第20話「完璧以上の仕事ぶりですぞ!」

……アガットの町を午前5時に出発。


ロックを背に乗せたグレゴリーは快足を飛ばしに飛ばし、且つ、魔法杖で体力回復、

更にしっかりと休憩も取りながら、約11時間かけ……

同日午後4時過ぎに王都サフィールへ到着した。

途中、最高時速50㎞を5㎞更新するというおまけもつけて。


その間、賊ども魔物どもは「わらわら」と出現したが、

全てロックがあっさり蹴散らし、完璧に駆逐。


すると!

ユニークスキル『逆境からの逆襲』『邂逅による開運』により、

更にロックの魔法射撃が『進化』したのだ。


信じられない事に!

固定の中級レベルの威力でしか、発射出来ないはずの魔法弾が、

度重なる魔法射撃の末、何と何と何と! 

自由自在に魔力の加減が行えるようになった。


中級レベルは勿論、初級レベル、上級レベルの威力でも発射が可能。

つまり発射の打ち分けが出来るようになったのである。


但し、魔法杖の補填魔力の総合量は変更出来ない為、

もしも上級レベルの魔法弾を撃ち続けると、

中級レベルを100発撃てるところが、30発しか撃てなくなるデメリットはあった。

逆に気絶レベルの初級レベル弾であれば、倍の200発は撃てる事も判明したのだ。


持てる能力のビルドアップ、そして依頼完遂を目前にし、大喜びするロック。

それを自分の事のようにこれまた大喜びするグレゴリーだ。


ふたりは正門で入場手続きを終え、王都市中へ、

更に商業街区へ移動、アガットに引き続き、犬猫とたわむれる?ロックを見て、


「相変わらず、ロックさんは犬猫になつかれますね」


とグレゴリーにからかわれつつ、ルナール商会本店へ。


出発の時と違い、本店はまだ営業時間内である。


「しれっ」と普通に訪ね、ふたりは受付へ。


「失礼します、お疲れ様です。冒険者クランステイゴールド、ただいま戻りました」

「お疲れ様です。ロック・プロスト、グレゴリー・バルト、都合2名が戻りました」


つい出そうになる声のトーンは極めて抑え、

「何をどうして戻ったのか」具体的な理由は一切言わない。


「本店営業部営業部長マティアス・バシュロ様へ、ただ今、ステイゴールドが戻ったとお伝えください」


これでOK、当然、受付に話は通っている。


ステイゴールドが『輸送業務』を請け負っているという事実は、

いずれ、ちまたへ知れ渡るであろう。


だが、「当分は、あくまでも隠密裏に」というリディの指示が、

社内中に徹底されていた。


なので、入店した際、見送りの際にロック達の顔を見知った社員達も、

敢えて知らぬふりをして、完全にスルーしていたのだ。


「いらっしゃいませ。かしこまりました。ご用件を承ります」


と受け付けの社員はにこやかに笑顔で応え、ふたりは応接室へ案内された。


しばし待たされたが……


「おお!! お疲れ様!! 凄いですね!! クランステイゴールドは!! さすがお嬢様が見込んだだけの事はある!! 商隊ならば、作業日を入れて15日間かかるところを、往復でたった4日間ですよ!! こんなにも早くアガットへ行き、戻って来るとは!!」


「お疲れ様です、マティアス部長! はい! ただいまアガットより戻りました。自分達からご報告を差し上げる前に、ジェラルド支店長からのご報告書へ、まずは目をお通しください」


「ん!? 何と!!」


「ご報告書はこちらです。念の為、魔法鳩便で速達も出すと、ジェラルド支店長は、おっしゃっていましたが、まだ本店へは届いていないようですね」


と言い、ロックはジェラルド支店長から託された封筒入りの報告書を、

マティアス部長へ渡した。


いの一番でロックから、完遂報告があるかと思いきや、

アガット支店長からの報告書をまず先に見て欲しいとは……


ロックが手渡す報告書を受け取りながら、

いぶかしげな表情で、ふたりを見るマティアス。


しかし、しかし!


封を切り、中身の報告書を取り出し、内容へ目を通すと、

マティアス部長の表情と顔色が大いに変わった。


「う、うお! こ、こ、これはっ!!??」


と目を見開いて、叫び、


「ちょ!! ちょっと待っていてくれ!!


