第13話「こういうところに、気遣いの出来る出来ないの差が出ると、ロックは思う」

ロックは、ルナール商会アガット支店の支店長ジェラルド・カニャールとともに、

急ぎアガットの衛兵隊本部へ赴き、事件発生と経緯、その解決を報告した。


ルナール商会アガット支店において強盗未遂事件が起こった事、

人質となった支店社員の命の危機があった為、

冒険者クランステイゴールドが策を用いて、強行突入。

見事賊どもを戦闘不能とし、捕縛した事などを報告したのである。


ジェラルドはアガット衛兵隊の隊長とも仕事柄、顔なじみだったので、

話はすぐに通り、衛兵20名がアガット支店へ急行。


強盗未遂犯5名は、支店社員への脅迫、暴行、殺人未遂の罪も合わせ、

捕縛されたまま衛兵隊へ引き渡され、逮捕された。

この後、牢獄に収監され、裁判にかけられる事となるだろう。

衛兵曰はく、「多分、奴らは常習犯であり、余罪がたっぷり出そうだ」との事。


そしてそして!

起こった強盗事件に、「町は大騒ぎさ!!!」とばかりに、

押しかけた野次馬が大勢、支店の周りに群がった。


……そんなこんなで、事情聴取等が行われ、諸手続きが終わると、

時刻はもう午後11時を回っていた。


当然ながら、いつまで経っても帰宅しない支店社員達を心配し、

家族達が数多、支店まで迎えに来ていて、

とんでもない事件に巻きまれた事情を知り驚愕、だが命の無事を喜び合った。


救出した上、手持ちの魔導ポーションも提供。

怪我の治療、体力回復までもケアしたロックとグレゴリーへも、

支社の社員達とその家族達から、熱く熱く礼が述べられたが、

さすがに今日は一旦解散。


家族から礼を告げられたロック達は「そんなのは当然です!」と言い切り、

輸送して来た荷物の納品と検品は持ち越し。


「そのままお預かりします」と返し、

「明日改めて、仕切り直しだな」という事となった。


軽傷とはいえ、犯人達から暴行を受けて怪我をし、

精神的ダメージも負った社員達であったが……

業務上、ロックとグレゴリーが運んで来た大荷物を受け取らねばならない。


王都サフィールの本店へ今回の件を含め、

報告もしなければならない事等々をかんがみて、

ジェラルドの判断により、いつもの就業開始よりも1時間遅れ、

午前10時に集合し、業務を開始する事となったのだ。


そんなロックとグレゴリーの宿泊先は、

感謝仕切りのジェラルドが手配してくれたアガットにおける最高級ホテルの部屋。


今回の経緯から、宿泊費は支店持ち。

ロック達は恐縮し、固辞したが、

ジェラルドは「ふたりは命の恩人だから!」と譲らなかった。


さすがにスイートルーム貸し切り! ……とまでは行かないが、

用意された広々としたツインルームで、ふたりは大きな風呂へ入りさっぱり。


事情を知ったホテルの好意で、遅いルームサービスの豪華な夕食を摂り、

強行突入の半裸状態のショックから落ち込んでいたグレゴリーも、ようやく回復?


その後、ふたりは、これまたダブルサイズの大ベッドで、

ぐっすりと眠る事が出来たのである。


さてさて!

……翌朝、ホテルで朝食を摂ったロックとグレゴリーは、

いつもの癖で30分早く、午前9時30分にアガット支店へ赴いた。


しかし、責任感の強いジェラルドと部下数人は既に出社していた。


昨夜、衛兵隊本部へ行く道すがら、ジェラルドとはいろいろと話した。

支店長と言っても、ジェラルドは、フレンドリーで、きさくな性格。


年上の先輩で、クライアントという立場だが、ロック達とはすぐに意気投合した。


本店のマティアス部長もフレンドリーであったし、

ルナール商会は、そういう社員が多い社風なのかもしれない。


当然ながらジェラルドは、会頭の孫娘リディの存在を知っており、

今回の往復輸送も彼女の要望、意図である事も知っていた。


まあ、さすがに反対の言明はしないが、

ロックとグレゴリーのステイゴールドを起用した、

商品輸送には半信半疑だったらしい。


何故なら、これまでの商隊を使う輸送とは全く違う仕様であるから。


しかし、論より証拠。


午前10時前に社員達が揃うと、全員で倉庫へ移動。


いよいよ大荷物の対面、そして納品と検品だ。


「じゃあ、行きます。カテゴリー別で、こちらへ並べれば宜しいですよね?」


とロックが、超大型空間魔法を行使!

