第23話「いえ、報奨金を7,3でと言って貰った時から、グレゴリーさんへは何らかの形で還元したいと思っていました」

無償宿泊の予約を取って貰い、ルナール商会系列の高級ホテルへ、

商会の馬車で送って貰ったロックとグレゴリー。


そのまま久々に別々の部屋へ宿泊し、朝までぐっすりと眠った。


……思えば、最近のふたりはいつも同部屋。

遅刻しないようロックの部屋にグレゴリーが宿泊した事から始まり、

その後もアガットのホテルでもふたりは一緒だったから。


さてさて!


昨夜リディから告げられたが……

本日は冒険者ギルドにおいて、正式な完遂報告と報奨金の受け取りがある。


約束の時間は午前10時にギルドの受け付け。


リディが小会議室をリザーブしてくれているはずだ。


起床したグレゴリーが朝のあいさつの為に訪れ、

ホテルのロックが泊った部屋において、ふたりは今後の相談をする。


昨夜ホテルへ移動中の馬車社内では、「朝食を食べながら話そう」

という話であったが……

オープンな場所で関係の第三者に聞かれるのを避けたのである。


……という事で、ふたりは話す。


まずはギルドで打合せ、完遂報告と報奨金の受け取り。


そして次の依頼の相談。


グレゴリーのコンタクトスキル改善と向上に向け、

師匠となる教官の問い合わせと確保。


上手く改善出来れば命中率が上がり、元々クリティカルヒットが出やすいので、

驚異的な破壊力が得られ、クランステイゴールドの戦闘力は大幅に上昇するはずだ。


またロックは更なる魔法杖の購入もしたいと希望。

多額の報奨金が入ったので購入には問題がない。


購入を希望するのは睡眠や麻痺などの無傷で敵を無力化する効果のあるものだ。

雷属性の雷撃魔法杖も中々だと考えている。


これからルナール商会を始めとしてどのような依頼が来るか、分からない。


どのような依頼で受諾出来るよう準備しておく為に……

次へのステップアップの為に……


更なる投資は絶対に必要だと、ロックは考えていたのだ。


そんなこんなで、ふたりはホテルのレストランへ移動、気軽な雑談をしながら朝食。


「ロックさん、高速旅行馬車便でもアガットから王都へは通常4日間は要するので、まだ王都へ戻っていないとは思いますが、彼女を誘う時、さりげなく好物を尋ねるのですよね?」


「ええ、グレゴリーさん、そうアドバイスしました。あくまでもさりげなくです」


「了解です。俺、最近は少しずつ方向音痴も改善している気がします。かといって、地図は絶対に手離せませんが」


「で、あれば。恥ずかしいかもしれませんが、最初から方向音痴なのをカミングアウトしておいた方が良いかも、です。正直で誠意があると思われるでしょうし、彼女をしっかりと守りながらも、時たま、頼るところを見せるんです」


「な、成る程! それ! 良いかもです! メモします!」


のんびり、ゆっくりとした朝食を済ませ、

ロックとグレゴリーは部屋へ戻り、ひと休み。


……その後、ロビーで待ち合わせをし、ふたりで冒険者ギルドへ赴いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


いつも余裕を持ち、出来る限りスケジュールより早めの行動をとる、

というのがロックの基本スタンスである。


なのでふたりは午前10時の10分前に冒険者ギルドの受付に到着。


リディの名を告げ、10時の約束だとも告げ待った。


すると連絡後、リディはすぐに受付に来て、ロックとグレゴリーを、

リザーブしておいた小会議室へ連れて行った。


「おはようございます! 昨夜はありがとうございました、お疲れさまでした」


そうふたりがあいさつすると、リディは、


「いえいえ、こちらこそですよロックさん、グレゴリーさん。おふたりを馬車でお送りした後、エドモン会頭、レイモン副会頭とはずっと協議をしておりました。準専属となったクランステイゴールドへ、次にどのような依頼をお出ししょうかと」


「そうだったのですか」

「すぐに次のお仕事ですか。お気遣い頂きありがとうございます」


ここで気になる、リディがふたりを呼ぶ、呼び方。


昨夜の取り決めで、冒険者ギルドにおいてはさん付け。

ルナール商会においては様付けにすると決められていた。


ややこしいが、様付けにするのはエドモン会頭の意向であり、

却下が出来なかったのだ。


「まあ、その話はとりあえず、置いておき……今回のアガット往復輸送依頼完遂の件における手続きを行いたいと思います」


……それから、リディは手続きを進めてくれ、

進めた内容は昨夜ロックとグレゴリーが聞いた通りであった。


グレゴリーの希望も通っており、支払いは、総額金貨2,000枚の、

200枚の前払いを差し引き、残金、金貨1,800枚1,800万円!!


