第5話「クランステイゴールド誕生」

「この場でご返事をくださいと無理は申しません。場所を変え、おふたりで改めてお話し合いをされ、明日以降に、私リディ宛、ギルドへご返事を頂ければ結構です」


リディはそう言い、話し合いを閉めた。


……という事で、ロックとグレゴリーは、連れ立って冒険者ギルドを出る。


改めてグレゴリーを見れば……

みかけこそガチムチの革鎧姿で、全体の雰囲気はいかつい。


だが、リディが告げた通り、こざっぱりした栗色短髪のグレゴリーはりりしく、

礼儀正しい真面目な男子。


実際にロックが会っても、ファーストインプレッションは悪くなかったし、

同じような境遇の者同士、気持ちも良く分かるし、

リディの熱い熱い言葉、きっちりしたロジックには大いに納得し、後押しもされた。


それゆえ、ふたりとも、気分は超あげあげ!

モチベーションは著しくアップし、やる気に満ちていた。


加えて、この相手と組めば、冒険者ギルド経由で最大手のルナール商会からは、

報奨金が何と金貨200枚、ひとり金貨100枚の高額依頼がすぐ受諾出来ると聞き、

ふたりは大喜びもしている。


「この人と組んでみようか、ダダ下がりだった自分の人生が上手く行くかも」

と心の内で前向きに思いながらも、

「念の為に、直接コミュニケーションを取り合おう」と意見が一致したのだ。


そんなこんなで、現在の時間は昼の12時過ぎ……

ふたりで昼飯を兼ね、気楽に話そうという事で、

近くの居酒屋ビストロへイン!


まずは、対面を祝し、エールで乾杯。

プラティヌ王国においては、18歳からが成人で飲酒もOK!

問題はナッシングだ。


「改めまして! グレゴリーさん! 今後とも宜しくお願い致します」


乾杯後、ロックがそう言うと、グレゴリーはひどく恐縮。


「そ、そんな! ロックさんはリディさんが言ったように、本当に本当に凄い人なんです! 俺ごときに、さん付けなんて!」


しかし、ロックは相手が年上の事もあり、


「いえ、そんな事はありません。俺はまだまだ発展途上の未熟者です。それにグレゴリーさんは俺より2歳も年上の20歳じゃないですか。さん付けで呼ぶのは当たり前ですよ」


「で、でも……俺が無理やりお願いしてロックさんと組ませて貰うのに」


「いえいえ、俺はそんな偉そうな立場じゃないです」


「でも……ロックさんには凄い才能があるし、評判通りの魔法射撃の腕があれば、どこかのクランからすぐにオファーがあるかもしれませんし……俺ごときがお誘いしてご迷惑でしたよね」


「いえ、まだどこからもオファーが無い中、グレゴリーさんが、一番最初に声をかけてくれたのです。凄く嬉しかったですよ」


「ロックさん……」


「じゃあ、呼び方に関しては俺から提案です。お互いに、さん付けで呼びましょう。それから、俺ごときとか、何かにつけて自分を卑下するのはもうやめましょう」


「で、ですが……俺、本当に自分に自信が無くて……」


こうして自分を下へ、下へと言うのもロックには気持ちが良く分かる。


何かにつけ、お前はダメな奴だと言われたに違いない。

自分もそうだったから。


「いえいえ! 俺から見れば、グレゴリーさんには凄い才能があります。身体は頑丈だし、力とか足の速さとか、持久力とか、俺に無いものをたくさん持っていますよ」


「ロックさん……」


「それに俺達、まだまだ若いんです。発展途上で、のびしろ充分! どれだけ成長出来るか楽しみじゃないですか! 人生、これからですよ!」


「どれだけ成長出来るか楽しみ、人生これから、ですか!」


「はい! リディさんがわざわざマッチングしてくれて、お会いしたのも何かの縁です。とりあえずこの店で楽しくやりましょう!」


「は、はい! では改めまして! ロックさん! 今後とも宜しくお願い致します!」


そこからふたりは、所属していたクランをやめた『くだり』を話し合った。


「……魔法杖を退職金代わりにくれた事だけは、前所属のクランに感謝しています。魔法射撃訓練をして自信がついたし、こうしてグレゴリーさんとも知り合えた。ですが、たった半年間で戦力外を告げたクランリーダーからは期待外れだったとか、足手まといだとか、冒険者として全く不向き、資質、適性がないとか等々、散々、きつい事を言われました」


