第15話「何故なら、僕には予知能力もあり、既に明るい未来が見えている。結果良しであれば何でもありでOKだ」
『お~い、ロック・プロスト君だったかなあ~? スヤスヤ寝ているところを申し訳ないが、ちょっち、起きてくれないかなあ。 大事な話があるんだよ~』
のんびりと、呼びかける声がロックの心の中に響いた。
ハッと気が付けば、周囲は真っ暗闇である。
ロックは元来、夜目が利くが、不思議と何も見えないのだ。
就寝中のはずのロックは、目が覚めているのか、寝たままなのか、
とても不可思議な感覚なのである。
え!?
だ、誰っすか!?
いきなり声をかけられ、不可思議な感覚に包まれ、
驚くロックであったが……
ふいっと記憶が甦る。
いや! 待てよ! この声?
聞き覚えがある!
『勇者が亡くなった家』で、聞いた声だ!
誰かは分からないが、とりあえず、返事をしなくてはならない。
相手は邪悪な者ではない、そんな気がしたのだ。
なのでロックは声を張り上げる。
『ええっと! ……確かに俺はロック・プロストですが、どこのどなた様でしょうか? それと、どのようなご用件でしょうか?』
対して、謎めいた声はすぐに返事を戻して来る。
『あはは、僕の話を聞いてくれるんだね、良かった、良かった』
『ええ、お話くらいは、お聞きします』
『うん! ありがとう。 優しいね、ロック君は。ではご要望にお応えして、まずは名乗ろうか、僕はね……『獅子』もしくは『大食い』『怠け者』と呼ばれていた者だよ』
謎めいた声の言葉を聞き、記憶も甦り、ロックはすぐにピン!と来る。
『え!? 『獅子』もしくは『大食い』『怠け者』と呼ばれていた者!? それって、遂に本名をお告げにならなかった、名も無き勇者様、ですか?』
『ああ、そういう事になるね』
ロックの問いに対し、謎めいた声はあっさり肯定した。
『これは驚きました。名も無き勇者様が亡くなられた家で、俺へ話しかけられたのは、今夜会いにいらっしゃるという前振りですね』
『あはは、さっき呼びかけたのを分かっていたようだね? 大当たり! だが、念の為に言っておくと、あの家はしょせん観光用に造られた物で、晩年の僕が実際に住んでいた家とは似ても似つかないけどね』
『ですか。あの家を見て、違和感を覚えましたし、そうじゃないかと思いましたよ』
ロックの口調が淡々としたもの完全にに戻った。
名も無き勇者は面白そうに笑う。
『あはは、いきなり正体不明の奴から話を振られても、とても落ち着いているね、ロック君は。慌てず騒がず、冷静沈着だ。さすが僕が見込んだ者だけの事はある』
『お褒め頂き、ありがとうございます。ちなみに昼間、俺へ話しかけた技法は念話の一種でしょうか? 心の波動というよりも肉声に近かったのですが』
『うん、あれは念話から派生した擬態肉声という魔法さ。腹話術みたいで面白いだろう?』
『ええ、面白いです。俺、まだ念話が使えませんので、まずは念話を習得したいですね。習得する自信は全くありませんが』
『あはは、だいじょうぶい! 現に今、僕とロック君は念話で話している。会話は極めてスムーズだ。君は素晴らしい素養があるから必ず近いうちに話せるようになる』
『本当ですか? 凄く嬉しいです』
『あはは、僕は基本的にだけど嘘はつかないよ~ん。念話にもいろいろ種類があるから奥が深い。そして君はいずれ擬態肉声も使えるようになるかもね。ちなみに擬態肉声も個人念話同様、対象者にしか聞こえないよ』
『成る程。だから俺だけで仲間には全く聞こえなかったのですね』
『その通り!』
『分かりました。レクチャー、ありがとうございます。もろもろ期待しつつ修行に励みます。で、話は戻りますが、今夜わざわざ俺に会いにいらしたのは何用でしょうか?』
『うん! ちょっとだけ手間がかかるけど、僕を現世へ呼び出して欲しいんだ』
『ちょっとだけ手間がかかるけど、名も無き勇者様を現世へ? それって英霊召喚、いえ、勇者様を召喚するって事ですよね?』
『ああ、そうなるね』
『勇者召喚ですか。しかし、問題がいくつかあります』
『問題? いくつ? どのような?』
『はい、まず最初に俺は召喚魔法を習得しておらず行使出来ません、そして当然ながら、その技法のひとつ英霊召喚も習得しておらず、行使が出来ません。つまり名も無き勇者様を現世へ、お呼びする事は出来ないのです』
ロックは召喚魔法、当然、英霊召喚も行使が不可能。
しかし名も無き勇者は全く動じない。
更に質問を重ねて来る。
『成る程、分かった。それと何?』
『はい、それと今、俺とお話しされている貴方様が、そもそも本当に名も無き勇者様なのか、確認が出来ていません』
