第4話「うふふ、それ大型空間魔法どころか、超が付く大型空間魔法ですよね?」

「クランリーダーからあっさりと戦力外通告を受け、呆然としつつ、ショックと自己嫌悪で失意の日々を送っていましたが、冒険者をやめるにしても、何か仕事をしなければ、暮らしてはいけません。力仕事の雑用でも引き受けようかと冒険者ギルドへ、やって来たら、たまたまロックさんの噂話を聞いたんです」


「ふう」とため息を吐き、グレゴリーは話を続ける。


「自分と同じように戦力外となりながら、腐らず懸命に努力して抜きんでた魔法射撃の才能を覚醒させたと。その話を聞き、俺なんか、こんなにへこんでいるのに、切り替えて、逆境を跳ね返すべく、新たな強みを生み出すなんて、打たれ強いロックさんは凄い! と心の底から思いました」


グレゴリーは、そう言って真っすぐにロックを見た。

憧れと尊敬の嘘偽りのない眼差しである。


何か、決意を秘めた眼差しでもあった。


「ロックさんを励みにしよう! そして自分もこのままじゃダメだと思い直しました。ですが自分ひとりでは全くモチベーションが上がらない。他力本願と言われそうですが、尊敬するロックさんと組み、お役に立ちたい、そして自分が生まれて来たあかしを確かめたい! そう考えればやる気が出ると考え、リディさんへ、ご相談したんです」


ここでリディが「はい!」と挙手し、話し始める。


「グレゴリーさんからお話を聞いた私は、ロックさんとグレゴリーさんをマッチングし、組ませたクランをイメージしました。互いの長所、短所を聞いていましたから、どうなるのかと思い浮かべてみたのです。私の頭の中ですが、出来上がったイメージは、とても素晴らしいものでした!」


柔らかく微笑みリディは話を続ける。


「ここから私の言葉には若干辛辣しんらつな部分もありますが、ご容赦くださいませ」


リディはじっとロックを見つめた。


「プロフ、スタッツ資料、考課表を見て、ご本人からも話をお聞きして、私が思うに、ロックさんは大型空間魔法を習得した稀有な、いえ! 他に見た事がない唯一無二の魔法使いです!」


きっぱりと言い切ったリディには何の迷いも、ためらいも感じられない。


「ロックさんはまず荷物持ちならば充分に務められると私は思います。しかし残念ながら致命的だと指摘された鈍足。または所詮、一種類しか行使出来ない半端者の魔法使いだ。などとさげすまれつつ、結局は総合的に使い勝手が悪い! との不当な理由で、クランラパスからは半年間で、あっさりリリースされました。しかし! それが逆に転機となります!」


目をきらきら輝かせながら、リディは話を続ける。

彼女の興奮が、心の波動がロックへ伝わって来た。

以前、彼女から聞いた生まれて初めてのドキドキわくわく感であろう。


「クランラパスからリリースされたロックさんは逆境を跳ね返すべく、捲土重来を期し、懸命に努力され、風弾の魔法杖射撃を極め、攻撃魔法は使えずとも、究極の人間砲台になれる素晴らしい素材となりました」


き、究極の人間砲台!?

すげえ、言い方!!


「元々、ロックさんはクランラパスから素直な性格と魔物を怖れない勇気、魔法使い特有の勘の良さ、そして様々な学問に通じている博識さに関しては相当高い評価を得ていました。それにこの究極の人間砲台という凄い才能が加わったのです!」


にっこりと笑い、リディはロックを改めて見つめて来る。


「でも! まだまだロックさんはこんなレベルにとどまりません。それに今、ロックさんの隠された可能性、素晴らしい才能に気付いているのは、この私だけだろうと思い、ギルド職員として本当に嬉しかったです」


おいおいおい、辛辣どころか、とんでもなく、ほめ過ぎでしょうと思いつつ、

照れながら、ロックはリディの話を聞いていた。


一息ついて、リディは話しを続ける。


「こんなレベルにとどまらないという理由を具体的にお話しします。ロックさんは乗馬や御者術はまだまだ初心者レベルですが、訓練して魔法杖射撃同様に上達するか、馬に代わる移動手段さえ確保すれば、唯一無二の輸送能力と正確無比な攻撃能力、そして軽快な機動能力を兼ね備えた超が付く異能冒険者となれます!」


はあ!?

