第21話「ぜひ! ステイゴールドをルナール商会の専属にしたい!」
とんとんとんとん!
とリズミカルにノックがされ、
「失礼致します! リディです! ただいま参りました!」
と、透き通るような美しく、張りのある声が扉越しに響いた。
「おお、リディか。入るが良い」
「はい! ……改めて失礼致します」
と声は続き、扉が開くと現れたのは、
冒険者ギルド業務担当職員リディ・ブランシュではなく……
金髪碧眼のすらりとしたスタイル抜群なクールビューティー。
という風貌は全く変わらないが、驚くべきその正体は、
ルナール商会会頭エドモン・ルナールの愛孫、
副会頭レイモン・ルナールの愛娘リディ・ルナールである。
ちなみに彼女はプラティヌ王立大学を首席で卒業したらしく、
商会理事の肩書きも持っている才媛。
つまりべたな言い方そすれば、『スーパーお嬢様』であった。
「おじい様、お父様、もとい、会頭! 副会頭! ロックさん達がたった4日間で王都、アガット間を往復し、当商会から課せられた荷物輸送の依頼を遂行、無事戻って来た。そして何やら大きな事件が起こったと聞きましたが……一体どのような状況なのでしょうか?」
「ははははは! リディよ! まあ座るが良い!」
エドモンから言われ、リディは「はい!」と返事をし、「失礼致します」と言い、
レイモンの隣へと座った。
これでロックとグレゴリーの対面のソファにエドモン、レイモン、リディの3人が座り、向かって右側の椅子にマティアス部長が座る形だ。
エドモンが声を張り上げる。
「さて! ここにアガット支店長ジェラルド・カニャールからの報告書がある。この報告書を読みつつ、ロック様とグレゴリー様に随時確認をさせて頂き、不明な部分はおふたりから補足説明をして頂くという形で進めて宜しいかな?」
「会頭、私は同意します」とレイモン。
「問題ありませんわ、会頭」とリディ。
「私も、でございます!」とマティアス部長。
「うむ! では私が読もう!」
と言い、エドモンは自ら調査書を読み始めた。
……ジェラルド支店長の作成した報告書は当然、強盗事件発生からの時系列。
午後6時のアガット支店営業終了時間直後、5名の強盗が後片付けの為、
裏口から一時外へ出た支店社員を殴りつけ、強引に鍵を奪い、裏口から侵入。
殴った社員を人質にして、無抵抗状態にし、支店社員全員へ暴行。
更には武器で「殺すぞ! 抵抗するな!」と威嚇。
そして支店保管の総現金と総貴重品を要求し、
支店長以下、支店社員全員を緊縛、拘束した。
ここで唯一、事件発生を知らなかったリディが「まあ!」と大きな声を上げた。
だがエドモンの読み上げは続いて行く。
当然支店社員全員が拒否。
その後いくら脅迫しても屈しない社員達に業を煮やして強盗のリーダーが激高。
見せしめに社員をひとり殺すと言い出し、とある社員へ迫った。
その時、クランステイゴールドのメンバー、グレゴリー・バルト様が、
本店からの用事を装い、訪問。
いくつかやりとりをし、強盗が扉を開けた瞬間になだれ込み、
強盗が混乱している最中、ロック・プロスト様も突入。
風弾を的確に発射し、強盗全員を気絶させ無力化。
拘束されていた支店社員全員の縄を解き、解放。
社員全員の安否確認の上、逆に強盗どもを緊縛、拘束。
ジェラルド・カニャール支店長とロック様はアガット衛兵隊本部へ赴き、
強盗事件を通報、事情を話し、衛兵隊20名とともにアガット支店へ戻り、
強盗どもは逮捕。衛兵隊本部へ連行され、投獄された。
その後、アガット支店はクランステイゴールドの運んで来た荷物を受け取り、
用意していた本店宛の荷物を託した。
ちなみに今回の歓迎会兼慰労会を恩人であるクランステイゴールドと、
支店の社員全員及びその家族と実施した。
この場の全員が、エドモンが報告書を読み上げる声を聞いていた。
そして読み終わると、