『おお、それは
『です!』
『あはは、確かにそうだな。ロック君の言う通りだ。ようは僕が本当に名も無き勇者なのか、証明しなくてはならないって事だよね?』
『はい! そして、名も無き勇者様の召喚はとても高難度で、数百年間、上級レベルの
『成る程。道理で呼ばれないと思ったよ』
納得する名も無き勇者。
ロックは、きっぱりと言い放つ。
『以上の理由から、はい! と安請け合いは出来ません』
だが、名も無き勇者は簡単に引き下がらない。
『そっか! でも僕が見込んだロック君ならば問題は解決出来るんだな、これが』
言い伝え通り、つかみどころのない、ひょうひょうとした名も無き勇者。
『では、申し訳ありませんが、名も無き勇者様。俺が問題を解決し、貴方様を召喚可能だという理由をお聞かせください』
柔らかく微笑み、ロックは名も無き勇者へ問いかけたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロックの問いに対し、名も無き勇者は答える。
『ふふふ、まず僕が本当の、という言い方も変だけど、名も無き勇者本人である事を証明するよ』
『ですか? どのように証明をされるんでしょうか?』
『うん! 僕が現役時代に住んでいた自宅、そして様々な機会において得る事となり、所持していた莫大な財産、武器防具などが
『ええ、隠された名も無き勇者様のご自宅、そして財宝として、超が付く有名なお話ですね。これまで数百年の間、とんでもない数の人々が、勇者様の遺されたお宝探しをしたとか。中には自分の人生を捧げた人も居ると聞いた事があります』
『ふふふ、そうだね。確かにそう簡単に見つからない場所に僕の自宅はある。そして隠されている上に、強力な魔法で厳重に扉へ施錠してあるから、万が一入口が見つかっても、簡単には開かない。更に自宅内には魔法で動くこわもての番人も居る。万が一侵入されても、強制的に排除されるよ』
『ですか』
『ほう、ロック君は塩対応じゃないか。あんまり関心が無いみたいだね』
『ええ、名も無き勇者様のご自宅と遺産なんて、凄くロマンはあると思いますし、見つかれば世界的な国宝レベルなんでしょう。ですが、それを見つけてひと山当てようとか、伝説の武器防具を装備して、最強になろうとか、俺にはピンと来ないし、興味はあまりナッシングです』
『そ、そう? あまりナッシングね。まあ、良いか。で、話を戻すと、僕がアテンドし、ロック君をとある場所へ連れて行き、隠された自宅とお宝を見せれば、僕本人だという証拠になるよね?』
『まあ、そうですね』
『で、次はロック君が未習得だという英霊召喚、つまり勇者召喚の問題だ』
『ええ、先ほども申し上げましたが、俺は召喚魔法を行使出来ません。なので、逆立ちしても名も無き勇者様を呼ぶ事は出来ませんよ』
『ははは、それが逆立ちしなくても、解決するんだなあ』
『えっと、解決って、どういう事でしょうか?』
『ちょっと、ここから話が長くなるんだ』
『長く、ですか?』
『ああ、ロック君は魔法使いだが、基本的には空間魔法のみを行使する魔法使いだよね?』
『です!』
『だが、君には自分でも気づかなかった未知の才能が眠っている』
『は、はい。冒険者になってから一連の状況を
『うん! ロック君が冒険者となり、辛い目にあってからバージョンアップした索敵スキルは探知も含め超一流。そしてクランをリリースされてから習得した魔法射撃スキルも正確無比の命中率、それぞれが卓越した素晴らしい才能だね』
『まあ、自分でもここまでになるとはと、驚いています』
『そうだろう、そうだろう。どうしてこのような素晴らしい結果が導き出されたかというと、何故だと思う?』
『いえ、いろいろと考えてみましたが、さっぱり分かりません』
『じゃあ、ネタばらし! 実は君にはね、隠しユニークスキル『逆境からの逆襲』そして『邂逅による開運』が備わっているんだ』
名も無き勇者からの衝撃のコメント。
さすがにロックは驚き、戸惑う。
『え!? 隠しユニークスキル『逆境からの逆襲』!? そして『邂逅による開運』!? 何ですか、それ? そんなユニークスキル聞いた事も書物で見た事もありませんよ』
『ああ、隠し、とついている通り、表へ出ない超レアなスキルで、あまり知られてはいない。そしてこのふたつのスキルは条件が揃ってから初めて発動するユニークスキルなんだ』
『成る程』
『効能効果は、
『まあ、何となく分かります。予想はつきますし、効能効果らしき事は身をもって体験していますから』
『だろう? 僕から改めて説明すれば、魔法使いのロック君は冒険者となっても、自身の持てる才能を全く認められず、一方的に蔑まれ、日陰に追いやられた逆境状態だった』
