第22話「愚直に働くロックとグレゴリーを見て、エドモン達の心証は更に良くなったらしい」

依頼を完遂し、報告が終わったら……

いよいよロックとグレゴリーにとっては、一番楽しみな報奨金の算定である。


王都サフィールから300㎞離れたアガットまで往復し、

途中、数多の賊、魔物を駆逐。


アガットでは支店へ押し入った強盗どもを無力化し、捕縛までした。


その一連の労働が遂に報われるのだ。


基本報奨金はクランに対し、金貨400枚。

うち200枚は前金として既に支払われている。


残金200枚は確実に支払われるとして……


問題は出来高のインセンティブだ。


まず荷物の無事に関しては片道金貨100枚が往復の×2で金貨200枚。


次に完遂日数短縮は15日間のところをたったの4日間で往復。

1日短縮につき、金貨20枚が支払われるので11日分が加算され220枚。


最後に1回でも賊、魔物と戦ったら回数にかかわらず、

片道金貨50枚が往復の×2で100枚。


トータルでインセンティブは520枚。


ちなみに当初の最大報酬金貨800枚うちインセンティブ400枚は、

リディが短縮日数を最大5日間の金貨100枚だと見ていた為だ。

それが全く想定外のたった4日間を要しての11日間短縮だから驚きである。


これで支払総額は、残金200枚を加え、金貨720枚。


そして会頭判断により、今回のアガット支店における支社社員人命救助、

強盗捕縛に関し、特別インセンティブが、何と何と何と!! 

金貨1,000枚も別途支払われる事になり、今回の支払いは金貨1,720枚。


つまり最終的な支払総額は、既に前払いした200枚を加えると、

総額金貨1,920枚1,920万円になってしまった!


ここで会頭のエドモンが、


「うむ、20枚が半端だな。では切りの良いところで80枚プラス、トータル金貨2,000枚2,000万円にしてしまえ。ギルドへの手数料は別途だから、2,000枚がロック様、グレゴリー様の手取りとなるようにな!」


と鶴のひと声。


そんなこんなで、ロックとグレゴリーは、特別な事象があったとはいえ、

1回の依頼完遂で金貨2,000枚もの大金を受け取る事となってしまった!


何度も繰り返しとなるが、

前金の金貨200枚は既に支払われているから、結局1,800枚が支払われる事となる。


クランステイゴールドの初仕事としては上々過ぎるスタートだ。


そしてグレゴリーが、いきなり挙手!


「ロックさん、宜しいでしょうか?」


「何でしょうか?」


「前金こそ5割5割の折半にしましたが、貴方はクランを統括し、最終的な方針を決める責任あるリーダーです! このままじゃ、いけません!」


そしてグレゴリーはリディへ、


「リディさん! ロックさん7割。自分が3割の受け取りで手配してください」


しかし、ロックがストップをかける。


「え? それはいけないですよ、グレゴリーさん!」


「いえ! いけなくはありません! 俺はロックさんに自分の能力を活かして貰っている! そう思います!」


「グレゴリーさん……」


「いつもロックさんが的確なアイディアは出すし、先を見通すスケジュール管理は勿論、打つ手打つ手が絶妙手! 仕事の遂行もスムーズ以上だし、万事が万事、完璧です! 加えて! 俺に優しく気を遣ってくれるし、自腹での持ち出しも凄く多い! なので正当な金額を受け取るべきです!」


声を張り上げるグレゴリー。


対面で、リディが「うんうん」と納得したように頷いている。


「あの、俺を褒め過ぎですよ、グレゴリーさん」


「いいえ! 全然! 褒め過ぎではありません! ロックさん、良いですか? 異論は絶対に認めません! そして絶対に受け付けません!」


きっぱりグレゴリーは言い切って、無理やり、自分の取り分を下げてしまった。


それからも、何度かやりとりを行い……

ロックは何とか『折半』で説得しようとしたが、グレゴリーの意思は固いようだ。


もうこれ以上のやりとりはルナール商会へも迷惑をかける。

なので、この場は仕方なく諦める。 


まあ、後でいろいろグレゴリーのケアを考えようとリオネルは決めた。


ただあくまでもふたりは所属する冒険者ギルドを仲介して依頼を遂行している。


なので、正式な支払い決定及び支払い手続きは、

明日冒険者ギルドを介し、業務カウンターにてという事となった。


しかし、リディは首を横へ振る。


「通常は業務カウンターで手続きを行いますが、今回お支払いするのは結構な大金ですから、明日、また小会議室をリザーブし、他者の関心を誘わぬよう関係者のみで手続きを行います」


との事。


至極もっともである。


「分かりました!」

「何卒宜しくお願い致します!」


そして想定以上の大金が入るとあって、

ロックとグレゴリーの言葉にも力が入っている。


「明日は? おふたりのご都合はいかがでしょう?」


「いつでもOKです!」

「リディさんへ合わせます!」


「では早い方が宜しいでしょうから、午前10時にギルドの受け付けへ、いらしてください」


「「了解です!」」


という事で今回の支払いに関する打合せは終わった。


しかし!