「本当に感謝の言葉しかありません。最も大事な社員達の命、そして商会の貴重な財産も無事守られました。深く深く感謝致しますぞ!」
エドモンはロックとグレゴリーへ深々と頭を下げた。
そしてレイモンとリディも、
「会頭同様、深く深く感謝致します。本当にありがとうございました!」
「ロックさんとグレゴリーさん……いえ! ロック・プロスト様とグレゴリー・バルト様を私が会頭と副会頭へ
とエドモン同様、深々と頭を下げたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
報告書を読み終わり、今回の経緯と事の顛末は共有された。
ここから質疑応答を行い、更に詳しい状況を確認する事に。
しかし、生真面目なロックは恐縮しながらも、質疑応答よりも先に、
アガット支店から運んできた荷物の納品及び検品を行い、依頼を完遂したいと申し入れた。
これに会頭以下4人は、ロックの責任感の強さに、大いに感心し納得。
という事で、先に納品と検品が行われた。
なので全員で倉庫へ移動。
納品担当の社員達も呼び、納品と検品が行われる。
しれっ、しれっ、しれっ、しれっ、しれっ、と次々と出現する荷物の数々。
当然無傷で、欠品などありえない。
リディが驚愕したように、初めてロックの超大型空間魔法を目の当たりにする、
エドモンとレイモンも驚き、愕然。
こんなに凄いのか!! 素晴らしい!! と目を大きく見開き、呆気に取られた。
担当の社員達も改めて驚いていたが、リディがはっぱをかけ、気合を入れ、
すぐに作業は完了した。
これでひと区切り付き、心置きなく、質疑応答が行える。
早速担当社員達へ後を託し、ロック達はVIPルームへ戻り、質疑応答の開始。
今だから笑って話せるという事で……根掘り葉掘り聞くエドモン達に対し、
ロックとグレゴリーは、アガットの町へ入る前に、
魔物と賊の駆逐に威力を発揮した索敵の能力で原因不明の異変を感じた事。
更に索敵の能力で支店の異変を察知し、把握。
社員の命の危機が生じた為、急遽、衛兵隊への通報をとりやめ、
とっさに作戦を立案した事。
実行した作戦とは、グレゴリーが囮となり、
強盗どもに隙を生じさせ、ロックも突入。
得意の風弾魔法杖射撃で強盗どもを鎮圧、逆に緊縛し、拘束した事。
その後は、報告書にあった通りに処理をした事を改めて話した。
こんな事件でも、良き結末が確定していれば、楽しくおかしく聞けるもの。
まるで冒険活劇のように聞こえたらしい。
いつもは厳めしいらしいエドモンが、ロック達の話を聞き、
相好を崩して大笑いしてるのを見て聞いて、
レイモン、リディ、そしてマティアス部長は驚愕。
そしてとんでもなく上機嫌のエドモンは、
ステイゴールドが大いに気に入ったらしい。
「うむ! アガットに限らず、いくつかの重要な輸送ルートをクランステイゴールドにお任せしてみたい! いや、他の仕事も検討の上、依頼してみたいですぞ!」
と言い出し……しまいには、
「いや! それでもまだ不充分だ! 他の商会に目を付けられる前に、ぜひ! ステイゴールドをルナール商会の専属にしたい!」
とまで言い出した。
対して、しばし考えたリーダーのロックは、
「ありがたいお話でとても嬉しいのですが、しばらくはいろいろな仕事に挑戦してみたいので……今回はご遠慮させて頂ければと。当然ルナール商会様のお仕事は事情が許せば優先的にお受けさせて頂きます」
と丁寧に辞退した。
しかし、エドモンの機嫌が悪くなる事はなく、満面の笑みのまま。
晴れ晴れとした声で、
「分かりました! ご無理を申し上げ、申し訳ありません。それだけお聞き出来れば充分です。で、あれば引き続き当商会の仕事をお願い致しますぞ! ご希望通り、輸送以外の仕事もお願いしたい!」
ときっぱり言い放ったのである。
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