超が付く異能冒険者!?


何だ、そりゃ?


リディの話を聞き、ロックはさすがに驚いた。


そんな突飛な代名詞をつけられたのは、生まれて初めてだと。


「私は確信し、断言します!  はっきり言って、ロックさんをリリースしたクランラパスの目は節穴です! ざまあされて、しまったあ! と 絶対に後悔しますよ! まあ、もう遅いんですけどねっ!」


ああ、良くぞ言ってくれました、リディさん。


俺もグレゴリーさんも、前職のクランへ、思い切り、ざまあ! したいんだ。


でも、ここまで来ると、まるでほめ殺しだな。


「唯一無二の輸送能力と正確無比な攻撃能力、そして軽快な機動能力を兼ね備えたロックさんに、元々備わった素直な性格と魔物を怖れない勇気、魔法使い特有の勘の良さ、そして様々な学問に通じている博識さも合わせれば、ランカーになるなど楽勝だと!」


リディは熱く、熱く語り続ける。


「ロックさんが更に成長し、完全体となれば、ゆくゆくは、とんでもないレジェンドな超有能冒険者がこの王都サフィールに現れる、そんな未来がはっきりと見えてしまいました!」


ここでリディは向き直り、じっとグレゴリーを見つめる。


「……わくわくどきどきしながらロックさんの将来を考えていた時に、ちょうど現れたのがグレゴリーさんでした。ロックさんの噂話を聞き、一緒に組みたいと冒険者ギルドを訪れて私へご相談されたのです。グレゴリーさんのプロフを確認したところ、これは創世神様のもたらされた運命のお導き、もしもロックさんと組ませれば、ふたりは最強のペア、いえ、クランに必ずなる最高の相性だと確信致しました!」


リディの話を聞いているうち……

曖昧だったイメージが、ロックにもはっきり見えて来た。

自分のスペックと、グレゴリーのスペックを合わせれば、どうなるかと!


「グレゴリーさん」


「は、はい! 何でしょうか、リディさん!」


「以前もお聞きしましたが、ギルド製の特別な『魔導しょいこ』で、ロックさんをおぶって走るのは可能ですか?」


「は、はい! 自分より身体がいかつければ、さすがにきついですが、ロックさんに実際にお会いしたら、体格的に自分が背負って走るのは全く問題ないと思います! それにアピールさせて頂きますと、走るのは自分の売りのひとつで、自信があります! た、多分、時速30㎞で休みなし4時間で距離120㎞一気くらいは行けます! 時速50㎞の全速力でも休みなし1時間で距離50㎞一気は楽勝かと!」


「ああ! 素晴らしい快足ぶりと持久力です! これで、懸案の移動手段は完全に解決しました。グレゴリーさんの快足と持久力が加われば、完全体への第一歩です! で、ロックさん!」


「は、はいっ!」


「貴方がおぶさって、随時丁寧に分かりやすく指示をすれば、グレゴリーさんの方向音痴はあっさり解決しますよね?」


「はい! 伝え方や合図のやり方など、決め事も含め、訓練は必要だと思いますが、基本的に問題ないと思います」


「成る程! グレゴリーさんの背からの魔法射撃も可能ですよね?」


「はい! 行けると思いますし、訓練を積めば、更に良い結果が出せると思います。現在の最長射程距離は約500mですが、まだまだ、のびると思います」


「ああ、本当に素晴らしい! これで敵襲対応の武装も解決です。確約は出来ませんが、グレゴリーさんのコンタクトスキルも適切な指導を受ければ改善の可能性はあると思います。で、一番大事な話です。以前にもお聞きして、とてもびっくりしましたが、改めてお教えください、ロックさんの大型空間魔法は、どれくらいのキャパがありますか?」


