第26話「さすがだ、かなわんな、ロック君には。全てお見通しとはな」

魔道具全ての譲渡を、ロックにきっぱりと断られ、

その上、勢いのみで物言いをしていると、なだめられ……


「うおおおおんんん!!!」


遂にウスターシュは、大声で泣きだしてしまった。


おんおんおんおんと号泣するウスターシュ。


溜まっていた感情が、一気に爆発したかのようだ。


「まあまあまあ、では少し話しましょうか?」


とロックは言い、回復の魔法杖を使った。


先ほども使った、魔法杖であったが、この杖の回復魔法には、

体力回復、傷の治療、痛みの緩和の他、鎮静の効能もある。


しれっと使えば、ようやくウスターシュは「ぐすぐす」しながら泣き止んで行く。


ロックは自分のハンカチを差し出す。


「これ、俺のハンカチです。良ければ涙をふくのに使ってください」


「………………………………………………………………」


「落ち着いたら、気晴らしがてら俺と一緒に、外の飲食店へテイクアウトの弁当でも買いに行きませんか? 戻ってから、この店で話しながら晩飯を食べましょう」


ロックひとりでも買い物に行っても良かったが、

そのまま、ばっくれるのか?と思われる……かもしれない。


なので、ウスターシュを誘ったのだ。


「す、すまない……」


「いえいえ、何か思い切り吐き出したい事があるんですよね? 俺でよければ付き合います」


「ああ、すまん!」


という事で元気になった?ウスターシュはロックに連れられ、

近所のテイクアウトを売る飲食店へ。


普段からよく利用するらしくウスターシュはこの近辺の食事事情に詳しかった。


ウスターシュの指示で、さくさくさくっと、手早く弁当と飲み物等を購入。


アンクタン魔道具店へ戻った。


住居兼店舗にはウスターシュの他には誰も居ない。


ふたりで支度をし、小宴会の趣きに。


エールで乾杯をした後、ウスターシュが礼を言う。


「客なのにあんたとか、お前呼ばわりしてすまなかったな、ロックさん。ありがとうな。いろいろと気をつかってくれて」


「いえいえ、どういたしまして、ウスターシュさん。それと俺なんかまだ若造ですから、さん付けは不要です。ロックと呼び捨てで構いませんよ」


「ははは、お客相手に呼び捨てはまずいだろう。わしはさっき、君へだいぶ乱暴な物言いをしてしまった……本当に申し訳なかった!」


「とんでもないっす」


ふたりは既にあいさつを交わしていて、氏名職業は互いに認識している。


「で、見ず知らずの俺へ、何故、店の魔道具全部を無償で譲ろうとしたんですか?」


「ああ、実はな……」


と言い、ウスターシュは理由を話し始めた。


ロックの指摘通りだった……


ウスターシュは、自分が付呪エンチャントして作った魔道具に愛着がありすぎて、客に売るのが惜しくなり、作って飾っては眺め、作って飾っては眺め……

自分だけでいつくしんでいた。


かといって商品を客へ売らなければ金は稼げず、店は維持出来ず、

結果、生活も出来ない。

なので辛いのをこらえつつ、生活の為に最小限の販売で今までしのいで来たのだ。


「しかし、ある時気付いた。ハッとしたんだ」


「ですか」


「ああ、わしも既に70代半ば。いつお迎えが来るか分からん。天涯孤独のわしが死んだ後、こいつらは見ず知らずの奴らの手に渡り競売にかけられ、それぞれが、ばらばらになってしまうとな」


「でしょうね……」


「丁寧に丹念に心を込め作り上げたわしの作品達だ。口さがない奴らからは、いっそ壊して廃棄すれば、いいんじゃね? などと馬鹿な事を言われたが、そんな事出来るはずもない! 可愛い作品達を壊し、捨てるなどすれば、わしの心は死ぬ……そして! この世にわしが生きたあかしも、痕跡こんせきさえ皆無となってしまう!」


悲痛なウスターシュの叫び。


「ならば! 今のうちに、わしがこの人だ! と見込んだ人物に全て一緒に譲り、大切に使って貰おうと考えた」


「成る程。でも使うというのは?」


「ああ、これまでは大切に飾り眺めて来たが、これも根本から考え直した。本来、魔道具は使われてなんぼだと、な」


「まあ、それも確かに、そうですね」


「このまま誰にも使われず、単なる鑑賞用と化す、というのもな。そう思ったら、こいつらがとても不憫ふびんになった」


「お気持ちは良~く分かります」


「ありがとう! 話を続けよう。譲る相手のあても無く、他の方策も無く思い悩み、絶望。無気力状態となり果てたわしは、とりあえず店を休業中にし、ぶらぶらと王都の街中をさまよい歩いていた。そこでロック君、魔道具を探しつつ、不可思議かつ面白い波動を発する君に出会ったというわけなんだ」


