第17話「ここでピン!と来たロックは気を利かせ、その場から少し離れる」
抵抗する女子の様子を見たロックとグレゴリーは、
「いけませんね。あの子を助けますか、グレゴリーさん」
「ええ、義を見てせざるは勇無きなりです! 助けましょう!」
と頷き合い、ふたりは路地へ走った。
超俊足のグレゴリーが走りながら、声を張り上げる。
「こらああ!! お前らああ!! やめろおおお!! その子が嫌がっているだろうがああ!!」
続いて鈍足のロックも必死に追いかけ、
「やめろお!! お前らあ!!」
と声を張り上げた。
ガチムチと中肉中背の男ふたりが走り、声を張り上げ、迫って来る。
だが、ロックとグレゴリーに気付いても、喧嘩慣れしているのか、
ナンパ男達3人は意外にもひるまなかった。
「ああ!?」
「はあ? 何だ、てめえらは!」
と声を上げるナンパ男ふたり。
そしてリーダーらしき男が、「ぎろっ!」とにらみ、吠える。
「くらあ!! 邪魔だ!! 引っ込んでろや!!」
当然ながら、超俊足のグレゴリーが先に到着。
「いや、そう言われても、邪魔はやめん。そして絶対、引っ込むわけにはいかんな!」
グレゴリーは落ち着き払った声でそう言うと、震えおののく女子と、
いきり立つ3人のナンパ男どもの間へ「ぱっ」と割って入り、立ちふさがる。
そしてガチムチ筋骨隆々の身体に「ぬん!」と力を入れ、両手を広げ、
女子を守るように防御の姿勢を取った。
ぬおおおおっ!
という擬音が聞こえるような凄まじい仁王立ち。
そんなグレゴリーを例えれば、ここは陸上なのだが、『不沈艦』
もしくは、ナンパ男どもを高所から見下ろす『巨大魔人』という趣きである。
そして、やはりというかグレゴリーの身体能力は素晴らしい。
決して、でくの坊などではない!
身長2m超、筋骨隆々の肉体が、信じられないくらいの快走力と
俊敏さを見せたのだ。
ちなみに
散々な事となる。
なので、「力加減をしてほどほどに」と、
ロックからはセーブする事を指示されていたのは内緒だ。
「て、てめえっ!!」
「や、やるかっ!!」
「ぶ、ぶっ飛ばしてやるっ!!」
さすがに威圧されたのか、
ナンパ男どもは嚙みながら吠えると、グレゴリーへ向かい、一斉にダッシュ!
そして殴りかかり、蹴りかかったナンパ男どもの攻撃は、
グレゴリーの身体へヒットはしたが……
ぼすん! ぽすん! どむ! と、何とも情けない音を立てた。
おお!
鍛えに鍛え抜かれたグレゴリーの肉体は強い! 強すぎるっ!!
ナンパ男どものやわな攻撃など、全く通用しなかった。
そう!
ロックが見込んだ通り、グレゴリーには、
念の為、補足すると……
冒険者クランにおける盾役とは、
敵の攻撃を一挙に引き受け、味方を守る役割を担う。
基本的にはクラン内で最も体力があり、最も頑丈な者。
つまり総合的に防御力が高く、またはそれに類するスキルを有する者が務めるのだ。
「ははは、全く効かないぞ。もしかして、何か、したのか?」
「ふっ」と笑ったグレゴリー、ニヒルな笑いは挑発の効果抜群!
「ちいっ! くそがあ!」
「ぜってえ許さねえっ!」
「このガチムチ野郎! ぶっ殺してやるぜええ!」
小物感たっぷりなナンパ男どもは、
しゃ! しゃ! しゅ!
何と何と何と! 剣を抜き、ナイフを取り出したのである。
その瞬間!
「はい! 刃物はアウト!」
とロックの声が響き渡り、
どしゅっ! どしゅっ! どしゅっ!
