第3話「これが彼グレゴリーさんの致命的な欠点か!」

結局、リディ立ち合いのもと、冒険者ギルド小会議室で、

自分と組みたいという相手のプロフィールを確認。

ロックは直接会って、話をし、組むか断るか、返事をする事にした。


その翌日には早速、リディから自宅へ魔法鳩便で連絡が来た。


「明日午前11時、組みたいと申し入れがあった冒険者と会うセッティングが出来た」と。


と、いう事で更にその翌日。


「はあ、緊張するなあ」


ひとり言をつぶやき、ロックは自宅アパートを出た。


リディ作成のプロフィールによれば、本日会う冒険者は、

自分より2歳年上の20歳、身長2mを超えるガチムチの大男。

身元はしっかりしているとリディが言っていた通り、何と何と騎士爵家の子弟。


名前は、グレゴリー・バルト。

いかにも強そうな名前である。


役職は一応戦士。

騎士爵家の子弟なのに何故か剣や槍は使わず、

武器は打撃系のメイス、こん棒をぶんぶんと振り回す。

もしかして刃物が嫌いなのだろうか?

などと考えてみたりする。


また、コンタクトスキルに難はあるが、当たれば破壊力は抜群との事。

身体は凄く頑丈で、パワー、持久力は底なしだとか。

う~む、失礼な言い方をすれば、脳キンタイプか。


でもというか、意外なのは個人的な意見で例外もあるのだが、

大男に似合わない俊敏さ、そして快足を併せ持つ事。


まあ、スペックを見た限り、確かにリディの言う通り、

快足を始め、武力など、自分の欠点を補ってくれる相手だろうという予感はある。


ただ、グレゴリーには現状で目立った戦績はほとんどない。

こちらも何か理由があるのかもしれない。


まあ、まだ20歳だし、『これから』といった感じ。

実績のない18歳の自分も人の事は言えないが。


しかし、リディの言う錬金術に例えた化学反応って一体何だろう。

化学反応って、素材と素材が融合し、特異な変化をし、

他の物質に変わるという事か。


人間が変化するって事?


弱点を補い合うっていうのは何となく理解出来るけど、その先に何かあるって事か?


リディは敢えてなのか、相手の致命的欠点を、はっきりと明かしてはくれなかった。


果たして、グレゴリーの致命的な欠点とは何だろうか?


気にはなる。


多分明かしてしまうと、会う事をロックが断ると考えたに違いない。


まあ、会えば分かるだろうし、問題はないとロックは思う。


まずは会うだけでOKだと、リディも言ってくれたから。


折り合わねば、断ってくれて全然構わないと。


それに自分のプロフもグレゴリーに見られ、あれこれとチェックされているはず。


しかし、こうして初対面の相手と会うのは自分が面接官になった気分である。

いつも応募者の立場だったから、新鮮と言えなくもない。


そんなこんなを、つらつら考えながら歩き、

やがてロックは冒険者ギルドへ到着した。


受付に話を入れると、既にグレゴリーは既に来ており、

リディとともに小会議室で待っているという。

そして何と、リディの上司である業務部の部長も一緒との事。


何故、部長が同席?

ランクEとランクEのマッチングごときに?