「成る程、これまでの経緯と現在の状況は良く分かりました」


「だろ!! ここまで話して更に決意が固まった!! ロック君!! 君ならば!! 人生の終焉しゅうえんにさしかかったわしの作品を受け継ぎ、絶対大事にし、有用に使いこなしてくれる!! ひとりのおいぼれ魔法使いの直感だ!! わしの魔道具全てを譲り受けてくれ!! お、お願いだっっ!!! た、頼むっっ!!!」


絞り出すように声を張り上げたウスターシュは両手を合わせ、

拝むようにロックへ熱く熱く懇願したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そんなウスターシュの切なく、重い懇願に対して、

ロックは「う~ん」と腕組みをし、考え込んだ。


ウスターシュは、少しいらだつ。


ここまでお願いしたのにと、れて声を荒げる。


「ロック君!! 何を迷う事があるっ!! 無償で全てを譲ると言っておるのだぞっ

!!」


「ですが、このように素晴らしい魔道具達を、いくら何でも全てタダとは……」


「わしが構わん!! 良い!! と言っておる!!」


「そこまでおっしゃるのなら…………よし! 分かりました! 但し、こちらにも条件があります」


「む! 条件だと?」


「はい! ご希望通り、ウスターシュさんの魔道具は全て無償で貰い受けます。そして、俺が魔道具をしっかり使いこなそうと思います」


「おお! そうしてくれるか! 心の底から嬉しいぞ! で、条件とは?」


「はい! 実は俺、クランステイゴールドという冒険者クランのリーダーをしています。クランの方針というか、青臭い理想かもしれませんが、出来る限り難儀する人々の為に役立つ依頼を受けようと考えています」


「おお! 素晴らしいな!」


「はい、まあ依頼される中には、ある意味汚れ仕事もあるかもしれませんが、犯罪やそれに準じるもの以外でしたら、ケースバイケースで受諾を考えたいと思います」


「うむ! 清濁併せ吞むという事か。世の中とはそういうものだよな」


「はい! そうです! 先ほども言いましたが、ケースバイケースで断る時はきっぱりとお断りします」


「うむ、ロック君には譲れない一線がある、という事だな」


「はい、クランの方針に沿って、受け継いだウスターシュさんの魔道具を、俺はガンガン使いこなします。難儀する人々の為に役立つように」


「うむ! 分かった! 宜しく頼むぞ!」


「それで魔道具の無償譲渡をOKする条件とは、一応メンバーには確認を要しますけれど、ウスターシュさんと業務提携を交わす事です」


「な!? 何い!? わ、わしと業務提携を交わすだと!?」


「はい! もしかしてウスターシュさんは、俺に魔道具全てを譲った後、魔法職人をすっぱりと未練無く引退なさるおつもりかと邪推しまして」


「うお! す、鋭いな!」


「やはりそうでしたか。残念ながら、まだまだ引退はさせません」


「な、何!? わしをまだ引退させないだと!?」


「ええ! 何故ならば、ウスターシュさんが発する波動は気力が衰えるどころか、とんでもなく、みなぎっていますから」


そんなロックの言葉を聞き、しばしの沈黙の後、ウスターシュは苦笑する。


「…………はははは」


そして「ふう」と息を吐き更に言う。


呆れた、感服など、いくつかの感情が混在した波動がロックへ伝わって来る。


「さすがだ、かなわんな、ロック君には。全てお見通しとはな」


「いえいえ、話を戻しますと、お譲り頂いた魔道具の運用に関するアドバイス、メンテナンス、更には新たな魔道具の開発、製造等々、他にもいろいろ、ウスターシュさんのお力は、まだまだ必要なんです」


「おお、そうか! こんな年寄りの力がロック君には、まだまだ必要か!」


「はい! 凄く凄く必要です。それに俺、魔法学校では全然ダメでしたが、ウスターシュさんにご指導頂き、改めて付呪魔法エンチャントを学びたいと思います」


「おおおおお!!?? ロ、ロック君が!!?? わ、わしの弟子になるだと!!??」


「はい! 弟子にしてください! 付呪魔法エンチャントの師匠となってください! 未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します!」


きっぱりと言い切ったロックの言葉を聞き、


「おおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!」


ウスターシュはまたも感極まり、号泣していたのである。

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