第18話「こんな素晴らしい冒険者クランは今まで見た事も聞いた事も無い!」

助けたアルレット・クラヴリー女子を彼女の泊っているホテルまで送り、

ロックとグレゴリーは、ルナール商会アガット支店へと向かった。


パトロールから衛兵隊本部へ戻って来た衛兵が、街中で支店の商会社員に出会い、

「用事があって、ロック達を探している」そう聞いたと告げられたからだ。


衛兵は、支店の商会社員へ「彼らを見かけたらどうする?」と尋ねたら、

「支店で待っていると、伝えて欲しい」と返したという。


その話を聞き、ロックとグレゴリーには、社員の言う『用事』がすぐに分かった。


王都サフィールへ運ぶ荷物の準備が完了したに違いない。

支店長のジェラルドも気を遣ってくれたし、

あまり待たせない方が良いであろう。


という事で、すぐに支店へ向かわねばならない。


アルレットは、助けてくれたグレゴリーと、

まだまだ話しかったようだが、さすがに仕方がない。


「仕事が発生し、急いで行かなくてはならない」


とグレゴリーが告げると、残念そうな表情のアルレットは、


「グレゴリーさん、私は明日出発して王都へ帰ります。王都へ戻ったら、魔法鳩便で連絡をください、必ずですよ」


と念を押すように言い、宿泊中のホテルへと戻って行った。


「うお! 何だか!」


と言い、あたふたと右往左往するグレゴリー。


20歳にもなって情けない!と言うなかれ。


女子慣れしていない男子は、こうやってパニックになる事もある。


ここでロックがフォロー。


以前互いに彼女を作ろうと約束した。

グレゴリーは、その機会を得そうである。


正直、凄く羨ましいとは思う。


だが! きっぱりと応援する事を決めたのだ。


「さあ、グレゴリーさん。アガット支店へ急ぎましょう。確認の上、もし荷物の準備が出来ていたら、受け取り、一旦ホテルへ戻って、チェックアウトしてから王都へ出発しましょう」


「は、はい!」


「もしも受け取りに時間がかかるようであれば、明日の朝早めに出発ですね」


「で、ですね!」


とふたりは仕事の会話を交わし、歩き始める。


歩きながら、ロックは言う。


「グレゴリーさん。お節介かもしれませんが、俺、応援していますから」


「え!? お、応援ですか?」


ここでロックはズバリ直球を投げ込む。


「はい、グレゴリーさんとアルレットさんの交際が上手く行くように、です」


「は!? お、お、俺と! ア、ア、アルレットさんの交際、ですかあ!」


大いに嚙みながら動揺するグレゴリー。


対してロックは淡々と答える。


「ええ、そうです。お節介ならばやめておきますが」


「い、いえ! やめないでください、応援! そ、それより! ほ、本当ですか!? そんな事がありえると?」


「ええ、本当ですし、ありえます。アルレットさんの言動から、グレゴリーさんに好意を持っているのが、魔法使いの俺には、はっきりと分かりますから」


「う、うお! お、俺に好意を!?」


「逆にお聞きしますが、グレゴリーさんは、どうなのですか?」


「い、いや! ど、どうなのですかって、お、俺! あんなに可愛い女子と仲良く話したのなんて、生まれて初めてで……」


「いえ、そういうのはらない情報なので」


「い、要らない情報って、そんなあ……」


ここでロックは再び直球を投げ込む。


「じゃあストレートに聞きますが、グレゴリーさんはアルレットさんが好みですか?」


「こ、好みって!? そ、そりゃ、勿論!! 優しいし、可愛いし……」


「では! 約束してください。まずは彼女が望んでいる通り、必ず連絡を入れる事」


「か、必ず連絡を、入れる?」


「はい、そして王都へ戻ったら、アルレットさんを誘って、食事にでも行ったらどうですか?」


「うお!? しょ、食事、ですか?」


「はい、俺も前職のモテ自慢のクランメンバーから聞いた受け売り話なのですが」


「前職のモテ自慢のクランメンバーから聞いた受け売り話……」


「ええ、いきなりガチのデートではなく、最初は食事とかで自然に気楽に話すのがベスト、だそうです。お互い、ざっくばらんに話せば相手の事も分かってくるし、心と心の距離も少しづつ縮まるって、言っていました」