更に風弾の音が響くと、
どぶっ!「ぐは!」 どぶっ!「が!」 どん!「うっ!」
ナンパ男3人は、どてっぱらへ、まともにロックの風弾を受け、悶絶、
あっさり気絶した。
「大丈夫、急所は外したから死にはしないよ」
ロックが声をかけても、倒れこんだナンパ男どもは、ぴくりともしない。
まあ、完全に気絶しているから当然なのだが。
……という事でナンパ男どもの討伐は完了。
「グレゴリーさん」
「はい、ロックさん」
「この事件の経緯を改めて確認し、簡単に説明すると……女子ひとりを拉致しようとしていた、こいつら3人が先に手を出し足を出し、殴る蹴るで、助けに入った無抵抗状態のグレゴリーさんが一方的に暴行されました。挙句の果てに刃物まで出しました。よって! 仕方なく俺は風弾を撃ちました。当然、正当防衛が適用されますし、10対ゼロで完全にこいつらの過失ですね」
「ええ、ロックさんの言う通り、100%間違いなく、そうですね」
「で、俺、衛兵を呼んで来ますから、その間、その彼女さんをいたわってあげてくださいね」
「え!? い、いや、それは……」
ロックの言葉を聞き、驚き戸惑うグレゴリー。
女子慣れしていない彼は、『ふたりきりの空気』に耐えられないらしい。
助けた女子が同年齢くらい、かつ可憐だから尚更だ。
「あ、あのロックさん? 本当に俺ひとりで待つんですか?」
「本当で~す。じゃあ、衛兵さんを呼んで来ま~す」
「にやっ」と笑ったロックは、路地を出て駆けて行った。
索敵で衛兵の居る場所を特定し、ピンポイントで向かったのは、
言うまでもなかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロックは最も近くに居た衛兵へ、さくさくっと事情を話し……
「衛兵さん、こっちで~す!」
と現場へと連れて来た。
幸いと言うか、この衛兵は、
昨夜のルナール商会アガット支店強盗事件の処理にあたったひとり、
ロックの話を聞き、すぐ信じて了解し、同行してくれたのである。
すると! 驚いた事に!
現場では、助けた女子がグレゴリーへ、ぴったりと寄り添い甘えていた。
「うふふ、グレゴリー様とおっしゃるのですね?」
「え、ええ、そうです! グ、グレゴリー・バルトと、も、申します!」
「グレゴリー・バルト様! 良きお名前です! 私はアルレット・クラヴリーと申します!」
「ア、アルレットさん! で、ですか?」
「はい! アルレットです! 凄く頼もしかったですわ! グレゴリー様! そして凄く嬉しいです! 白馬の王子様のように、さっそうと現れ、私を助けてくれました!」
「い、いや、そんな……」
「グレゴリー様は、りりしく、たくましく、かっこいい! そして強く、優しい!5拍子揃った、まさに私の理想のタイプですわっ!」
などと、グレゴリーと、嬉しそうに微笑むアルレットは、
とんでもなく甘い雰囲気?を醸し出していた。
こうなると話は早い。
ロックは衛兵を連れ、ふたりへ近づくと、
「グレゴリーさん、お待たせ。衛兵さん、この女性が被害者です。彼女に事情を聞いて頂き、俺の証言と付け合わせし、こいつらを容赦なく処理してください」
と、無様に倒れているナンパ男3人を指さした。
「うむ、了解だ! お嬢さん、ちょっと事情を聞かせて貰えないか?」
と、女性へ事情聴取する衛兵。
対して、グレゴリーに甘えるのをやめ、「はい」と返事をし、証言するアルレット。
……そうこうしているうちに、
野次馬が昨夜の事件後の支店同様「わらわら」と集まって来た。
応援の衛兵も新たに数人走って来る。
……それからしばし経ち、5人の衛兵による事情聴取は終了。
いまだ気絶したままのナンパ男どもは、現場へ回された衛兵隊の馬車に乗せられ、
衛兵隊本部へ連れて行かれた。
当然ながら、ロック達と被害者女子も別の馬車で衛兵隊本部へ。
ナンパ男どもの目が覚めてから、改めて事情聴取が為され……
やはりというか、アルレットの誘拐も考えていたらしく、
ナンパ男どもは現行犯逮捕で容赦なく入牢。
ようやく、ロックとグレゴリーは『解放』されたのである。
衛兵隊本部の前で、アルレットは深々と頭を下げる。
事情聴取の際、判明したが……
アルレットも王都サフィール在住で年齢は19歳。
とあるレストランで働いているという。
アガットへはやはり観光目的で訪れたそうだ。
「本当にありがとうございました! グレゴリー様! ロック様! おふたりはステイゴールドとおっしゃる王都の冒険者クランなのですね」
ここで「つんつん」とこっそりグレゴリーのわき腹をつつくロック。
「アルレットさんの問いには君が答えるように」との合図である。
「は、はい! そ、そうです!」
ここでピン!と来たロックは気を
すると!
アルレットは、もじもじしながらも、
自分の連絡先を記したらしい紙片を、グレゴリーへ「そっ」と手渡したのである。
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