第25話「はい、少し考えたらすぐに分かりましたので」

新たな魔法杖を購入しようと、王都の魔道具店を何軒も回ったロック。


最後の店を出て来たところを、魔道具店の店主で魔法職人の、

ウスターシュ・アンクタンから声をかけられ……


心が発する波動から、人となりを見て判断したロックは、

懇願され、ウスターシュの営む店へついて行く事となった。


……王都の「片隅で営む」とウスターシュが言った通り、アンクタン魔道具店は、

同業が軒を連ねる職人通りからだいぶ離れた場所にぽつんと建っていた。

およそ徒歩15分少し。


近付くにつれ、徐々に……様々な種類の魔力が強くなって来る。


これは付呪エンチャントされた数多の物が放つ独特のものだ。


やがて……その強い魔力の根源に到着した。


築年数が相当経っている2階建ての住宅兼用店舗、である。


屋根の真下に『アンクタン魔道具店』と、

達筆な文字で書かれた厚く古い木製看板が下がっていた。


強い魔力はやはりこの魔道具店から放たれている。


ウスターシュは淡々と言う。


「ここがわしの店だ」


古ぼけた扉は固く閉ざされていた。


休業中、と札がかかっている。


「今、開ける」


と言い、ウスターシュは鍵をとりだし、鍵穴に差し込み回して「かちゃっ」と開錠。


防犯上の為だろう、魔導錠のダブルロックである。


……念の為、もしも何かあったら、

ロックはすぐに風弾を撃てるよう心構えをしておく。


絶対に大丈夫、安全と言われても、常に非常時を考えるロック。


まずは身の安全を確保する事をこころがけていた。


これは自分の下した判断、決定についても同じスタンスである。


さてさて!


ぎいいいいいい……きしんだ重い音を立て、扉がゆっくりと開いた。


「OKだ……遠慮せず入ってくれ。今、魔導灯をつける」


とウスターシュは魔導灯のスイッチを入れ、店内はほんのりと明るくなった。


「失礼します」


と店内へ入ったロックではあったが……驚いた。


入ってすぐ陳列台が置かれた奥にカウンターがある『売り場』なのだが、

商品が殆ど置かれていないのだ。


装飾品が数個、剣がひと振り……だけだ。


念の為、もう一度見回しても「好きだろう?」と指摘された魔法杖は1本も無い。


そして!

気になる強い魔力はもっともっと店の奥まった場所から放たれていた。


「ええっと……これは……」


どういう事でしょうか?と言葉を飲み込むロック。


対してウスターシュは苦笑。


「ああ、すまん! ここに売り物が無いのはわけがあるんだ」


「わけ……ですか?」


「ああ、まあ……奥へ、倉庫へ入ってくれんかね」


「え? 倉庫……ですか」


「ああ、変だと思うだろうが中へ入れば分かる。……実はな、わしの作品のほとんどは倉庫に飾ってあるのさ」


「倉庫に、飾ってある? 仕舞ってあるのですか」


「ああ、大事に大事に仕舞っておる! そこにあんたの凄く好きな魔法杖もたくさんあるんだ」


「ですか」


何故、心を込めて作った商品を店頭に『売り物』『商品』として出さずに、

倉庫へ仕舞ってあるのか?


もう少し話を聞かないと分からないし、発する波動をトレースし、

この人の心を深くのぞく、禁じ手を使おうとも思わない。


話していれば、いずれ分かって来るだろうから。


でも、何となく話が見えて来た気もする……

一応、仮定だけはしておこうか。


また……何度も言うが、俺は魔法杖を凄く好きなわけではない。

だが、ここは話を合わせ、余計な事はいわないでおくか。


「倉庫はこっちだ」


「はい!」


というやりとりをして、ウスターシュにいざなわれ、ロックは店の倉庫へ。

倉庫は玄関よりも更に厳重で、トリプルロックである。


「おお、これは!」


「な、結構なものだろ!」


誇らしげに言うウスターシュ。


そしてロックの目の前には強い魔力を放つ根源……


武器防具、服飾品、その他もろもろ……


ウスターシュが心を込めて付呪エンチャントし、作ったのであろう、

数多の魔道具が整理整頓され、きちんとディスプレイされ、飾られていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