商品100箱、食料品100箱、ワイン、エールが各100樽、資材100箱、その他100箱が、いきなり! しれっ! と現れた。


「おおお!!??」「何だ、これ!!??」「信じられない!!??」

「冗談だろ!!??」「オーマイガー!!??」「こ、これが魔法!!??」


昨夜、グレゴリーの鎧と肌着が現れたのを見ていても、

大量の輸送物資が現れるのは、与えるインパクトが違い過ぎた。


とんでもない衝撃を受け、茫然自失としていたジェラルド達であったが……


いつまでもショックを受けたままではいられない。


「よ、よし! 皆! 数量を確認した上で、検品作業へ入ろう!」


気を取り直したジェラルドの号令の下、ロックとグレゴリーも参加。


納品&検品作業は滞りなくスムーズに行われ、


「間違いなく! 確かに受け取った!」というOKを貰う事が出来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


王都からの大荷物をアガット支店へ納品し、

検品をして貰って、今回の依頼は「はい、それで終わり」ではない。


次は復路、アガット支店の荷物を受け取り、

王都サフィールの本店へ運ばねばならないのだ。


「ジェラルド支店長。本店のマティアス部長からご指示が来ていると思いますが、もしご用意が出来ていましたら、そちらの荷物を受け取り、王都へ運びます」


ロックがそう言うと、ジェラルドは苦笑。


「ははは、申し訳ない。残念ながら、君達が早く来過ぎたから、渡す荷物はまだ用意出来ていないんだよ」


「え? ご用意出来ていない? そうなのですか!」


「ああ、従来の商隊ならば、王都から約6日かけてアガットまで、やって来るだろう?」


「ええ、本店からは、これまではそうだったとお聞きしています」


「うむ、ウチの支店もそれで予定を立てていた。まあマティアス部長からは早めに到着すると思うとは手紙で示唆されていたが、まさかたった1日、ここまで早いとは本当に想定外だったよ」


「はい、こんなに早く到着出来たのは、たぐいまれなグレゴリーの超快足と超持久力のお陰です」


ロックがそう言うと、傍らに立つグレゴリーは照れた。

だが、とても嬉しそうでもある。


そんなロックとグレゴリーを見て、ジェラルドは柔らかく微笑む。


「うむ、そうか。君達がこんなに早く来たお陰で、タイミング良く、押し入っていた強盗を無力化させ、捕縛し、お陰で我々社員の命は救われた。本当に運が良かった。創世神様のご加護だな」


「ですね」


「更に届けてくれた本店からの荷物も全て受け取り、検品も無事に終わり、質数とも問題無しでOK。ここまで予定より随分早いから、こちらから送る荷物を用意する作業日数も充分にある。そうは言っても、君達の結んだ契約には、遂行日数短縮等のインセンティブもあるのだろう?」


こういうところに、気遣いの出来る出来ないの差が出ると、ロックは思う。


なので、言葉を濁しながらも、素直に礼を告げる。


「ええ、まあ。お気遣い頂きありがとうございます」


「いやいや、ならば、王都へ出発するのは早い方が良いだろうから、これから支店の社員総出で作業する。だから、その間、ふたりでアガットの町の観光でもしていてくれ」


「え? 支店の社員総出で作業ですか? ええっと、宜しければ、俺達もお手伝いしますが……」


「ははは、さっき手伝ってくれただけで充分だよ。そちらこそ気を遣わんでも良い。内々の事情もあるし、君達の気持ちだけ受け取って、支店の社員だけで対処する」


「ですか、分かりました」


「ああ、本当は社員の誰かを君達へつけ、観光のアテンドをさせたいが、今言った通り、総出で作業を行うからな。申し訳ないが、地図を見るか、観光案内所か、どこかで相談してくれないか」


「了解です」


「全ての作業が終わったら、今回の感謝と慰労も兼ね、支社の社員達全員で君達の歓迎会を開く予定だ。宜しく頼むぞ」


「はい、ありがとうございます」


「たった半日あまりで300㎞を移動した旅の疲れもあるだろうし、のんびりして来ると良い」


「そうします」


「昨日のホテルに延泊の手配は既にしてある。当然、出発までの宿泊費等々は支店持ちだ。こちらの作業が終わったら、すぐに連絡する。今、午後4時か、さすがにこれから徹夜はしないし、明日以降の作業完了になるとは思うが」


……という事で、ロックとグレゴリーはジェラルドへ厚く礼を言い、

アガットの町へ出たのである。

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