第38話「本当に本当に申し訳ございません! ウチのスタッフが相当、早とちりしたようで深く深くお詫び申し上げます」
王都衛兵隊副隊長のブリス・エリュアール以下、
衛兵達から大いに励まされたロックとグレゴリーのクランステイゴールド。
その後は比較的順調に進む。
ロックの遠距離魔法射撃の風弾、ふたりの魔法杖の威圧により、
敵を蹴散らし、追い立てながら、ゆうゆうと進んだのである。
そして事前に確認していた通り、王都から80㎞地点を左折、脇道へ入り直進。
結局、途中の戦闘、休憩時間等々を入れ、
王都を出発してから約4時間、午前9時過ぎにピオニエ農場へ到着した。
広大な敷地の境界線にぐるりと張り巡らされ……
獣、魔物除けの魔法札が規則正しく貼られた、
資料によると『大囲い』と呼ばれる高さ10mほどの木製防護柵が、
ふたりの目へ飛び込んで来る。
リディさん、マティアス部長経由で、「本日到着する」と、
農場長宛に魔法鳩便で連絡が行っている……はず。
「おお! す、凄いっすねえ! ここがピオニエ農場ですか?」
グレゴリーが驚くのも無理はなかった。
大囲いの隙間から、ちらっと見えるのは、一面が緑、緑、また緑。
事前に渡された資料によれば、この農場は王都サフィールとほぼ同面積だとか。
生産物は主に王都へ運ばれ、王都市民の食生活を支えているという。
だがグレゴリーも、とある村の騎士爵家の出身。
なので広々とした農村とか、見慣れているのでは?という疑問も湧くが……
そんなロックの表情を読んだのか、
「ロックさん、俺の故郷なんて比じゃないくらい大きい農地で農場っす。俺の実家が治めていた領地の農村は小規模な農家の集合体っすから」
そうか! 成る程!
これで謎が解けた!
「うんうん」とお互いに納得するロックとグレゴリー。
ロックがグレゴリーの背から降り、
しばし歩いて、ふたりは閉ざされた正門へ回った。
正門前には、門番役であろうか、
武装した自警団らしき農場スタッフがふたり立っていた。
ロックとグレゴリーへ、怒りの視線が注がれている。
「おかしいです。あのにらんでいる門番さん達から、結構な殺気を感じますよ、グレゴリーさん」
「え!? まじっすか? 変ですねえ……」
小声でささやき合い、訝しがるロックとグレゴリー。
ピオニエ農場の人々は、笑顔で出迎えをしてくれるのかと思えば全く真逆。
「農場の中からも凄い殺気を感じます。注意してください。念の為、スタンバります」
「りょ、了解っす」
これは……完全に変だ!!
とふたりが感じた、その瞬間!
門番役の自警団スタッフが、
「うおおおお!!」
と叫べば、いきなり正門が大きく開かれ、
十数人の自警団スタッフが現れて、門番のふたりへ合流。
そして!
合計20人ほどの自警団スタッフが、何と何と!
憤怒の表情で、煮えたぎるような『本気』の殺気を放ち、
剣を持ち、弓を構え、ロックとグレゴリーへ迫って来たのだ。
これは想定外の反応!
本店から連絡は行っているだろうから、大歓迎してくれると思ったのに……
ええっと、何だろう? どういう事でしょう? この敵認定は?
「俺達が来る連絡……来ていますよね?」
と大いに困惑するロック、グレゴリー。
「なめやがって! まさか、こんな朝から来るとはな!」
「毎晩毎晩、収穫物を根こそぎ盗みやがって!」
「ふたりなら、絶対逃がさねえぞ! ぶっ殺してやる!」
殺気を込めた声を張り上げる自警団スタッフ達。
どうやら!
冒険者という風体のロックとグレゴリーの事を、
『窃盗常習犯』と間違えているようだ。
ヤバい! こっちを本気で
しかし!
こういう突発的なイレギュラー時のシミュレーションも、
ロック達は訓練済みで万全。
対策はバッチリである。
ロックの手には空間魔法で取り出した魔法杖が1本!
「第2号装備! アンチバーサーカー強力鎮静魔法杖を使用します! 行きます! 発射!」
ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!
ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!
ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!
ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!
距離が近い事もあり……
魔法杖射撃の達人、ロックが放った魔力波動は寸分
襲いかかって来る自警団スタッフ達へ命中した。
補足しよう。
若干、品名は長いが許して欲しい。
ウスターシュが嬉々として名付けたものなので。
というわけで話を戻すと、
ロックが使用した『アンチバーサーカー強力鎮静魔法杖』は、
ウスターシュが
はやる気持ちを抑える強い魔力波動を放ち、
上がり過ぎた対象者の気合を下げ、平静状態に戻す。
我を失うくらい興奮状態にある対象者を、
『無傷、ノーダメージ』で無力化し、そのまま確保する為のものだ。
但し、若干の回復効果も含まれており、気力、体力の消耗し過ぎもケアする。
注目!