昨日グレゴリーが強引に決めた割合もリディが調整してくれていた。


ロックが7割の1,260枚。グレゴリーが3割の金貨540枚。


ふたりにとっては結構な大金である。


「それと連絡事項がふたつあります。輸送依頼を完全クリア。支店の強盗捕縛もありましたから、合わせ技でランクがアップ。おふたりをランクEからランクDにする事がギルドマスターの了解も得て、決定致しました」


「うお! たった1回の依頼完遂で、もうランクアップですか!」


「す、凄いっ!」


「うふふ、ランクDまでは比較的簡単にランクアップ出来ますよ。ランクC以上はそうは行きませんわ」


リディは更に言う。


「もうひとつ。次回の依頼に関しては、当然ルナール商会から、いくつかの案件を候補と致しました。急ぎ仮依頼書を作成しましたので、まずご覧になって頂けますか?」


「はい!」

「拝見します!」


リディが作成した仮依頼書をロックとグレゴリーは早速目を通してみる。


アガットへの2回目の往復輸送、これは成功事例があるからであろう。

違う町への往復輸送、これも同じ。


そして王都近郊の農場、牧場の生産物回収と王都への運搬。

それに伴う害獣、魔物退治とある。


「リディさん」


「はい、何でしょうか、ロックさん」


「内容を見ると依頼内容は想像出来ますが、害獣、魔物の退治となれば、当たり前ですが戦闘を要しますよね?」


「ええ、それは当然です」


ここでロックが提案。

グレゴリーのコンタクトスキル改善と向上の件である。


「リディさん、お願いがあります」


「はい! 何でしょうか?」


「実は当クランには、グレゴリーさんのコンタクトスキル改善、向上という差し迫った課題があるのですが、ギルドにコンタクトスキル習得に秀でた良い講師は居ませんか? もし居なければ在野で探します」


「成る程。話は理解致しました。確かグレゴリーさんの使用する武器は打撃系ですよね。であれば丁度良い一流講師が居ますし、打撃系武器講座の受講料金は、7日間で、金貨20枚20万円となります」


「成る程」


「そして、1対1、マンツーマンの個別指導も対応可能ですよ。こちらですと講習料金は同じく7日間で、特別料金の金貨100枚100万円となりますね」


「そうですか。でも講師には相性もありますし、マンツーマン指導なら尚更です。とりあえず、単発のトライアル講習という形で申し込めますか?」


「ええ、勿論ですわ。ギルドでは無料の講習体験を実施しております。宜しければ申し込みの手続きを致しましょうか?」


ここでロックは、グレゴリーに向き直り言う。


「という事で、グレゴリーさん、どうでしょうか? 何だったら、マンツーマン指導を受けてみては」


「え、えええ!? そ、それは願ったりかなったりですが……」


いきなり話を振られ、戸惑うグレゴリーだが、


「では、まず打撃系武器講座の無料講習体験を。折り合うようであれば、正式な申し込みを。ちなみにグレゴリーさんの講習費は全て俺が出します」


ロックがきっぱり言い切ると、グレゴリーは驚く。


「えええ!? そ、それは!」


「いえ、報奨金を7,3でと言って貰った時から、グレゴリーさんへは何らかの形で還元したいと思っていました」


「そ、そんな! 自分の講習費ですから自分のお金で支払います!」


「いえ、この講習費に関しては異論を認めません!」


ロックは昨日、グレゴリーから言われた事をそのまま返したのだ。


「うっ! わ、分かりました。ではクランリーダーのお言葉に甘えます」


「了解です。強引にお願いし、申し訳ありませんでした」


という事で、まずグレゴリーはギルドの打撃系武器講座、

無料の講習体験を受ける事に。


「では早速、打撃系武器講座の無料講習体験の申し込みをしておきます。グレゴリーさんがOKであれば、すぐに正式な申し込みを、その際に特別マンツーマン指導へ切り替えますね」


「よ、宜しくお願い致します、リディさん」


「ちょうど、本日午後1時からの枠に空きがありますけど、どうされますか?」


「ぜ、善は急げです! その枠で申し込みお願い致します!」


グレゴリーは少しでも早く、戦闘においても自分が戦力になりたいに違いない。

気合い充分である。


「はい、かしこまりました。グレゴリーさん、頑張ってくださいね」


そう言い、リディはにっこりと微笑んだのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る