第24話「ロック本人は気づいていないが、この思考力と判断力も傑出したものである」

リディが申し込んでくれた打撃武器講座の概要をグレゴリーと共に聞き……

新しいランクDの所属登録証も受け取り……


笑顔で手を振るリディの下を辞去した後、

ロックは冒険者ギルドの食堂でグレゴリーと一緒に昼飯を食べ……

その際、次回の依頼、新規加入者の相談などをした。


次回以降のルナール商会の依頼に関してはとりあえずペンディング。


部外者以外には見せないようにという前提で仮依頼書は受け取る事が出来たから、

じっくり検討という事にした。


今後、依頼が増えれば、人手不足となるのは必至。

全てをふたりだけでこなすのは厳しくなる。


もしもふたりにはない、有用なスキルを持つ人材が居れば、現れれば、

『まずは相性ありき』で入隊交渉をしようという意見で一致した。


グレゴリーは、ロックの見る目と的確な判断を信じ、

基本的には任せると言ってくれた。

だが、ロックは事前に確認をして貰い、

要らぬあつれきが生じぬよう配慮するつもりだ。


そして……

「明日の昼前、午前11時に冒険者ギルド1階のロビーで待ち合わせしよう」

と約束。


明日会った際、グレゴリーの意思確認をする。

講習体験をした上で、受講を決めたのかどうかを。


もしも彼が希望したならば、料金を支払い、講座の申し込み手続きをするつもりだ。

今のやる気みなぎるグレゴリーならば、

教官と折り合えさえすれば、ほぼ受講するだろうと予想している。


そしてグレゴリーと一緒に暮らす『合宿』も本日で一旦終了する事にした。


それぞれが自分の部屋へ戻る。


明日からまる3日間を自分自身の時間に充てると。


明日ギルドでグレゴリーと会う以外は各自が自由行動、

4日後に今度はロックがグレゴリーのアパートへ赴き、

彼の部屋で2回目以降の依頼を検討する事ともなった。


と、そんなこんなで、無料の講習体験を受けるグレゴリーと別れ、

ロックは冒険者ギルドを出て王都の街中へ出た。


時間を有効に使うべく、

ロックはといえば、まっすぐ帰宅せず早速、魔道具店へ。


今後に備え、新規で購入する手ごろな魔法杖がないかと。


時間はたっぷりあるから、じっくりとチェックするつもりだ。


そもそもロックは普段から、魔道具店を冷やかす、

否、商品を見るだけで楽しむことが好きだ。


良く言えば、目の保養やインスピレーションの為に鑑賞する事を好むのである。


ロックは行きつけの魔道具店がいくつかあるのだが、

店側も充分に分かっているので、店員は滅多に声をかけては来ない。


それゆえ、じっくりと品定めする事が出来た……しかし……


う~ん……今日はピンと来るものがないなあ。


1軒、2軒、3軒、4軒、5軒と回ったが、クオリティと値段が折り合わない。

気に入ったものに全く巡り合えない。


まあ、買う気になった時に限ってこういう事もある。


そんなこんなで、時刻は夕方に……


また、今度だなとロックは苦笑。


本日中の購入を諦め、街中を歩いていると……また散歩中の犬、数匹。

きままに歩く猫数匹に懐かれた。


相変わらず動物には大人気。


適当に相手をし、そのまま歩く。


途中で晩飯にテイクアウトの弁当でも買ってアパートへ帰ろう。


帰途につこうとした、その時!


「おい、革鎧のあんちゃん。お前、面白い波動を放っているなあ」


と声がかかった。


「いきなり誰だろう?」と見やれば、

ひとりの法衣ローブ姿の老人が、

にやにやし、立っていた。


どうやら魔法使いらしいが、ロックには見覚えのない顔だ。

年齢は70歳を少し超えたくらいだろうか……


補足しよう。

この世界の魔法使いは「心の波動を感じる」事が可能である。


しかし各自の持つ素質により極端に格差がある。


初級レベルでは波動を感じるのみ。

中級レベルで波動から喜怒哀楽等の感情、動作が動か静かを読み取り……

上級レベルでは感情の発する曖昧な言葉や曖昧な動作を読み取り、

そして更に上級を超えるレベルであれば、

明確な意思と具体的な言葉に具体的な動作を読み取る事が可能なのだ。


これらの事象と比べれば、ロックの行使する索敵探知は、

アガットへの道中における賊、魔物の駆逐、

ルナール商会アガット支店の内部の様子を具体的に把握するなどなど……

超上級レベルの中でも更に「稀有なもの」と言っても過言ではないのだ。


さてさて!


こういう場合、言い方は悪いが、相手を見て波動を感じ、ロックは対応を決める。


チラッと見やれば、同業の先輩魔法使い、悪意は……無いようだ。

年齢からして、入隊云々の話にはならないなと考えるロック。


一方、声をかけただけあって、老齢の魔法使いは、

好奇心を表すひどく大きな波動を発している。


「面白い波動、ですか?」


「ああ、あんた魔法使いだろ? 本当に面白い波動だよ」


やはり興味本位で呼び止めただけ……特に用事は無いのだろう。

改めて見ても、やはり知らない顔だ。


突然話しかける貴方は誰ですか? と聞くまでもない


ならば対応は決まっている。


スルー一択!


