第16話「4人が放つ波動でロックには分かった」

『うん! 絶賛発動中! という事で、たっぷり話せたし、凄く楽しかった! そろそろ時間だ、また会おうね、ロック君! は~はははははははは!!』


満足行く会話が出来た! という名も無き勇者の高笑いが響き渡り……

その瞬間、ハッ!とロックは目を覚ました。


「名も無き勇者様、か。ええっと……これ、ただの夢ではないんだろうな」


独り言を呟き、ゆっくりと半身を起こすロック。


隣のベッドで、グレゴリーはまだぐっすりと眠っていた。


どうやら、名も無き勇者様とのやりとりは、完全にクローズド。

グレゴリーは、全く気づいていないようだ。


昨日、話し、彼は名も無き勇者様の熱狂的なファンというか、

信者レベルなのだと改めて判明したが……


このやりとりの事は言えない……否、まだ言わない方が良い。

ロックは直感的にそう思った。


それより……名も無き勇者様は、どのような技法を行使し、俺と話したのか?


魔法使いのロックには、とても気になった。


多分、何か、夢を利用した秘密の魔法の一種だろうな、とお思いつつ、

詳細な事は、すぐには分からないと、切り替えたロックは、

それよりも一旦、名も無き勇者様との話を整理するか、とつらつら考える。


俺には隠しユニークスキル、

『逆境からの逆襲』『邂逅による開運』が備わっている、か……


名も無き勇者様は、あの方がご本人だとして……

ご自分を「現世に呼んでくれ、英雄召喚して欲しい」と仰った。


それがあの方の望みなのだろう……

何故、現世への召喚を望むのか……全く分からない。


そもそも……名も無き勇者様の英雄召喚は数百年、成功した者は居ない。

でも、「召喚魔法が一切使えない俺には可能だ」と言い切られた。


その理由が、俺が有する隠しユニークスキル、

『逆境からの逆襲』そして『邂逅による開運』にあると……


更に「論より証拠だ」と言わんばかりに、俺がクランをリリースされ、

グレゴリー・バルトさんと邂逅してからの事象を挙げられた。


確かに、名も無き勇者様の仰る通り、俺は冒険者となっても、

持てる才能を全く認められず、蔑まれ、日陰に追いやられた逆境状態だった。


その為、『逆境からの逆襲』が発動。

『逆境からの逆襲』は自身の才能開花を後押しするだけではなく、

著しくビルドアップさせ、遂には進化もさせる。

結果、索敵スキルが著しく上昇、リリースされ、魔法射撃スキルも同じく上昇した。

それらが俺の持てる眠っていた才能の開花だったと。


そしてグレゴリーさんとの邂逅で、『邂逅による開運』が発動。

結果、大きく運が向き、スキルの上達を後押した。


『邂逅による開運』は他者の力を借り受け、自身の欠点を補うどころか、

強みにする事も出来るという。


確かにおんぶされた俺の鈍足は解消されるどころか、

グレゴリーさんとふたりで一体となって、超快足へと変わり、

今や機動力は凄い強みとなった。


そして俺の方向感覚と勘は同じく、グレゴリーさんの鋭い方向感覚と勘になり、

完全に融合、見事に欠点を補い合っている。


そして、名も無き勇者様は仰った。

召喚魔法も全く一緒だと。


仮に他人が召喚したとしても、

召喚対象が俺に忠実であり、付き従えば全く構わないと。


ありえないと思うが、確かにロジックは合っている。


他者が召喚した対象が俺に忠実に付き従ってくれれば、

名も無き勇者様が仰る通り、全くノープロブレム、問題はナッシングなのだが……


そして最後に名も無き勇者様は仰った。


『邂逅による開運』は、グレゴリーさん同様、

名も無き勇者様と出会った事でも、既に発動していると。

「また会おうね、ロック君!」と再会も告げられた。


……まあ、良いやとロックは苦笑する。


とりあえず状況は認識した。

この件に関しては事態が動くのを待つしかない。

いくつかの可能性を考え、何か?が起こるであろう心構えだけしておけば良い。


まずは、目の前の仕事をきっちりと行う。

アガット支店の荷物を受け取り、王都サフィールまで、

無事に運び、ルナール商会本店へ納品する。

その仕事を完遂しよう。


ロックはそう決意し、ベッドから降りたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……しばらくすると、グレゴリーも起床した。