この『無傷、ノーダメージ』で、というのが売り。
今後、このように誤解が生じた時とか、過剰防衛阻止とか、
かかわりのない第三者へ極力影響が及ぶのを防ぐ為とか……
野外は勿論、王都、町村、公共施設、個人宅等々、様々なシーンで、
『アンチバーサーカー強力鎮静魔法杖』は、有効な手立てとなるに違いない。
先に使用した『超魔導威嚇&束縛魔法杖』同様、使用頻度が大いに増しそうだ。
さてさて!
放たれた魔力波動は襲いかかろうとした自警団スタッフ達を包み込む。
「うおおお……」
「あうう……」
「ぐっ……」
すると!
アンチバーサーカー強力鎮静魔法杖の効果はてきめん。
全員が唸りながら脱力し、武器を持ったまま、
がくっ!と膝をつき、座り込んでしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
座り込んだまま、ううう……と力無く唸り続け、
ロックとグレゴリーをにらみつける自警団スタッフ達。
ロックは魔力を制御し、放ったせいか、
興奮は収まったのだが、恨みの念はいまだ消えていないようだ。
ここは誤解を解かなくてはいけない。
ロックが自警団スタッフ達へ大声で呼びかける。
「皆さ~ん!! 俺達の話を聞いてくださ~い!!」
「落ち着いてくださ~い!! 我々は賊ではありませ~ん!!」
対して、自警団スタッフ達はジト目&無言……
「…………………………」
ロックとグレゴリーは塩対応にもめげずに、更に呼びかける。
「俺達、ルナール商会本店からご依頼を受けた冒険者クランステイゴールドで~す」
「彼はリーダー、ロック・プロスト、自分はサブリーダーのグレゴリー・バルトですよお!」
「…………………………」
来訪の意図と、名乗りをしたが、やはり、ジト目&無言……
仕方がない!
アガットで使った手で行こう。
とロックとグレゴリーは頷き合う。
身内にしか分からない人名、仕事内容を相手へ告げるのだ。
ええっ!? どうして!? 何故それを知ってるの!?等々、
何らかの反応を示し、『聞く耳』を持ってくれるはずだ。
ふたりは、ことさら大きく声を張り上げる。
「王都サフィールの冒険者クランステイゴールドです!! ルナール商会本店営業部部長、マティアス・バシュロ様のご指示で伺いましたあ!!」
「本店営業部部長、マティアス・バシュロ様より!! この農場に害為す賊の捕縛!! 魔物の討伐を請け負い!! ただ今、参りましたあ!!」
麗しきリディの熱狂的な
商会トップのエドモン会頭、
ナンバーツー、レイモン副会頭の準専属要請はあったが……
組織上、直接の発注主で窓口は、
ムキムキイケメン中年、『マティアス部長』である。
それも『フルネーム』で告げた。
ここまで言うと……ようやく自警団スタッフ中、数人が反応する。
「あ!? もしかして!!」
「そ、そういえば!!」
こうなると記憶が呼び覚まされるのは早い。
「ええっと、確か、数日前、本店から魔法鳩便で連絡が来ていたな!」
「そうだよ! アガット支店社員を救った魔法使いと営業部長同様のムキムキマンのふたりが来るって話だ」
「でもまだ朝の9時過ぎだぞ! 今朝、王都を出発との話だが、到着が、凄く早くねえか?」
「いや、アガットへもたった1日で到着した、すっげえ韋駄天って話だぞ!」
こうして……ようやく誤解が解けた。
自警団スタッフ達の中で上司格らしい30代半ばくらいの男が、
何とかというように立ち上がり、
「お、おいっ! い、急いで農場長を呼んで来い!」
と命じ、ここでようやく脱力感が完全に取れたのか、
ふたりほど慌てて駆けだして行くと、
その上司らしき男は、近付いて来てふたりへ平身低頭。
「おふた方、本当に申し訳ありません! 私は副農場長のテランス・ビゴーでございます」
とすまなそうに謝罪した。
その上司同様、残った自警団スタッフ全員も、
「「「「「申し訳ありませんでした!」」」」」
と一斉に謝罪した。
対して、ロックとグレゴリーは、
「いえいえ、単なる行き違いですから」
「誤解は解けたし、気にしないでください」
と手を横へ振った。
そうこうしているうちに、連絡に行った自警団スタッフと共に、
40代後半の男が登場。
グレゴリー、マティアス部長には及ばないが、がっつりとした偉丈夫である。
日焼けしてて、歯が真っ白で目立つ。
管理職だが、現場に出ているようだ。
そして、同じく平身低頭で開口一番。
「おはようございます! 王都より、遠路はるばるお疲れ様でございます! 本当に本当に申し訳ございません! ウチのスタッフが相当、早とちりしたようで深く深くお詫び申し上げます」
と謝罪。更には、
「私が当ピオニエ農場の農場長、アルバン・コルディエです。ごあいさつは後程で構いません。本館へご案内致しますので、どうぞ、こちらへ」
と
そして自警団スタッフ全員を引き連れて行ったのである。
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