第2話「ここまで立て板に水、きっぱり言い切ったリディに、ロックは圧倒される」
リディからの話の後も、
ロックへのオファーは相変わらず皆無であった。
それゆえロックは、ぼっち、
否! クラン無所属のソロプレイヤーとしてやって行く覚悟を決め、
襲う敵から身を守る自己防衛の為、毎日、魔法杖で風弾を何百発も撃ち、
的へ当てる訓練にいそしんだ。
大型空間魔法以外の魔法を使えないロックではあったが……
どうやら風弾射撃の才能はあったようである。
さすがに最初は10回に1回、2回しか、的に当たらなかったが……
……1週間続けるうちに、それが10回に3回、4回、5回と上達して行き、
遂には100発100中とまでになったのである。
「おお、す、すげえ!」
自己防衛の役に立てば、くらいに考え、
貴重なお金を結構使って受けた訓練ではあったが、
素晴らしい結果を得る事が出来た。
魔法杖の利点は、通常の魔法発動と異なり、
詠唱、予備動作を要さず、間を置かずに連続して撃てる事である。
さてさて!
この魔法杖は中レベルの風弾を100発撃つと、魔力の充填が必要となる。
風弾100発分の魔力消費量をひとりで補うのは、一般的な魔法使いには厳しいものがある。
下手をすれば魔力切れを起こし、身体機能が停止してしまう……
だが、ラパスのクランリーダーの言う通り、
大型空間魔法を習得したロックの体内魔力はたっぷりで、一般魔法使いの約5倍。
中レベルの風弾100発分を充填しても体内魔力の約20%が減るだけだ。
当然、魔力切れは起こさないし、活動に何の支障もない。
だからこそ、ラパスは結構な契約金を支払ってでも、他の魔法を使えたら凄いとか、
未知の『のびしろ』があるとか、大きな期待を込め、ロックを雇ったのだ。
残念ながら、その期待は大外れで終わってしまったが……
さてさて!
魔力充填の練習もロックは何回も行い、結果、弾切れからわずか30秒かからずに、
満タンにする事が可能となった。
これで、万が一弾切れとなっても、あまり間を置かず、再び撃つ事が出来るし、
数多の敵が現れても、対処が可能となり、極めて安心だ。
そんなロックを見て、訓練場の教官がアドバイスをくれる。
「おい、ロック」
「はい! 何でしょうか、教官!」
「見るところ魔力の充填も完璧だな! ただ構えはこうした方が更に良い」
「ありがとうございます」
「でも凄いな、お前。魔法杖射撃を始めて間もないくせに、走りながらの射撃も完璧にこなし、的中率100%のパーフェクトじゃないか」
「ですね!」
「お前にこんな隠れた才能があったとはな。俺が教える事はもう何もない。卒業だ」
「ですか。ここまで上手くなるとは思いませんでしたが」
ロックが謙遜してそう言えば、教官は面白そうに笑う。
「ははははは! 謙遜するな! 自信を持って、大いに誇れ! お前は射撃手として素晴らしい腕前だ。魔法と弓矢の違いはあるが、上級アーチャー顔負けだぞ!」
「重ね重ね、ありがとうございます。そこまでお褒め頂き、素直に嬉しいです!」
「おお、そうか! そうか! こんなお前を戦力外のリリースなんて! クランラパスも馬鹿で愚かな判断を下したもんだ!」
「ですか!」
「おお! この様子を見れば、どこかのクランが必ずお前へオファーを出すと思うぞ。俺もあちこちで宣伝しておいてやる」
「そ、そうですか! 本当に重ね重ね、ありがとうございます!」
「うむ! 聞いたところによると、残念ながら、お前は鈍足だそうだから、馬車に乗った商会の護衛ならすぐに務まるだろう」
「ですか!」
「だがな、冒険者としていろいろな依頼を遂行するのなら、馬に乗れた方が絶対に良い。その射撃の腕前で馬に乗れば、機動力抜群な射撃手として、下手な騎士より強くなれる。馬上で撃つ訓練は当然、必要になるがな」
「いえ、俺、馬上で撃つ訓練以前のレベルで、馬自体に乗れないっす」
「え? おいおい、どうしてだ?」
「はい、クランラパス在籍時に試したんですが、俺、どうやら馬に馬鹿にされているようで、またがったら馬がてこでも動かないんです」
「なんだ、そうか! 馬が怖いとかじゃないんだな」
「はい、馬は勿論、魔物も全然平気っす」
「そうか! でも惜しいよ。練習すれば、馬に乗れるようになるかもしれない。この射撃訓練同様、ギルドでは有償で行っているし、乗馬の訓練は絶対に受けた方が良いぞ」
「はい! アドバイス、ありがとうございます」
