第27話「はい! ですので! いかがでしょう? この際、ギルドの冒険者登録をされては?」

「はい! 弟子にしてください! 未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します!」


弟子になると、きっぱりと言い切ったロックの言葉を聞き、


「おおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!」


ウスターシュはまたも感極まり、号泣していた。


……こうして、ロックとウスターシュは完全に打ち解け、話は更に盛り上がった。


更にウスターシュはロックを倉庫へ連れて行き……


飾ってある魔道具をひとつひとつ説明して行った。

スペック、使用方法、効果効能等々を、である。


結局、説明は日付が変わるまで、そして更に続き、

それでも終わらず……明け方に時間切れ。


双方に回復魔法杖を使ったロックは、ウスターシュの店舗兼自宅に泊まる事に。


そのまま就寝。


だが……

いつもの早朝起床の癖ですぐ目が覚めたロック。


今後は出入り自由だと、ウスターシュから予備のカギを貰っていた為、

施錠して市場へ。

まだ通常の飲食店は営業を始めていないからだ。


少し歩きはしたが……

赴いた市場でパン、惣菜、サラダ、飲料付きの朝食セットをふたり分購入し、

持ち帰った。


購入した朝食をテーブルへ、てきぱきと並べていると……

ウスターシュが起きて来た。


「おお、良い香りがすると思ったぜ、ロックが買いに行ったのかよ?」


「ええ、先ほど市場へ行って来ました」


そう!

昨日のやり取りの結果、心の距離を縮めたウスターシュは、

弟子入りしたロックを呼び捨てにし、

『さん付け』で呼ばないようになっていたのだ。


「おいおい、わしの分も買って来てくれたのか?」


「ええ、好き嫌いは無いとおっしゃっていたので適当に、ですけど」


「ああ、全然構わんよ。それより金を払おう」


「いえ、今回は俺のおごりって事で」


「いやいや、ロック、弟子のお前におごって貰うわけにはなあ」


「いえ、ケースバイケースで、いいんじゃないんでしょうか」


というやり取りが数回あり……根負けしたウスターシュはほこを収める。


「よし分かった! では、ご馳走になろう。その代わり次回は必ずおごるぞ。美味い居酒屋ビストロを知っているんだ。そこで思いっきり飲み食いさせてやる!」


「分かりました。楽しみにしておきます。ところで昨夜というか、明け方まで起きていましたが、ウスターシュさんは大丈夫ですか? 俺は全然平気なんですが」


「ああ、何故なのか、わしも全然大丈夫だ。すぐ続きが出来そうなくらいだよ」


続きというのは、勿論ウスターシュ秘蔵の魔道具レクチャーだ。


「あはは、全然大丈夫ですか? 一応、回復魔法杖を使いますね。それと魔道具レクチャーはまた後程で。まずはウチのクランメンバーにウスターシュさんを会わせ、一緒に仕事をする了解を取っておきたいので」


「おお、そうだった! まずは仲間に会わせると言っておったな! グレゴリー君というんだっけ?」


「です! 今日の午前11時、冒険者ギルドの1階ロビーにて待ち合わせしています。

以前、そして昨日にもクランの新規加入メンバーの相談を彼とした時、人選は俺に任せると言ってくれたので問題は無いと思いますが、筋は通しておきたいので」


「だな! わしもこれからともに仕事をするのなら、行き違い無く、わだかまりも無く気持ち良くやりたい。仲間に対し筋を通すってのはロックの言う通りだと思うし、まずはグレゴリー君と顔合わせしてあいさつだな」


やたらと饒舌になるウスターシュ。

誰が見ても一目瞭然、初めて会った時とは大違い、やる気がみなぎっている。


「はい、昨日冒険者ギルド講座の無料経験を午後いちで受けましたから、折り合いそうならば引き続き、本日も受けると思います。これからすぐ彼の家に行けなくもないですが、前振りなくいきなり行くのは迷惑になると」