気にはなったが、麗しきリディとガチムチ大男が、

個室でふたりきりにならないと思い、何故か、安堵した。


ロックは本館に入り、受付の職員に案内され、2階の小会議室へ。


案内した受付の職員が軽くノックをし、扉を開けると、

中には、リディとガチムチの大男、

そして業務部部長らしいダンディな中年男性が待っていた。


すかさずロックは声を張り上げる。


「おはようございます! お疲れ様です! ロック・プロストです! 失礼します!」


反応し、返事を戻したのは、意外にもダンディ業務部部長である。


「おお、おはよう! ロック君とは初めましてだな。今日は私も同席する事となった。業務部部長のアルフォンス・ボドワンだ。宜しく頼む」


にっこり笑ったアルフォンスは、「さあ、入ってくれ」

と入室を促したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


上座のソファに、リディとともにロックは座るよう指示され、


対面のソファにはグレゴリーが、

そして真横の椅子にはアルフォンスが座るという図式。


ロックがチラ見すれば、ガチムチのグレゴリーは肩幅が大きく、

革鎧の上から分かるくらい筋骨隆々。


こざっぱりした栗色の短髪で顔立ちはりりしく、

想像していたよりも真面目で素直そうな雰囲気。

礼儀正しい姿勢で、おとなしく座っていた。

後は、どんな口ぶりで話すのか、気になる。


でも、やばそうな奴ではなく、良かった!と安堵するロック。


信じてないわけではなかったが……リディの言った事は本当だった。


とりあえずグレゴリーへのファーストインプレッションは『好印象』で合格。


アルフォンソが言う。


「ではここから、担当のリディさんに仕切って貰おう。リディさん、宜しくな」


「はい! かしこまりました、部長!」


と笑顔で返事をしたリディは、すぐに話し始める。


「改めまして! 今回のマッチングを担当するリディ・ブランシュでございます。双方のご了解を頂き、プロフィール資料にはお互いに目を通して頂いております。まずは改めて自己紹介から、座ったままで構いませんので、お願いしますね。まずはロックさんから」


「は、はい! 初めまして、ロック・プロスト18歳です。魔法使いでギルドのランクはEで、現在は無所属です」


続いてグレゴリーが、


「は、初めまして! グレゴリー・バルト20歳です! 戦士でランクはEで、現在は無所属です!」


「はい、自己紹介が終わりましたね。ではプロフでお互いの理解は済んでいると思いますので、今回はグレゴリーさんからのご希望がありましたから、ロックさんと組みたいと考えた理由をお話しください。ご自分の口からゆっくりと話してくださいね」


「は、はい! じ、自分は前職のクランリーダーから、でくの坊のお前は力と足にしか、能がない。それらも全く活かせず無駄にしていて本当に使えない。まともに戦えない方向音痴の戦士は役立たずで冒険者には不適格、戦力外だと言われ、あっさり首となりました」


おお、あいつの居たクランのクランリーダーも容赦なく酷い言い方をしやがる!

俺と全く同じパターンだ。


そう思いながら、ロックはグレゴリーの話を聞き続ける。


「確かに自分にはそこそこ力がありますが、残念ながらメイスを振っても敵にはなかなか当たりません。当たれば一撃必殺のクリティカルヒットなのですが、良くてかするか、大体が空振りでダメージをろくに与えられないんです」


え!?

そういう必殺の攻撃技、どこかで聞いたような見たような……

すかっ!すかっ! という空振りの音が連続して聞こえるような?

たま~に当たると大ダメージって、か。


「そして自慢の速い足を使っての伝令、偵察を命じられても方向音痴のせいか、右往左往してしまい、情けない事に目的地にさえ、たどりつけないんです」


うへえ!

とロックは心の中で唸ってしまった。


どこかで聞いたような見たような必殺の攻撃技……そうそう!思い出した!

敢えて名称を言うのは避けるが、

『万が一当たればクリティカルヒット的な、まぐれ当たりの必殺技』

みたいなコンタクトスキルの欠如と、壊滅的な方向音痴、

これが彼グレゴリーさんの致命的な欠点か!


満足に戦えないと、戦士失格の烙印を押されてしまうし、

自慢の足を使っても役に立たないのなら、お前は不要だと言われてしまうんだな。


でも、折角のパワーを活かせるよう、

コンタクトスキルの欠点を修正、改善する指導、

方向音痴をサポートする手立てはなかったのか?


それに身体は大柄で凄く頑丈そうだから『盾役』とかで、

活躍出来なかったのだろうか?


そんないくつもの疑問が湧いたのだが……


悔しそうに唇を嚙み締めるグレゴリーを見て、

俺も冒険者として不適格、適性がないと散々言われ、ろくな指導も無く、

失格の烙印を押され、あっさり放り出されたと、記憶が甦り……

ロックは初めて会うグレゴリーに対し、とても親近感が生まれたのである。

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