『ですね』
『その為、『逆境からの逆襲』がしれっと発動。結果、索敵スキルが著しく上昇、訓練もして魔法射撃スキルが同じく上昇した。『逆境からの逆襲』は自身の持てる眠った才能を開花させ、更に著しくビルドアップさせ、遂には進化もさせるのさ!』
『な、成る程! 凄いですね』
『ああ、正直、凄いスキルだ! そして! グレゴリー・バルト君との邂逅で、『邂逅による開運』がしれっと発動。結果、大きく運が向き、開花し、ビルドアップするスキルの上達をどんどん後押ししたんだ』
『もろもろ詳しいご説明をありがとうございます。しれっと発動、ですか。改めて良く分かりました。そんなユニークスキルが、それがふたつも俺にあるなんて、素直に嬉しいですね』
『分かったかい? だから! 君はいつの日にか、僕を召喚する事が出来るってわけさ』
『いやいや、お待ちください、名も無き勇者様。だから! 君はいつの日にか、ではないですよ』
『ははは、そうか?』
『ええ、そうです。おっしゃっているロジックは、申し訳ありませんが、
ロックがきっぱり言い切ると、名も無き勇者は少し戸惑ったようである。
『おいおい、脈絡も整合性もない破綻したものとは、手厳しいな』
『いえ、手厳しくはないです。何故ならば、俺、召喚魔法は知識こそあれ、実践が全く伴わずダメで、犬猫鳥などの使い魔さえ呼び出せずに、ず~っと落第点でしたから』
『へぇ~、そうだったんだ?』
『はい! だから貴方様みたいな超が付く高レベルの方を召喚出来る可能性は100%ナッシングなんですよ』
ロックの言葉を聞き、今度は名も無き勇者の逆襲?
『ははははは! 100%ナッシングだと思うだろう? しかし! 違うんだな、これが!』
『一体、何が違うのでしょうか?』
『うん! 更にネタばらし! ロック君が持つ『邂逅による開運』は自身の才能開花を後押しするだけではなく、他者の力を借り受け、自身の欠点を補うどころか、強みにする事が出来るのだ』
『あ! 他者の力を借り受け、自身の欠点を補うどころか、強みにする、ですか。それは経験済みなので納得します!』
『ふっ、経験済みだと、さすがにすぐ納得したね』
『はい』
『ロック君は分かっているようだが、ここは僕からも敢えて言おう。グレゴリー君との邂逅で、おんぶされたロック君の鈍足は解消されるどころか、超快足へと変わり、今や機動力は凄い強みとなっている!』
『ええ、おっしゃる通りです。でも、召喚魔法は、グレゴリーさんに、おんぶされたのとは、また話が違います。他者が召喚しても、俺が召喚した事には絶対になりません。そこはどうなのでしょうか?』
『ははは、僕は先ほども述べたが、グレゴリー君とのマッチングをもう一度考えてみたまえ』
『もう一度、考えるのですか?』
『ああ、では再び僕から言おう。今やグレゴリー君の素晴らしい快足はロック君の快足に、逆にロック君の鋭い方向感覚と勘はグレゴリー君の方向感覚と勘に、完全に融合、見事に互いの欠点を補い合っている』
『成る程、確かにそうです。仰る通りです』
『だろう? 召喚魔法も一緒さ』
『一緒ですか?』
『ああ、ものは考えようだ。仮に他人が召喚したとしても、召喚対象が君に忠実であり、付き従えば全く構わない、問題は無いわけだろう?』
『まあ、確かに理屈ではそうですが。召喚魔法の真髄は、術者が対象者と魂の契約を結び、召喚を重ね、更に結んだ絆を深めて行く事です。召喚された者は第三者の命令など絶対に聞かないし、従いません。果たして、そんな事がありえるのでしょうか?』
『お~、さすがに良く知っているね。でも! ありえる! 何故なら、僕には予知能力もあり、既に明るい未来が見えている。結果良しであれば何でもありでOKだ』
『ですか。つまり終わり良ければ全て良しって事でしょうか?』
『ああ、その通り! 終わり良ければ全て良しさ! そもそも君の『邂逅による開運』は、グレゴリー君同様、僕と出会った事でも、既に発動している!』
『え!? 『邂逅による開運』が!? グレゴリーさん同様に、名も無き勇者様とお会いして、既に発動しているのですか?』
『うん! 絶賛発動中! という事で、凄くたっぷり話せたし、凄く楽しかった! そろそろ時間だ、また会おうね、ロック君! は~はははははははは!!』
満足行く会話が出来た! という名も無き勇者の高笑いが響き渡り……
その瞬間、ハッ!とロックは目を覚ましたのである。
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