第10話「それに俺達は仲間ですから、フォローし合うのは当たり前ですよ」
殺気を放つ強盗らしき賊どもを一蹴したロックとグレゴリー。
更に街道をアガットへ向かい軽快に進んで行く。
途中、また強盗、追いはぎらしき奴らが待ち伏せをしていたが、
事前にロックが索敵で存在を捕捉。
少し離れた位置から安全に、こちらの姿を見せずに風弾の威嚇で蹴散らした。
遠距離から放たれる抵抗不可能かつ正確な風弾に賊どもはひどく怯え、逃げ去る。
そんな威嚇を数回行い、これで実戦訓練も兼ね、遠距離射撃は目途がついた。
ちなみに用心深いロックは、風弾の魔法射撃の都度、こまめに魔力を充填。
魔力切れの弾切れが絶対に起こらないよう、常に注意していた。
そんな毎回の攻撃の一部始終を目の当たりにしたグレゴリーは、
ロックの索敵と魔法射撃の手際に感心しきり。
「さすがはロックさん、魔法射撃も索敵も凄いですよ。これなら安全にスムーズにアガットまで行けそうです」
グレゴリーは、ひとしきりロックを褒めた後、
「うう、それに引き換え、俺は……な、情けない」
と悲しそうに唸り、落ち込む。
ここでモチベーションが下がるのはまずい。
なのでロックは笑顔で首を横へ振り、
「いえいえ、俺達はふたりで一人前です。俺が思う存分、持てる能力を発揮出来るのは、グレゴリーさんの走力と持久力に裏打ちされた機動力があればこそです」
「ですかねえ……」
「絶対にそうです! もしも鈍足の俺がひとりで複数の敵に襲われ、いろいろな場所から時間差で攻撃されたら、どうなると思います?」
「ど、どうなるのでしょうか?」
「はい、魔法射撃である程度、抵抗は可能でしょうが、散々攻撃を受けて、疲れ、
「な、成る程……段階的にそうなりますか」
「ええ、段階的に追い詰められ、最後は詰みます。それよりもまずふたりで、このアガット往復輸送の仕事を完遂しましょう。そして王都へ戻ったら、グレゴリーさんのパワー、俊敏性をもっと活かす為に、コンタクトスキルを向上させる指導が可能な良い師匠を探しましょう。俺も師匠探しを手伝いますよ」
と仕事へ集中する事を促し、弱点を修正、向上させる事を勧め、
協力する事を申し入れた。
ここでようやく、グレゴリーは破顔一笑。
「あ、ありがとうございます! ロックさんの励ましで元気が出ました! 俺、何かにつけて、いつもけなされてばかりで、その都度ネガティブになっていたので……」
「あはは、それ、俺も全く同じです。それに、こんな陰キャでしたから、彼女居ない歴イコール年齢ですよ」
「え? そうなのですか? 俺もですよ! 女子と交際した事なんかありません!」
原野の真ん中で、何故かカミングアウトし合うふたり。
「でもグレゴリーさんは、たくましく、りりしい。女子から見れば、かっこいいじゃないですか?」
「う~ん……そう言われても全然もてないんです! 俺も彼女居ない歴イコール年齢です!」
これ以上言い合うと不毛な会話。
なので、ロックがクロージング。
「ですか! じゃあ、ふたりとも頑張って、モテるように成り上がり、可愛い彼女をゲットしましょう!」
「OKです! でもロックさんには、リディさんがお似合いでは? 彼女、ロックさんが、クランステイゴールドの『推しメン』だとおっしゃっていましたよ」
「いやあ、『推しメン』とか、それ社交辞令かつ、気持ち良く仕事をして貰う為の方便ですよ。リディさんは、ルナール商会会頭の孫娘、さすがに高嶺の花子さんです。俺とでは格差がありすぎます」
「ははは、素直に認めたくありませんが、確かにそうですよねっ!」
改めてモチベーションアップしたふたりは、
「じゃあ、ロックさん、ご指示をお願いします!」
「了解っす! では、徐々に速度アップ。グレゴリーさんの巡航速度時速30㎞よりやや早めの時速40㎞で、疲れたら、遠慮なく言ってください。すぐ休憩しましょう」
「分かりました!」
と、気合充分に、アガットへの街道をひた走ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アガットへ、ひた走るロックとグレゴリーを襲って来るのは、
人間の賊だけではない。
最近は本来夜行性のゴブリンどもが、真昼間、群れを成して襲って来る。
しかし!