「乗馬をマスターしたら、馬上魔法射撃の訓練を受けろよ。そしてどうしても乗馬がマスター出来ない場合も考えて、御者の訓練も受けておけ」
「了解っす!」
放任主義だったラパスのクランリーダーとは違い、
訓練場の教官は親切にいろいろアドバイスしてくれた。
またロックの射撃の腕前を宣伝してくれるともいう。
とても嬉しくなったロックは教官の言葉を素直に聞き入れ、
翌日、まずは乗馬を、そして御者の訓練も受けたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、数日間、乗馬と御者の訓練は受けたが……
さすがに期待した展開にはならず、魔法杖の射撃ほど上達はしなかった。
しかし、不思議な事にクランラパスの馬と違い、
ギルドの馬は従順?だったのか、全く動かないという事はなかった。
それゆえロックはまず、馬の動きを体で覚え、教官から教わった通りに指示を出し、
試行錯誤しながらも馬へ指示が通るようになり、
結果、常歩をなんとかこなせるようになったのである。
次は速足へ挑みたいと思う。
また御者の訓練も、先に受けた乗馬の訓練により、
馬に慣れたせいか、意思疎通が出来るようになったので、
こちらも何とか、初級のレベルに達する事が出来た。
馬は全くダメという状況が改善されたので、
ロックが大喜びしたのは言うまでもなかった。
そんなこんなで、講習費用により、
お金はだいぶ減ってしまったが……いわばこれらは必要経費。
未来への手ごたえを感じ、気持ちも軽やかになり、
訓練が終わった午後3時過ぎ、ロックが冒険者ギルドを出ようとしていた時……
久々にロビーで、金髪碧眼のすらりとしたスタイルも抜群な美女、
業務担当職員リディ・ブランシュから呼び止められる。
「あの、ロックさん」
相変わらず淡々とした口調なのだが、
女子から声をかけられる事に慣れていないロック。
思わず声がうわずってしまう。
「は、はいっ! な、なんでしょう! リディさん!」
「本日はもうお帰りですか? この後、何かご用事でも?」
「い、いえ! 何もありませんっ! ず~っと
もしかしたらデートのお誘い!?
……なんて、都合の良い妄想が
「お話があります」と、
ロックが、リディに連れて行かれたのは、いつもの1階業務カウンター。
ひどく、がっかりするロックだが、そんな事あるわけないだろ!
と非難ごうごうの突っ込みを受けそうなリアクションである。
残念?だが、絶対に仕事の話であろう。
ちなみに毎日午後4時から、午後7時まで、
支払われる報奨金を受け取りに来る『ラッシュ』の時間外なので、
業務カウンター付近の人影はまばらである。
「座って、お話ししましょう」
と、リディから椅子を勧められ、
「はい、失礼します。お話をお聞きします」
とロックが着席し、返事を戻すと、
「早速ですが、お話というのはご相談です」
「話が、ご相談、俺へ? ですか?」
「はい、実はロックさんと組みたいという冒険者が、おひとりいらっしゃいまして」
「えええ!!?? お、俺と組みたいって!!?? ほ、本当ですかあ!!??」
「はい、本当です。魔法射撃担当の教官から話が回り回って、現在、ロックさんの事が冒険者の間で噂になっています。それを聞きつけたのか、当ギルド所属の冒険者で、同じランクEの方から、ぜひロックさんにお会いしたいと申し入れがあったのです」
「そう、ですか……」
「お会いしたいという理由は、ロックさんと一緒に組みたいからだと」
「な、成る程」
稀有な大型空間魔法が使え、魔法射撃も上手くなった。
ロックはそれを『自分の武器』として、
どこかのクランへ再就職するつもりであった。
それが自分と組みたいという冒険者が現れたのだ。
正直、とても驚いた。
完全に想定外、青天の
「男性ですか? まさかの女性ですか?」
勢い込んで尋ねるロックだが、リディは淡々と返して来る。
「はい、ガチムチの筋骨隆々で大柄な男性です。ロックさんより2歳年上の20歳の方です」
「うお!? ガチムチの筋骨隆々で大柄な男性!?」
「はい、一見いかつい方でしたが、私のファーストインプレッションは好印象。身なりはこざっぱりしていて、話せば礼儀正しく真面目な方で、言葉遣いも丁寧でした。ちなみにプロフィールチェックは、ギルドのデータベースを使い、既に私の方で行った上、その場でその方と簡易な面接を行い、いくつか質疑応答を致しました」
「な、成る程」