「はい! しっかりと確認した事はありませんが、おおよそで小さな町が丸ごと入るくらいはあると思います。もしかしたらそれ以上かもしれません」


「うふふ、それ大型空間魔法どころか、超が付く大型空間魔法ですよね?」


「は、はい! で、ですね!」


「という事で! このような空間魔法をお使いになる方は、見たどころか、聞いた事もありませんっ! 古代からの歴史をひもといてもですっ! それゆえ!! ロックさんは唯一無二の魔法使いなのですっ!!」


大興奮のリディは、感極まったように言い放った。


し~んとする室内……………


それに気づき、はっとしたリディは、


「し、失礼致しました。私とした事が少々、興奮し過ぎてしまいました」


リディはそう言うと、すっと、いつものクールビューティーな表情へ戻り、


「そろそろお話はクロージングです。ロックさんとグレゴリーさんが正式に組んだら、という条件で、冒険者ギルドから最初の発注を出したいと思います。クライアントは王都のルナール商会。依頼内容は約300㎞離れた町アガットへの空間魔法を行使した商品、食料品、資材等の輸送です」


「お、王都のルナール商会って、この国一番で規模の大きい商会ですよね」


「た、確か、最大手、ですね」


驚くロックとグレゴリー。


とんでもない上客からの依頼である。


「そして報奨金は、おふたりで計金貨200枚200万円です。荷物の無事に、日程短縮等々、ミスなくスムーズに上手く行ったら更にインセンティブもお付けします」


「「え!!?? そんなに!!??」」


更に驚いたロックとグレゴリーの声が重なった。


「うふふ、どうしてこのような高額報酬の依頼を出すのかといえば、まずおふたりなら、この依頼をお任せ出来ると私が信用しているのがひとつ。もうひとつの理由は、アガットまで通常の方法で運べば、大型馬車20台以上を使わなければなりません。つまり雇用した護衛を含めた大勢の商会スタッフを参加させ、大規模な商隊を組まなければならないくらい膨大な荷物量だからです」


「リディさんが自分達ふたりを信用されているのですか!?」


「そうです、ロックさん。双方のプロフとスタッツ資料、そして前所属クランの考課表を何度もじっくりと読み込み、実際にこうして面談も重ねましたし! 私はおふたりを充分信頼に値する方達だと考えておりますよ!」


「自分はいきなり頂けるであろう仕事内容に驚きました! リディさん! 大型馬車が20台以上の荷物なんですか!?」


「はい! グレゴリーさん! 何度も頭の中でシミュレーションをしまして、私は確信致しました! ロックさんの超大型空間魔法を使い、おふたりで隠密裏に移動すれば、この膨大な荷物を目立たず安全に確実にかつ簡単に運ぶ事が可能だと」


確かにリディの言う通りだとロックとグレゴリーは納得。


更にリディは一気に言い放つ。


「また人間、馬車、馬の確保に、道中の水と食料その他の莫大なコストを考えたら、おふたりへの報奨金、金貨200枚とインセンティブを合わせてお支払いしても充分にペイ出来ます。ここまで言えば、もうお分かりでしょうが、まともに商隊を手配、運用するコスト、手間と金貨200枚は全く比べ物にならないのです。それと多分ですが、グレゴリーさんの超快足と底なしの持久力ならば、輸送時間も大幅に短縮出来るのでは?」


「確かにそうだ!」と再び納得して無言で頷き合う、ロックとグレゴリー。


「この場でご返事をくださいと無理は申しません。場所を変え、おふたりで改めてお話し合いをされ、明日以降に、私リディ宛、ギルドへご返事を頂ければ結構です」


リディはそう言い、珍しくも、満面の笑みを浮かべ、話し合いを閉めたのである。

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無能!とリリースされた俺が覚醒! 異能冒険者達を束ね、成り上がり、最強超有能クランを作り上げる! 東導 号 @todogo

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