「な、成る程! す、凄く勉強になります!」


「例えばですが、王都へ戻ってから連絡を取った時、何か、彼女の好物でもさりげなく聞き出し、グレゴリーさんが美味しいと評判の店をリサーチして、一緒に行くとか」


「うお! ま、待ってください! ロックさん! メモします! メモ!」


「いえいえ、とりあえず、今は支店へ急ぎましょう。後でレクチャーしますから」


「わ、分かりました!」


……という事で、ロックとグレゴリーは、

ルナール商会アガット支店へ、速足で進んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……やはりというか、アガット支店の荷物受け渡しの準備は整っていた。


後はしれっと、ロックの超大型空間魔法で搬入し、収納するだけだ。


「おお、ステイゴールドのロック君、グレゴリー君、来てくれたか? もしかして衛兵から探しているのを聞いたかな? こちらは受け渡し準備完了だ!」


と破顔一笑のジェラルド。

相変わらず上機嫌のようだ。


「そうそう! こっちも何人かの社員から聞いたよ、街中で噂になっている。3人の暴漢どもから女の子を助けたんだって?」


おお!

さすが国内最大手商会の支店長。

情報がとんでもなく早い。


更に、にこにこしながら、ジェラルドは言う。


「ウチの強盗事件の解決といい、女子救出の件といい、君達ふたりは本当に強く、正義感にあふれている。そして真面目で仕事熱心、更にスピーディーで無駄も無い。こんな素晴らしい冒険者クランは今まで見た事も聞いた事も無い!」


褒め殺しともいえるジェラルドの物言い。


しかし最大級の絶賛は、ロックもグレゴリーも心地良く誇らしい。


自然と感謝の言葉も出る。


「過分なお言葉、ありがとうございます。ジェラルド支店長」

「貴方様から頂いたお言葉を励みにします」


「うむ! 私の一存では決められないが、出来ればぜひ、今後のウチへの輸送も君達ステイゴールドへ依頼したい」


「本当ですか?」

「嬉しいです!」


「それと、君達へ託す本店宛の報告書へは必要事項の他に、今回の君達の当支社とアガットの町への多大なる貢献、支社社員全員とその家族の感謝の気持ち、そして輸送継続希望のむねも書き添えておいた」


「重ね重ね、ありがとうございます」

「ぜひ次回も宜しくお願い致します」


「うむ! という事で、早速受け渡し作業を完遂してしまおうか」


「はい!」

「了解です!」


「その後は今後の仕事を見据えた食べ放題、飲み放題、無礼講の歓迎会だぞ! 私の家族を含め、支社社員達の家族も呼んでいる。皆で君達へ感謝の気持ちを込め、お礼を言いたいのだ。そして今日は無理をせず、ホテルで1泊し、明日に出発するがいい!」


作業終了後、すぐ王都へ出発する予定だったロックとグレゴリーであったが……

そこまで言われたら断れない。


また危険が増す夜旅を、宴会後のほろ酔い気分で行く事を避け、

ジェラルドのアドバイスに従う事にした。


「はい!」

「了解です!」


その後……ロックとグレゴリーは支店の倉庫へ移動。


きちんと整頓された王都向けの荷物の数量と内容を確認、

検品が終わると、しれっと空間魔法で仕舞った。


これで受け渡し作業は終了だ。


そして!


「慰労会の会場は君達が宿泊しているホテルの大宴会場だ。それなら安全だし、君達は慰労会終了後、そのまま部屋へ戻れるだろう?」


やはりジェラルドは仕事の出来る男。


宴会の段取りさえ、完璧だ。


そんなこんなで、支社の戸締りをしっかりし、全員でホテルへ移動。


会場には既に支社社員達の家族も来ており、

ロックとグレゴリーは、大事な身内の命を救ってくれた!最高の恩人だ!

と全員から感謝の言葉の雨嵐?の洗礼を受け、

アガットの夜はふけて行ったのである。

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