対処方法は人間の賊と同じ。
何度も威嚇射撃して追い払い、奴らが逃げ去った後に通過するというパターン。
速度を変えながら約100㎞走ったところで、ふたりは休憩に入った。
街道沿いには不定期間隔で空き地が設けられている。
行きかう旅人が休憩したり、キャンプをする為に、プラティヌ王国が雑草を刈り、
岩、石を取り除き、整地したものだ。
天気は相変わらず快晴、青空には雲ひとつない。
王都サフィールの正門を出てから、約4時間が経っており、現在は午前9時である。
実はこの休憩、「まだまだ大丈夫」というグレゴリーを説き伏せ、
無理やり、ロックが指示し、休ませたのだ。
ロックから勧められ、グレゴリーは体力回復の魔導ポーションを飲む。
劇的に効く強壮剤的なものではなく、効果はゆるやかに表れる。
その分、身体への負担は少ない。
ほっと、ひと息つき、グレゴリーが言う。
「賊、魔物を何度も何度も追い払い、そしてこうして休憩をして、約4時間で約100㎞到達、後200㎞でアガット到着ですか」
「ですね」
「ロックさん、今のペースで進むとして、単純計算で到着所要時間は約8時間で200㎞。現在は午前9時だから……午後5時までには到着か……でも走る速度とペースは、まだまだ上げられますよ」
「了解です、グレゴリーさん。でも速度もペースも今のままで充分ですよ。復路もありますし、下手に体力を消耗しないようにしましょう。無理は禁物です」
ロックの言葉は単に効率、インセンティブ狙いよりも、
グレゴリーの身体をいたわるもの。
微笑んだグレゴリーは素直に受け入れる。
「分かりました。……話は変わりますが、ここまで王都と近郊で行った訓練の成果が良く出ていますね。ロックさんの魔法射撃は人間の賊もゴブリンどもも完璧に撃退出来ていますよね?」
「ええ、今のところは問題なく対処出来ていると思います」
「そんなロックさんへ、ひとつお聞きしたいのですが」
「はい、何でしょうか?」
「魔導望遠鏡でしっかり確認しましたが、ロックさんの魔法射撃の腕前なら、賊やゴブリンを倒す事も可能ですよね? 何故威嚇止まり、なのですか?」
「はい、今回の依頼はアガットへの往復輸送です。賊やゴブリンの討伐ではありません。リディさんが提示したインセンティブには完遂までの日数短縮も入っていますから、他の事に余分な時間はかけたくないんです。正直、折角頂戴出来る報奨金をみすみす逃したくない」
「おお、成る程、それはそうですね」
「はい、それに賊、魔物と戦うのは、王都で師匠をつけ、グレゴリーさんのコンタクトスキルが修正され、向上してからです。その後、改めて戦闘訓練を行った上で、受諾する事にしましょうよ」
「あ! もしかして、訓練を行う王都郊外にゴブリンが出現すると分かっていて、報奨金を得られる討伐依頼を受けなかったのはそのせいですか」
「です!」
「あ、ありがとうございます! 俺のスキルアップを待っていて頂けるんですね」
「ええ、前にも言いましたが、コンタクトスキルの欠如でグレゴリーさんのパワーが活かせないのは本当に残念ですから。それに俺達は仲間ですから、フォローし合うのは当たり前ですよ」
「重ね重ねありがとうございます!」
「という事で、寄り道をせず、アガットへ向かいますが、あちらに到着すれば、町見物くらいは出来るかもしれませんね」
「ですか! ロックさん、俺、アガットの町は今まで行った事が無く初めてなので、凄く楽しみです」
「ええ、俺もですよ。まあ遊びではなく下見という事にすれば良いと思います。また別の仕事で行くかもしれませんし」
「ですね!」
という事で、休憩は終了。
ロックとグレゴリーは、身支度をし、アガットへの進行を再開した。
道中は、街道に、やはり人間の賊、ゴブリンなどが数多出現したが……
今度はロックは風弾の魔法杖ではなく、
王都で購入した水弾の魔法杖を使い、練習を兼ねた威嚇の魔法射撃を行う。
どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!
重い水の塊を撃ち込まれ、当然、賊、ゴブリンは驚き、逃げたが……
索敵を組み合わせたロックの魔法射撃の精度には、ますます磨きがかかっており、
寸分
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