無能と呼ばれた俺が思いもよらず超覚醒!異能冒険者達と組み、成り上がる話!

東導 号

第1話「ダメ出しの更にダメ出し」

とある大陸にあるプラティヌ王国、

王都サフィールのとある家の一室。


ここは冒険者クラン、ラパスのリーダーを務める男の自宅である。


応接室では、30代半ばくらいの革鎧姿のたくましい男と、

20歳前の男子がそれぞれソファに座り、向かい合っていた。


どうやら革鎧姿の男がこの家のあるじで、ラパスのクランリーダー。


対面に座った20歳前の法衣ローブ姿の中肉中背の男子は、

茶髪の短髪で、彫りの浅いすっきり顔、且つ、おとなしそうな雰囲気。

男子はラパスのメンバーで、魔法使いらしい。


「ふう」と息を吐き、クランリーダーが言う。


「ロック・プロスト君! 半年間、ウチのクランで働いて貰った結果、残念ながら、メンバー全員の意見は一致した。俺の評価も含め、君は戦力外と決定したんだ。ウチのクランでは使えないとね」


「そ、そうですか……」


「扱いとしては自由契約にしたから、君が、どこのクランと契約しようと構わないよ」


クランリーダーがきっぱりと告げたのは戦力外、自由契約通告。


対して、ロック・プロストと呼ばれた法衣姿の男子は言葉少な。


「ですか……」


「ああ、稀少な大型空間魔法が使える、魔法学校卒業の博識な魔法使いだからという売り込みで、結構な契約金を支払い、君を雇ってはみたが、はっきり言って、期待外れだった」


「うぐぐ……はっきり言って、俺は期待外れ、ですか」


「ああ、持てる知識は相当なものだが、荷物持ちオンリーにしては体力がなく、すぐにバテる。鈍足で馬にも乗れないし、御者も未経験だから、魔物や肉食獣からは逃げきれない」


「…………………………………………」


「仲間として、メンバーの事は出来る限り守る。それはあくまでも理想だ。現実的に守り切れない場合が多々ある。それゆえ結局、自分の身は自分自身で守る、突き詰めれば安全は自己責任というのが当クランのモットーなんだ」


「…………………………………………」


「荷物持ちのロック君がそのあまりの体力の無さからダウンしたり、鈍足ゆえに逃げ遅れ、もし殺されたり、捕まれば、クランが苦労しゲットした現金やお宝は全てパーだ」


「…………………………………………」


「先ほども言ったが、クランメンバー全員が懸念し、意見は一致した。仲間として守るのも限界があると。つまり君は、はっきり言って当クランにとって足手まといだ」


「…………………………………………」


「冷たいようだが、メンバー達の意見にリーダーの俺も同意した。クランリーダーとして、そんなリスクを承知で君を使えやしない」


「…………………………………………」


「何か、反論する事はあるかい? ロック君」


「な、何もありません!」


「そうか……」


「お、お言葉は、た、大変厳しいですが、た、確かにおっしゃる通りですから……」


「だろう? 更に言えば、君は治癒魔法、状態異常緩和、解除の魔法を使えないから回復役は務まらない。モチベーションアップ、状態向上の魔法も使えないから、後方支援役もダメ」


「です、ね……」


「魔法使いだから、戦士などと比べ、体力、膂力りょりょくがないのは理解出来る。だが、攻防の魔法は勿論、剣も格闘も使えないから、魔物や肉食獣どころか、人間の賊とも戦えず、戦闘役は到底無理。自身を守るのさえも辛いのはいかがなものか、だろう?」


「で、です……」


「魔法使いとして、勘が鋭いのはプラス材料だが、動作が緩慢で鈍足だから、器用さ、素早さ、快足さを求められるシーフ職にも不向き、つまり君はどの役職も不適格。冒険者には全く不向き、資質、適性が全くない」


「はああ……ダメ出しの更にダメ出しって事ですね」


「ああ、そうだ、あくまで冒険者としての資質、適性はな」


「…………………………………………」


「ロック君にこのような話をしたのは、冒険者ギルドの規約で、リリースの際は本人への説明が必須。だから、厳しい言い方だが敢えて告げた。以上の理由から君はリリースなんだ」


「よ、よく、わ、分かりました……」


「うむ、納得してくれたか……申し訳ないが、既に君の代わりとなる、他の冒険者の獲得調査を進めている」


「そうですか……」


「うむ、俺の個人的な意見で忠告だが、ロック君は性格が素直で真面目。おとなしい外見からは信じられないくらい勇気があり豪胆。魔物を怖がらず、肝がすわっている。更に言えば魔法は勿論、雑学に至るまで様々な知識が豊富だし、労を惜しまない努力家だ。まだ18歳だし、やり直しはいくらでもきく」


一転して、ほめ殺し。

それがクランリーダーの巧みな話術であろう。


「は、はい!」


「どこぞの商人にでも雇って貰えばいい。商隊の馬車に乗って行けば、『勘が鋭い物知りな荷物持ち』として充分やれるだろうよ」


「俺が紹介しよう」と、クランリーダーが言わないのは、

はっきり言って面倒なのと、今後やりにくくなるからに違いない。


まあ良いやと思いつつ、ロックは肯定し、礼を言う。


「かもしれませんね。お気遣い頂きありがとうございます」


「うむ、そうやって地道に稼ぐ方が君には絶対に良い。冒険者になって一発お宝ゲットしてひと山当てるとか、ガンガン稼ごうとかは、やめておいた方が賢明だ」


「は、はい。いろいろアドバイスして頂き、ありがとうございます。除隊させて頂きます。自分の今後の事はじっくり考えます」


ロックがごねず、素直に除隊を受け入れたから、クランリーダーは上機嫌となる。


「だな! ただ半年間、命がけで頑張ってくれたから、君の努力に免じ、風弾が撃てるこの魔法杖を退職金代わりに進呈しよう。護身用にはもってこいだし、売ればそこそこの値はつく。君は体内魔力量だけはたっぷりあるから、弾切れの心配はなく、いくらでも補填ほてん出来るだろうよ」


