ギルド所属の冒険者となり、
正式にクランステイゴールドのメンバーとなった。
そして正式なメンバーになった事から、
ロックは内輪の事情を話す事を解禁しても良いと判断。
アガット往復輸送の発注から経緯と、強盗事件の顛末を聞き、
ルナール商会との絆が深まった事を喜ぶも……
担当である冒険者ギルドの職員リディが会頭の孫娘である事も知り、
ウスターシュは大いに驚愕。
更には今回の初仕事で、前払い金を含め、
金貨計
やはりロックとグレゴリーは凄い奴なんだ! と認識を新たに。
若者ふたりに対し、長きにわたり
自分の70年以上の人生経験、及び我が子同様に愛する自作の魔道具を使い、
大いに助けてやろう、必ず幸せにしてやろう! と決意したようだ。
『作戦立案補佐』という役目がら、ロックとともに、
ルナール商会の仮依頼書にじっくりと目を通し、あれやこれやと相談していた。
そんなこんなで、更に7日間が過ぎ……
計14日間の講習受講で、グレゴリーはコンタクト率を更に上げつつ、
盾役講座の受講により、防御スキルも習得した。
この防御スキルとは『呼吸法を用いた身体強化法』である。
補足すると、独特な呼吸法により魔力の一種、闘気を肉体にまとい、
物理的なダメージを軽減する術である。
ウスターシュが製作した数多ある魔道具の中には、
防御魔法が
身体強化法と組み合わせれば、盾役たるグレゴリーの防御力は、
オークは勿論、オーガにも対抗出来そうだ。
ご存じの方も多いと思うが、念の為、極めて簡単に補足すると……
オークはイノシシに似た
身長は約1,5から2m前後、
オーガも同じく巨大な類人猿に似た人型魔物で身長は約5mにも達する。
どちらも群れで人間を襲い、容赦なく捕食する、凶暴で危険な魔物である。
ちなみに強さは小型の猿のような魔物ゴブリン1体を基準にして『1』とすると、
オークは5倍、オーガは10倍の強さなのだと冒険者間では言われていた。
さてさて!
そして話を戻せばロックも、仮依頼をウスターシュと吟味する傍ら、
得意とする魔法杖射撃の訓練を続けるのは勿論、
譲って貰った数多の魔道具を、ギルドの練習場で、
ず~っとテストし続けていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「満を持す」という言葉がある。
充分に準備を整え、機会がやってくるのを待ち受ける事だ。
しかし、この言葉は今のステイゴールドにはちょっと当てはまらない。
そう! まだまだ「満を持してはいない」のだ。
何故なら、ロックとグレゴリーは伸びしろがたっぷりあり、
発展途上の未完成、だから。
それゆえ、「鉄は熱いうちに打て」という言葉通り、
「柔軟性と伸びしろがあり、その時期に鍛えるべきだ」という教えにのっとり、
知識習得と鍛錬をすべきであろう。
幸い、魔法職人のウスターシュという新たな強力メンバーも加わった。
彼が譲ってくれた魔道具が新たな依頼完遂には、大いに役立つに違いない。
理想を言えば、更に新たなメンバーを加え、各自が更にビルドアップし、
本当の万全の状態になってから、ルナール商会の発注する新たな依頼を受諾したい。
それが慎重な性格たるロックの本音。
だが、「好機到来」という言葉もある。
またとない、良い機会がめぐって来る事。
絶好の機会に恵まれる事だ。
であれば、ルナール商会が支店社員救出と依頼完遂の好意を示し、
クランステイゴールドへ、
「仕事を発注したい! オファーしたい! ぜひ専属になって欲しい!」
という、超前向きなアプローチ。
そんな大チャンスを逃す手はない。
となると、一体どうすればいいのか?
そう!
誰かが言っていたが、『育てながら勝つ!』しかないのだ。
という事で前振りが長くなったが、2週間の時間で、
各メンバーが依頼を受ける準備は一応は整った。
よって、ロック達は2回目の仕事を受諾する事にした。
まずロックとウスターシュが仮依頼書の内容を整理、
まとめ上げ、更にグレゴリーを入れ、依頼選択の最終決定をした。
最終決定といっても一択ではなく、希望の順位をつけ、
いくつかの候補に絞るという形。
打合せをする際、どの依頼が良いのか、リディにアドバイスを貰おうと考えたのだ。
その上で、3人は冒険者ギルドへ、リディを訪ねる。
事前に連絡を入れておいたので、訪問日当日、
リディは打合せ用に小会議室をリザーブしてくれていた。
1階の受付で呼び出すと、すぐにリディがやって来て2階の小会議室へ。
恐縮するリディにロックがことわって、リーダー自らお茶の準備。
ちなみにロックは全くこだわらない。
基本的に自分の事は自分で、このような時も動ける者がやれば良いと思っている。
そして全員が着席し、打合せが開始された。
ロックが提示したのは、先日リディから渡された仮依頼書である。
「リディさん、3人全員で相談し、決めました。希望順位という事で番号を5つ記してあります」
「はい、分かりました。拝見させて頂きます」
「それでご相談しつつ、リディさんから、アドバイスがあればお願いします」
「了解ですわ」
頷き、番号が付けられた仮依頼書に目を通すリディ。
リディの確認は凄く早い。
そして正確だ。
にこっと笑い力強く頷く。
「成る程。では5つ、全てをステイゴールドへ依頼致しましょう」
「え!? 5つ全てを、ですか?」
さすがにロック達は驚いた。
5つの候補を挙げたが、何とかひとつ、発注があれば良い。
せめてふたつ発注があればと思っていたからだ。
それが想定外の5件発注!!
「はい! 会頭と副会頭からは当商会から出す依頼を出来うる限りステイゴールドへ受諾して貰うようにと命令されていますので」
リディはそう言うと、「うふふ」と面白そうに笑ったのである。
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