「で、次回のお仕事の依頼の件ですが」


「クランステイゴールドにぴったりの案件がありますよ」


と、エドモンとレイモンが迫って来た。


他のクライアントから発注を受ける前にキープしたいという思惑に違いない。


だが!


「会頭! 副会頭! 拙速はいけません! 次回の依頼は今回同様、私がしっかりとリサーチしてからですわ!」


とリディにしっかりと釘を刺されてしまったのである。

ちなみにマティアス部長は完全に空気扱いであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


全ての話し合いが終わり、辞去しようとしたロックとグレゴリーであったが、

当然ながらエドモン会頭以下4人に「まあまあ」と引き留められてしまった。


今後の打合せも兼ね、食事をしながら慰労会を行うという事となったのである。


全員で情報を共有し、コミュニケーションも取れるから、

これはさすがにリディも大賛成。


かと言って、王都市内のオープンな店では、

会話が他者に聞かれる可能性もあるし、第一この顔ぶれはとても目立つ。


世界をまたにかけるプラティヌ王国最大手ルナール商会のトップ、ナンバーツー、

ナンバースリー、ナンバーフォーまでが、平凡な?ランクEの冒険者と一緒なのだ。


という事でマティアス部長がルナール商会系列のホテルにケータリングを頼み、

超特急で数多の料理飲み物が大会議室へ運ばれた。


こういう時にじっとしていられないのが、

ずっと下積みであったロックとグレゴリーだ。


まめまめしく動き回り、料理を並べ、カトラリーをセッティングする。


相手は大が付くクライアントであるし、

正直このメンツで自分たちが何もしないというのはありえない。

あまりにも空気が読めない奴らだとネガティブイメージが付く。


そう思ったからだ。


愚直に働くロックとグレゴリーを見て、エドモン達の心証は更に良くなったらしい。


慰労会が始まると……ルナール商会の全員が上機嫌でしゃべりまくった。


打合せ中は空気状態だったマティアス部長も、である。


アガットの慰労会もそうであったが……

ロックとグレゴリーへ商会の一番の財産である大事な社員を救ってくれた!

感謝の言葉が雨嵐と降り注いだのである。


やはり命を救うという行為は、

想像も出来ない『重み』があると実感したロックとグレゴリーだ。


そして転んでもただは起きぬのが商人。


次回の依頼のデータ取りなのか、リディを中心にいろいろとリサーチをかけて来た。


例えば……今回の道程の様子も更に詳しく聞かれた。


グレゴリーがどれくらいの速度で駆け、どれくらいの頻度で休憩したのかとか、


ロックの超大型空間魔法の限界許容量は、とか、


生物を入れたらどうなるのか、とか、


賊、魔物と遭遇した際、ロックが遠距離魔法射撃で威嚇し、駆逐した事を伝えると、

大いに感嘆もしていた。


でもロックだってリサーチされっぱなしではない。


空気を読みながら……差しさわりの無いレベルで、

ルナール商会の事業と依頼される可能性のある仕事について尋ねて行く。


対してリディは勿論一番熱心で懇切丁寧に説明してくれるのだが……

エドモン、レイモンは具体的な仕事内容をあげ、

「仮にステイゴールドが依頼を受けたら」という前提で話して来た。


更にマティアス部長も熱心に『イフ』の話をして来たのである。


4人から、いろいろと聞いてみると、

ルナール商会が依頼して来そうな仕事は多岐にわたり、

様々なスペックを求められるとも分かった。


現状で受けられる依頼は多々あるが、

更に仕事の幅を広げる為にスキルアップしようと決意したロックである。


最後に、


「当然ルナール商会様のお仕事は事情が許せば優先的にお受けさせて頂きます」


というロックのコメントを改めて会頭以下4人が検討し、その場で決定。


結果、クランステイゴールドは『ルナール商会準専属扱い』となり、


「基本的にルナール商会の依頼を、第一優先で検討する」


という約束も4人と交わした。


この日は更に至れり尽くせり。


慰労会が終わり、「自分達のアパートへ戻ります」

と言うロックとグレゴリーを再び引き留め……


ルナール商会は、商会系列のホテルへ無償宿泊の手配を取り、

商会の馬車で送ったのである。

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