笑顔のクランリーダーはそう言い、一本の魔法杖を渡した。


この魔法杖は、ロックにも見覚えがある。


ゴブリンは一発で吹っ飛ぶし、オークにも結構なダメージを与える事が可能な、

中レベルの風弾が連続で100発撃てる魔法杖である。


少し前、クランが迷宮内で得たものなのだ。


こうやってケアする事で、首にしたクランの悪口を防ぐという、

クランリーダーの意図であろう。


「は、はい! た、助かります! ありがとうございます!」


どんな思惑があろうと、ここで貰えるものは貰っておいた方が良い。


ロックはそう考え、ありがたく押し頂いた。


「まあ命を大切にし、達者で暮らせよ!」


「はい! 半年間、とてもお世話になりました。クランリーダーもお元気で!」


……こうして、18歳の空間魔法使い冒険者ロック・プロストは、

使い勝手が悪いと一方的に、入隊後たった半年間でリリースされ、

『自由契約』の身となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


3年前に15歳で、両親と死別したロックは現在18歳。

王都サフィールの小さな長屋――古いアパートでひとり暮らしである。


亡くなった両親の遺産を学費に充て、

幸いにも通学中だった寄宿舎制の魔法学校は卒業出来た。


しかし、魔法学校を卒業した天涯孤独18歳のロックは、

ひとりで住むには広すぎる思い出深い自宅を考えに考え抜いた末、涙を呑んで売却。

その売却費で当座の生活費等を捻出し、憧れていた冒険者への道を選んだ。


そして『大型空間魔法を使える博識な魔法使い』を売りとして、

クランラパスと契約したのである。


堅実なロックは決して無駄遣いをせず、極めて質素につつましく暮らしていた。

なので、新生活の支度に必要だった経費を使った自宅売却費の残金は勿論、

冒険者となって受け取った契約金、給金もしっかりと貯金している。


ちなみに冒険者ギルドのミスリル製所属登録証は、

銀行機能をも持つギルドへプールしたお金を魔力で引き出せるようになっており、

数多の提携店では買い物が利用可能となっていた。


……という事でロックは当座の生活に心配はないが、

いつまでも貯えがもつわけもなく、

無職のままのんべんだらりともしていられない。


リリースされたその日、早速ロックは冒険者ギルド業務部へ赴き、

メンバー募集をかけているクラン全てへエントリーを伝えた。


しかし、結果は惨憺さんたんたるものであった。


前所属クランの戦績、貢献度を鑑みて、見込みありという事であれば、

オファー出しているクランの面接、実技試験、入隊交渉へと進む。


なのに、数日待っても、面接の誘いさえ、皆無なのだ。


所属していたクランにおける低評価がちまたで知れ渡っているらしいと、

ギルドの業務担当職員からは告げられた。


業務担当職員は20代半ばであろう顔立ち端麗な金髪碧眼のクールビューティー。

彼女の名前は、リディ・ブランシュ。


『リディさん、独身ならば、さぞかしもてるだろうなあ』

と思うロックへ、リディが話しかけて来る。


淡々とした、事務的な口調だ。


「お疲れ様です、ロック・プロストさん。この度は結構な数のメンバー募集中のクランへエントリーしましたが、オファーが全くなく、残念でした」


「な、成る程。残念ですが、いろいろとご尽力頂きありがとうございます」


「いえ、仕事ですから、ご尽力なんて、当然の対応です。ロックさんは大型空間魔法を使えますから、冒険者ランクは初心者、駆け出しのFではなく、かろうじてEですね」


「かろうじて、Eですか」


「はい、ですけど……魔法使いの無所属ぼっち、いえ仲間が居ないソロプレイヤーですし、ギルドのデータベースに記録されたスペックやスタッツを拝見して考えますと、クランで受ける通常の依頼遂行は厳しそうですね。ギルドの掲示板へ掲出されたFランク向けの雑用依頼なら受諾は大丈夫だと思いますけど……お使いとか、お買い物とか、お掃除とか、犬のお散歩とか、ですね」


「はあ……ですか」


「はい、山林や原野での鉱石、薬草採集とかもありますが、採集中に魔物や肉食獣、人間の賊等の脅威がありますから、戦闘に不向きなロックさんには護衛が絶対に必要となります。そうなると報奨金以上、必要経費が生じてしまいますから、赤字になっては仕事を行う意味がないと思います」


「ええっと、護衛に関しては大丈夫です。風弾の魔法杖を所持していますから、それで自衛して対処します」


「成る程。ですが未経験でいきなり風弾の魔法杖を使うのは厳しいと思いますから、ギルドの訓練場で充分に練習しておいた方が宜しいと思います」


「確かにそうですね。リディさん、アドバイス、ありがとうございます。早速、今日にでも練習をしておきます」


「どういたしまして。それが賢明ですね。風弾の射撃が上手くなりましたら、改めてご相談の上、鉱石、薬草採集を含め、ギルドから何らかの依頼を出しましょう」


「ありがとうございます。助かります」


「いえ、これから大変でしょうけど、頑張ってください、ロックさん」


「はい! 頑張ります!」


という事で……

最初から最後まで淡々としたリディから、

『事務的』に励まされたロックは、ギルドの射撃訓練場へ。


使用料を支払い、魔法杖で風弾を撃ち、たっぷりと訓練を積んだのである。

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