この綺麗なディスプレイを見て……

ロックは自分の仮定がほぼ当たっていたのだと感じた。


自分の作った品物を見て、

否、ぼ~っと見惚れているらしいウスターシュへ、

ロックは声をかける。


「あの、ウスターシュさん」


「あ、ああ、何だ?」


「これらが貴方の作品、なんですよね?」


「ああ!! 全てわしが心を込め付呪エンチャントした可愛い作品達だ!! 凄いだろう!!」


「成る程。確かに素晴らしいですね。どれもこれも全て……」


「おお、分かるか!!」


「はい、この魔道具達が放つ魔力で大体分かります。俺が欲しいという、属性を付呪エンチャントした魔法杖も多々ありますが、全てが逸品揃いです。価値は底知れないと思います。特に雷属性や威圧の魔法を付呪エンチャントし、連発で数多撃てる上質の魔法杖が大いに気に入りました」


「おお、初めて見て感じただけで、そこまで魔道具の性能を見抜き、かつ逸品揃いと言い切るのか! う、嬉しいぞ! わ、わしは泣きそうだ!」


しかし、ロックはウスターシュの様子を見ても全く変わらない。


淡々と告げる。


「そのウスターシュさんのリアクション……成る程、良く分かりました」


「な、何が良く分かった!?」


「はい、ウスターシュさんはご自分の作った品物、つまり商品を作品と呼びます」


「ああ、売り物とか、商品と呼ぶのは好まん! 正真正銘、全てわしが作った作品だからな! それがどうした?」


「はい、商品ではなく作品と呼ぶ。どれほど愛着をお持ちなのかと」


「そ、それの何が悪いのかっ!!」


「いえ、全く悪くはありませんし、お気持ちは理解出来ます。ですが、愛着がありすぎて、客に売るのが惜しくなり、こうやって飾って眺め、ご自分だけでいつくしんでいるのではありませんか?」


「むうう!! な、な、何だとおお!!」


「かといって商品を客へ売らなければお金は稼げず、店は維持出来ず、結果、生活も出来ない。なので辛いのをこらえつつ、生活の為に、断腸の思いで最小限の販売を行い、今までしのいで来たのでは?」


「な、何故!? そ、そこまで分かる!? お、お前!? ま、まさか!? 魔法か何かで、わしの心を読んだのか!?」


「いえ、全然読んでいません。これまで見て聞いた状況から推測しました。分かりやすいと思いますよ」


「うう! す、推測!? わ、分かりやすい!?」


「はい、少し考えたらすぐに分かりましたので」


相変わらず、ロックの物言いは穏やかで全然変わらない。


さすがにウスターシュも「これはまずい!」と思ったようだ。


「そ、そうか! い、いや! お前などと客に向かって使う言葉づかいではないな! 申し訳ない!」


深く頭を下げるウスターシュ。


「いえいえ、であれば、そのような品物は購入など出来ませんから。拝見するだけにとどめて、俺はそのあと、帰らせて貰いますよ」


辞去するというロックの言葉を聞き、ウスターシュは驚いて目を見開く。


「い、いや! 帰らんでくれ! あんたの言った事はおおむね当たっておる! だがな、わしは思い切って決意したんだ」


「思い切って決意、ですか?」


「ああ、放つ尋常ではない波動、魔道具の性能及び価値をすぐに見抜く素晴らしい鑑定力と博学さ、そして深い思考能力、冷静沈着な物言いと、底知れぬ器の大きさを感じる! あんたは絶対に只者ではない! だから今、決めた! この魔道具を、わしの可愛い作品達全てを! あんたにこそ譲りたい! 黙って貰ってくれんか! 金は……らん!」


感極まったように一気に言い切るウスターシュ。


しかしロックは首を横へ振る。


「いえいえいえ、全て譲って頂くなんて、それも無償とかとんでもない」


「どうしてもか!?」


「はい、ウスターシュさんの作品に対するお気持ちのお話をお聞きしたら、尚更無理です。そもそも今は『勢いだけ』でおっしゃっていますから、絶対に後で、俺へタダで譲った事を悔やみますよ」


魔道具全ての譲渡を、ロックにきっぱりと断られ、

その上、勢いのみで物言いをしていると、なだめられ……


「うおおおおんんん!!!」


遂にウスターシュは、大声で泣きだしてしまったのである。

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