と言い残し、バタバタバタと応接室から慌てて出て行ってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


それからまた、しばし経ち……


今度は応接室へ、マティアス部長は戻って来た。


部屋へ入ると「ふう」と大きく息を吐く。


しかしマティアス部長はひとりではなかった。


びしっ!とスーツを着込んだ長身痩躯の眼光鋭い無表情の老人、

同じくびしっ!とスーツを着込んだ恰幅の良い柔らかく微笑む紳士、

ふたりを連れ、計3人で戻って来たのである。


発する波動で老人と紳士の正体はロックには分かった。


老人はリディの祖父、ルナール商会会頭。

紳士はリディの父、ルナール商会副会頭。


ルナール商会のトップにナンバーツーの両巨頭であると。


老人がマティアスを鋭くにらみ言う。


「おい、マティアス」


「は! 会頭! な、何でしょうか?」


「何をぐずぐずしておる! ウチの大恩人おふたりに、この部屋は全くそぐわない。すぐにVIPルームへお連れするのだ!」


眼光同様、老人は声にも凄味があった。


続いて紳士も。

こちらは極めて穏やかに。


「ええ、私も同意、会頭の仰る通りですね」


「か、かしこまりましたああ!!」


トップとナンバーツーの指令ならば、絶対に服従?


直立不動で答えたマティアス部長は、


「ロック・プロスト様! グレゴリー・バルト様! どうか、私についてきて下さい!」


何と! ロック達をいきなり様付けで呼び、口調も敬語へと変わってしまった。


ふたりをフルネームで呼ぶマティアス部長の声を聞き、ようやく会頭は笑顔。


「ははははは、ロック様。孫のリディから貴方様の事は良く聞いておりましたが……やはりあの子の見る目は本物ですな」


そして副会頭も、


「ええ、グレゴリー様も、良くぞアガット支社の社員達をお助け頂きました。深く感謝致しますぞ」


更に副会頭は、


「まずはVIPルームへ移動しましょう。私達ふたりのご紹介は改めて致しますので」


と言い、マティアス部長へ改めて指示。


先頭をマティアス部長、続いて会頭、その後をロックとグレゴリー、

最後方を副会頭が歩き、VIPルームへ。


「うお! こ、これは!」

「す、凄いっす!」


思わず大声を上げるロックとグレゴリー。


VIPルームの超が付く豪奢さを見て、緊張感が半端ない。


無理もなかった。


設置されているのは応接セットを始め、

家具、調度品等々は素人でも分かる最高級品。


飾られている絵画、彫刻等々も誰もが知る作品で有名作家のものばかり。

偽物など飾るわけがなく、当然オリジナルだ。


さてさて!

副会頭の言う通り、まずは自己紹介。


とんでもない相手へ、慌ててロックとグレゴリーが自己紹介しようとするのを、

副会頭が「まあまあ」と手で抑え、


「では会頭から自己紹介をお願いします」


対して会頭は頷き、


「うむ! 改めまして、いや初めまして、ですな。ロック・プロスト様、グレゴリー・バルト様。私がルナール商会会頭のエドモン・ルナールでございます」


続いて副会頭も、


「初めまして! クランステイゴールド様、私が同、副会頭のレイモン・ルナールでございます」


対してロックとグレゴリーも自己紹介。


「初めまして! この度はご発注ありがとうございました。魔法使い冒険者のロック・プロストでございます。クランステイゴールドのリーダーを務めております」


「初めまして! この度はご発注ありがとうございました。戦士冒険者のグレゴリー・バルトでございます。クランステイゴールドのサブリーダーを務めております、と申しましても、まだふたりだけのクランなのですが」


そう!

昨夜、歓迎会の終了後、ロックはグレゴリーへサブリーダー就任をお願いした。


グレゴリーの言う通り、まだ、ふたりだけのクランなのだが、

彼に更なる責任感を持って貰う為にお願いしたのだ。


……という事で、メインで話をするのは、

やはりというか、エドモン会頭のようである。


ちなみにマティアス部長はフォロー役に徹するらしく、補足すべき点や不明な点があると、すかさずエドモン会頭とレイモン副会頭へ、説明を行っている。


「この度は、弊社アガット支店へ押し入った凶悪な強盗どもを無力化させ、社員達の安全を確保し、命を救ってくださった。そしてこちらが託した荷物も、王都からアガット間、往路復路を無事にお運びくださったとは……完璧以上の仕事ぶりですぞ!」


「その上、こちらが提示したインセンティブも見事に全てをクリアされました。特に遂行日数短縮が素晴らしい! 王都からアガット間の作業日を含め、15日間を要する所を、4日間かからずに無事往復した事は、驚嘆としか言いようがありません!」


レイモン副会頭がそう言い切った瞬間!


とんとんとんとん!


とリズミカルにノックがされ、


「失礼致します! リディです! ただいま参りました!」


と、透き通るような美しく、張りのある声が扉越しに響いたのである。

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