「ああ、ロックの言う通りだ。約束の時間よりも少し早めに行き、冒険者ギルドのロビーで待つとしようか」


そんな会話を交わしながら……ロックは回復魔法杖を使用。

元気はつらつなウスターシュとともに、朝食を摂ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


朝食を摂ってひと息入れた後……

ロックとウスターシュは、しっかり戸締りをし、王都の街中へ。


グレゴリーとの約束通り、冒険者ギルドへ赴く為である。


本当にウスターシュは、昨日と全く違う。


先ほどの魔法杖の影響もあるのか、

70代半ばなのに、元気はつらつで、力強く歩いて行く。


まだ10代で、断然若いロックより遥かに足が速く、軽やかだ。


ショックで、少しへこんだロックだが、無事、冒険者ギルドへ到着した。


8時から10時のラッシュ、つまり依頼を求める冒険者達が、

一斉に押し寄せる時間帯は過ぎているので、人影はまばらだ。


ふたりで1階のロビーで、備え付けのソファに座り、待っていると……

11時少し前にグレゴリーも到着した。


リーダーのロックが、自分の知らぬ法衣ローブ姿の老人と並び、

談笑しながら座っているのに驚く。


「ロ、ロックさん、お、おはようございます! お、お疲れ様です。あ、あの、そちらの方は?」


「はい、グレゴリーさん。こちらの方は昨日、いろいろとあって知り合いとなったウスターシュ・アンクタンさんです。付呪魔法エンチャントを習得された魔法使いで魔法職人。今後、俺達に力を貸してくれる事になったんですよ」


付呪魔法エンチャントを習得された魔法使いで魔法職人! な、成る程! 凄い方なんですね!」


「で、ウスターシュさん。彼がウチのクラン、ステイゴールドのサブリーダー、戦士冒険者のグレゴリー・バルトさんです」


「う、うむ! 初めまして! 宜しくな、グレゴリー君!」


「は、はい! こちらこそ初めまして! グレゴリー・バルトです! 何卒宜しくお願い致します!」


一方、ウスターシュは想像以上だったらしい、

グレゴリーの筋骨隆々な身体を見て驚く。


「す、凄いぞ! わしの予想以上にむきむきでたくましいわい!」


そんな互いの『凄いファーストインプレッション』を聞きつつ、

ロックは話を進める。


「で、クランへの協力を本決定する前にグレゴリーさんへ話を通し、了解を貰っておこうと思って。今朝の待ち合わせ場所にウスターシュさんを、連れて来たんです」


「は、はい! わ、分りました!」


「俺の個人的な意見で申し訳ありませんが、ウスターシュさんのご協力は、俺達のクランにとって凄く大きな力になると思っています。でも今は時間が無いのと、ここでは話せない事もありますし、詳細な説明は後程、という事で」


「重ね重ね、了解です!」


「ありがとうございます。ところでグレゴリーさんの方は打撃系武器講座の無料体験はどうでしたか?」


「はい、凄く凄く良かったです! 教官さんの指導はとても分かりやすいし、俺のコンタクトスキルが改善される手ごたえは充分で、向上への期待も大きいです。ぜひマンツーマン指導に切り替えて、受講したいと思っています」


「それは良かったです。早速、申し込みの手続きをしましょうか」


という事で、ロックとグレゴリー、そしてウスターシュは受付へ。


要件を伝えると……リディは在席していた。


しばし経って現れたリディはウスターシュに気付き、


「あら? その方は?」


と尋ねて来た。


ロックは柔らかく微笑み、ウスターシュを紹介する。


「はい、この方はウスターシュ・アンクタンさんです。付呪魔法エンチャントを習得された魔法使いで魔法職人。今後、俺達に力を貸してくれる事になったんですよ」


そして、グレゴリーへ告げたのとほぼ同じコメントを繰り返した。


「リディさん、実はグレゴリーさんのマンツーマン指導打撃系武器講座の申し込み手続きをしたいのです」


「成る程。ギルドの無料体験はお役に立ったようですね。構いませんよ。私が手続きを致します」


「ありがとうございます。それでですね、グレゴリーさんに紹介しがてらお連れしたウスターシュさんにも、同席して貰おうと思いますけど、構いませんか?」


そしてロックが尋ねると、リディは即答せず口ごもり、逆に質問で返して来る。


「う~ん。ちょっとお聞きしますが、ウスターシュさんは冒険者ギルドに所属されてはいませんよね?」


「は、はい! 所属どころか、このギルド内へ入ったのは生まれて初めてです」


「そうですか……残念ながら、冒険者ギルドは基本的に、所属冒険者以外はこの1階のフロアのみ立ち入り可能、2階より上には立ち入れない規則なのです」


「そ、そうなんですか?」


「はい! ですので! いかがでしょう? この際、ギルドの冒険者登録をされては?」


「ええ!? わ、わしが冒険者に!?」


「はい! ご登録されれば、所属登録証が発行され、プラティヌ王国だけではなく、加盟する世界ほとんどの国における身分証明書になる上、様々な特典がありますわ。当然、この冒険者ギルド本部の本館2階へも立ち入り可能、会議室等も使用出来ますよ」


リディはそう言うと更に、


「いかがでしょうか?」


とにっこり微笑んだのである。

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