「おはようございます、グレゴリーさん」


「お、おはようございます! ロックさん!」


「もう午前7時過ぎですよ。あの、朝飯、どうします?」


「ど、どうとは?」


「いえ、少し考えたのですが、ホテルのレストランでリッチなビュッフェ朝食を食べるか、朝早くから営業している屋台市場へ行き、各屋台の朝食を見て決めるか、の二択ですかね」


「おお、それ! 両方とも良いですね! 凄く迷います!」


「ははは、今朝はグレゴリーさんに選択権をあげますよ」


「う~ん……」


結局、グレゴリーは悩んだ末に屋台市場行きを選んだ。


ついでに昨日は回り切れなかった町の観光を兼ね、

朝食後、街中を散策しようという事にもなったのである。


……という事で、ホテルを出てアガットの街中を歩くふたり。


「グレゴリーさん、近代的な王都とは違い、古き良きって雰囲気に満ちていますね」


「全くです。郷愁を誘うというか、懐かしい気分になりますよ」


そんな会話を交わし、屋台市場へ。


ふたりは、主食、パン、サラダ、飲み物をそれぞれ違う屋台で選び、

フードコートで朝食を摂る。


「美味いですね」


「ええ、本当に美味いです。仕事が順調だから尚更ですね」


そんなこんなで、朝食が終わり、

ロックは市場で、備蓄用の食料品も購入する。


日持ちがする干し肉、干し魚、ドライフルーツ、菓子などを多めに。

後で全てを、空間魔法で仕舞っておく。

帰路で小腹が空いたら、食べてもOK。


「買える時に買っておけ。備えあればうれいなし、です」と。


それから、腹ごなしにアガットの街中をぶらぶらする。


途中、リユース品も扱う魔道具屋へ寄り、チェックすると、

中級レベルの回復魔法を行使可能な良質の魔法杖があり、

やはり1回の魔力充填で100回使用可能。

気になる売値は金貨100枚100万円


やはり、それなりの値段はする。


現状、体力回復は魔導ポーション、薬草などでケアしているが、

この回復魔法杖があれば凄く便利だ!


ロックが手に取って、値段も値段だし、

「どうしようか」買うか買わないかと迷っていたら……

店主から声をかけられ、「見ない顔だな?と」身元を聞かれた。


答え、冒険者ギルドの所属登録証を提示すると、

「おお、ステイゴールド!? あの君達か!」と昨夜の事件を店主は知っていた。


もしかしたら、支店の周囲に居た大勢の野次馬の中に、

この店主が居たのかもしれない。


「君達が凶悪な強盗どもを捕まえてくれ助かった! これで安心して商売が出来る! この回復魔法杖の大幅値引きをしてあげよう! 大サービス、半額でOKだ!」


と言うので、店主の好意に甘えて、こちらも購入しておく。

これも『邂逅による開運』のご利益りやくかと笑みが浮かんでしまう。


結果、ロックは風属性、水属性、回復魔法と都合3つの魔法杖を所持。


自身は空間魔法しか使えない半端者と罵られて来た。


だが今や、間接的にだが、3種類の属性魔法を行使可能な魔法使いになった。


心強い事に、体内魔力は通常魔法使いの約3倍だし、

まだまだ増え続けている気もするから、ノープロブレムどころか、万全以上だ。


念の為、使用方法を店主から教えて貰い、上機嫌のロック。


意気揚々と店を出た。


「ロックさん、良かったですね!」


「ええ、グレゴリーさん。痛い出費ですが、探そうと持っていた良い回復魔法杖がリーズナブルな価格で買えました」


「でもそれで、俺も体力回復をして貰いますよね? だから半分出しますよ」


「いえ、クランでは共用にしますけど、魔法杖自体は俺の私物にしたいので。わがままを言い、申し訳ありませんが」


「いえいえ、了解です」


そんな事を話していれば……


ロックとグレゴリーが歩く表通りから一歩入った路地で、

観光客らしい若い女子ひとりが、柄の悪そうな男ども3人に絡まれていた。


4人が放つ波動でロックには分かった。


男ども3人が嫌がる女子を無理やり食事に誘いつつ、

どこかへ連れて行こうとしていると。


またこのような場合、美人局つつもたせの場合もあるが、

4人が発する波動には演技、虚偽の気配は一切ない。


抵抗する女子の様子を見たロックとグレゴリーは、


「いけませんね。あの子を助けますか、グレゴリーさん」


「ええ、義を見てせざるは勇無きなりです! 助けましょう!」


と頷き合い、ふたりは路地へ走ったのである。

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