「その方との面接終了後、プロフィールは面接の質疑応答の結果を加え、新たに資料として、私がまとめておきました。その後、改めて身分照会も致しましたが、データベースの記録には変更部分はなし、現在は冒険者ですが身元もしっかりしていますし、犯罪歴は当然無しの方ですよ」
「そ、そうですか」
「どうされます? まず私の作成したプロフィール資料をご覧になりますか? 先様のご了解は頂いております」
「そうですか。はっきり言って、迷っています」
「迷いますか?」
「はい、ランクE冒険者の俺が、同じランクEの方と組んでも、正直今更というか、クランとして、どうなのかという疑問もありますし。待っていれば、どこかのクランから獲得オファーがあるやもしれませんし……」
迷うロックをじっと見つめていたリディだが、意を決したように口を開く。
「そうですか。では、ロックさんへ私リディ・ブランシュ、個人の意見を申し上げても構いませんか?」
リディの静かな口調に、得体の知れない迫力を感じ、ロックは言葉がうわずった。
「は、はい! お、お願いします!」
「通常は自分より格上、ランクB以上、つまりランカー以上の方が率いるクランへ入隊し、様々な依頼を遂行。自分の経験値を積みながら、お金を稼ぐというのが冒険者のセオリーです」
「た、確かに!」
「ですが、ロックさんは大型空間魔法のみに特化したイレギュラーな魔法使いです。
貴重な荷物持ちとしてクランラパスに入隊しましたが、様々な原因の為、リリース。その後、天賦の才を発揮して、魔法杖射撃の達人となり、ますますイレギュラーな存在となりました」
「俺が、ますますイレギュラーな存在になったの、ですか……」
「はい、ただ冒険者クランの荷物持ちとしては、足が極めて遅いという致命的な欠点がロックさんにはおありです。何故致命的かと言えば、通常の荷物持ちに比べ、冒険者クランの荷物持ちは、外敵に襲われるケースが非常に多く、逃げ切る為に、快足さを求められるからです」
「う、うぐ! はっきりと言いますね。確かに……俺はとても足が遅いです」
「はい、ギルドのデータベースにしっかりと記録されている事実ですから。ですが気に病む事はありません。ロックさんとの共闘を希望されている先様も致命的な欠点をお持ちなのです」
「え!? その人にも致命的な欠点が!?」
「そうです。ですがもしもその方と組めば、ロックさんとその方は錬金術で言う融合して化学反応を起こすと思います」
「え!? 錬金術で言う融合して化学反応を起こすのですか?」
「はい、化学反応が起きれば、双方の致命的な欠点が補われるどころか、相乗効果も生まれ、ふたりの存在価値は格段に上がり、結果、とても素晴らしいクランになるのではという予感が、私には致します」
「な、成る程! 俺がその方と組めば、とても素晴らしいクランになるのではという予感がですか!」
「はい、私、それを想像して大変わくわくどきどきしています。こんな気持ち、ギルドの職員になって、生まれて初めてなんです」
これまでに経験した事のない感情の高まりが生じたと、
リディは相変わらず淡々と告げた。
驚いたロックはまたも声がうわずる。
「え!? 生まれて初めて、の気持ちですか?」
「はい、但し念の為申し上げますが、所詮予感なので、確約は出来ません。それでも私の話を聞き、ご興味がわきましたら、ギルドの小会議室をお貸ししますので、私が立ち合いのもと、その方のプロフィールをご確認ください。。何故ならこういった資料のギルド外への持ち出しは厳禁ですので。ちなみにロックさんの質疑応答にもその場で応じます」
淡々とした口調は変わらないが、ここまで立て板に水、
きっぱり言い切ったリディに、ロックは圧倒される。
加えてリディの言う『予感』にも大いに興味がわき、淡い期待も生じたから、
その冒険者に、とりあえず会おうと決めた。
「わ、分かりました。リディさんが作ったプロフィール資料を拝見します!」
「かしこまりました、ロックさん。もし資料をご覧の上、ご了解を頂けたら、先様にお会いすべく、双方の時間を調整し、すぐにアポイントをお取りし、会見をセッティング致しましょう」
何と何と何と!
いつもはクールなリディはそう言うと、心から嬉しそうに柔らかく微笑み、
ゆっくりとロックへ一礼したのである。
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