「ええ、良く言われますよ。では失礼します」


ロックがすたすたと歩き出せば、


「お、おい! 待てや!」


と、老魔法使いは必死に追いかけて来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さすがにここで全力ダッシュ! し、逃げてしまうほど、

ロックは情け容赦のない鬼ではなかった。


しばし歩いて止まり、回れ右する。


と、そこへ老魔法使いが追いついた。


ロックと向き合う形となった。


「はあ、ひい、ふう! と、年寄りを走らせるなよ!」


「それは申し訳ありません。ほいっと!」


ロックは回復の魔法杖を構えて使い、しれっと老魔法使いの体力を回復させた。


「おお!」


と感嘆の声を上げ、老魔法使いは「ほっ」と安どの息を吐いた。


放つ波動から体力がみるみるうちに戻って行くのがロックには分かる。


そして老魔法使いを真っすぐに見据え、淡々と言う。


「重ね重ね、申し訳ありませんが、俺は見ず知らずの貴方へ用事が無いので、失礼しますよ」


対して、老魔法使いは必死な面持ちだ。


「ま、待て! いきなり声掛けして悪かった! こっちは用がある! 大事な話があるんだ!」


「大事な、話……ですか?」


「ああ、信じられんかもしれんが、わしは決して怪しい者ではない! 本当だ!」


「ですか?」


「頼む! いきなりだが! あんたに、わしの店へ来て欲しいんだ!」


「え? わしの店って?」


「ああ、あんたが、相当がっかりした様子で、魔道具屋から出て来るのを見たのさ。何かを探しているんじゃないのか?」


「ええ、まあ……」


「今、あんたが使った魔法杖も、付呪魔法エンチャントの品だろう? わしは、付呪魔法を使う魔法職人、王都で自分の作った作品を売る魔道具屋を営んでいるんだ」


「おお、貴方が付呪魔法を使う魔法職人さんで、ご自分のお店を営んでいる。成る程、そうなんですか」


補足しよう。


付呪魔法エンチャント』とは、属性や特殊効果などを付与する魔法である。


武器や防具、衣服、服飾品などといったアイテムへ魔法効果を加えたり、

能力値アップなどの特殊効果を付けたりするのものだ。


例えばノーマルな剣に火属性を加えれば『炎の剣』になり、

ノーマルな指輪に防御特性を加えれば『守護の指輪』となる。


逆にマイナス効果を付与すれば、いわゆる『呪いの品』となってしまう。


ちなみにロックが持つ魔法の杖は全て付呪魔法がかけられているものだ。


「わしの店にはな、あんたが探しているものがあるかもしれんぞ」


「う~ん……でも」


「そ、そうだ! 分かったぞ! あんたは魔法杖が凄く好きなんだろう? 今、わしへ使った回復魔法の杖! そして腰から何本もげているしな! 店には、わしが付呪エンチャントした逸品がたくさんあるぞ!」


老魔法使いはロックを『カモ』と見て、

自分の店の商品を売りつけようとしているのか?


そう思ったロックは曖昧に答える。


「いえ、凄く好きってわけじゃあないんですが……」


と言葉を濁すロック。


「空間魔法くらいしか使えない、つぶしのきかない鈍足魔法使い!」

とひどく馬鹿にされた。


なので、どうしたら自分という存在を主張出来るか、

自分の売り、強みは作れないか、

そう思って退職金代わりに貰った風弾の魔法杖を一生懸命に練習したんですよ。

まあ、さすがに最近は魔法杖達に愛着がわいていますが……


などと、自分の事情、ぶっちゃけ話も出来ないし、とも思う。


ロックは改めて老魔法使いを見た。


……彼の放つ乱れの無い波動から分かる。


やはり『悪意』は感じられない。


「こいつを騙して、カモにしよう! 害を為そう!」という感情は全くナッシング。


この老魔法使いは、一見して「頑固一徹」「融通が利かない」「不愛想」

という雰囲気なのだが、

反面、素は『実直』『嘘などつけない』『仕事に対し真摯な人』かな、と感じた。


ほぼ99%悪人ではなさそうだ。


そして、持つ付呪魔法エンチャントの腕も相当なものだと……


……であれば、老魔法使いが作る魔道具、一見の価値はある。


良質の魔法杖を含め、良物があれば購入を考えよう。


後は値段次第。


予算と折り合うかどうか……


ここまでの考えをロックは、ぱぱぱぱぱ! とあっという間にまとめた。


ロック本人は気づいていないが、この思考力と判断力も傑出したものである。


「ふう」と軽く息を吐き、ロックは口を開く。


「……分かりました。そこまでおっしゃるのならば貴方のお店へ行きましょう。改めまして! 俺はロック・プロスト。魔法使いの冒険者です。まずは貴方のお名前を教えて頂けますか?」


「お、おお! あ、ありがとう! うむ! 改めましてだな! わしはウスターシュ・アンクタン。王都の片隅でアンクタン魔道具店を営む魔法使い、魔法職人だ」


ウスターシュはそう言うと、柔らかく微笑んだのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る