「うわ、ロックさんも結構言われましたね」


「はい、俺がクランラパスから契約金、給金を受け取りながら、実力が無かったせいで相手が期待した働きが出来なかったのは自覚していますし、とても申し訳ないと思っています。でもメンバーから普段ぞんざいに扱われたし、クランリーダーからは、ストレート過ぎる酷い事を言われ、全く言い返せず、納得させられ、自分自身にも腹が立つし、本当に悔しいんです」


「成る程。俺もロックさんと似たようなものです。先ほどギルドでお話ししたのは、ほんの一部です。解雇された時は、自分の欠点を散々けなされ、ありとあらゆる酷い罵詈雑言を浴びました」


「やっぱりそうでしたか」


「はい! 俺は前のクランには2年弱居ましたが、ロックさんの居たクランと違い、何も貰えやしませんでした。身ひとつで放り出されました。そしてロックさんが言う通り、俺も不甲斐ない自分に腹が立ちますし、凄く凄く悔しいです」


「ですか! であれば! 俺達ふたりで組んで、バリバリ依頼をこなし、成り上がって、いつの日にか、リリースしたクランを思い切りざまあしてリベンジし、見返してやりましょう!」


「おお、リベンジですか! ええ! あいつらに心の底から後悔させてやりましょう! やってやりましょう! 俺、燃えて来ました!」


クランラパスのメンバーからは常に見下され、求められなかった事もあり、

これまで判明しなかったが……

リディだけではなく、ロックにも、モチベーターとしての才能がありそうだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


それから更にふたりは会話を交わした。


ただ、オープンな場所で誰が聞いているか、分からないので、

ふたりで組む具体的な仕事方法、訓練方法等は後で相談、という事で、

他愛のない話をした。


例えば、方向音痴のグレゴリーは2年以上住んでいる王都でも迷ってしまう。

それゆえ、詳細な地図が絶対に手放せないという。


また最も頻度の多い外出先が冒険者ギルドなので、

住居は迷わないようギルドから至近距離にあるアパートらしい。


そんな方向音痴なので、グレゴリーは当然、依頼で行く先々の地図を毎回購入。


王都だけではなく、プラティヌ王国全図と各地町村の地図、

更に隣国数国の地図をも所持する超地図コレクターと化していた。


……そんなこんなで、雑談が済むと、次は互いの身の上話をやりとりした。


リディの作成したプロフ資料で、双方が認識してはいるが、

改めてロックは自分の生い立ちを告げると……


はやり病でほぼ同時に亡くなったロックの両親に涙したグレゴリーは、

悲しそうな顔で自分の境遇を話してくれた。


聞けば、プロフの通りである。


……グレゴリーは王都サフィールから遠く離れた、

小さな村の領主たる騎士爵家の4男。

騎士としての才能の無さを、父親、そして3人の兄達から散々馬鹿にされ、

しまいには騎士失格の烙印を押された。


結局、18歳になった時、修行という形で勘当同然になり、家を出されたという。


かばってくれたのは母親ただひとり、

わずかなお金をグレゴリーへ握らせ、

「もう会えないかもしれないけど、元気でね」と、

心配そうに見送ってくれたらしい。


それから……騎士を諦めきれなかったグレゴリーであったが、

母親から貰った金も尽き、生活費を稼ぐ為、冒険者となった。


日銭を稼いでいるうちに、見た目のガタイの良さとパワー、俊足を買われ、

前のクランに入隊したが、戦闘能力の欠如と方向音痴ぶりにメンバーが激怒。


メンバーから、「こんな奴とはやってられない!」と、

クランリーダーが突き上げられ、リリースとなってしまった。


改めて聞けば、欠点を修正するような指導を希望しても受けられず、

手立ても講じられなかったという。


盾役に関しては、方向音痴は先頭に立たせられないとクランリーダーから却下され、

メイス、こん棒を好むのは、単に自分に合っていると思ったから。

剣が使えないわけではないが、しっくり来ないと笑う。


真剣な眼差し、乱れのない心の波動から、グレゴリーは

嘘偽りなく正直に話していると、魔法使いのロックは確信する。


そして!


蔑まれた者同士の彼と組もう! 新たなクランを作ろう!


こちらからもお願いして仲間になって貰い、互いに欠点を補い合い、

ともに成長しよう! と、ロックは決意する。


「グレゴリーさん!」


「は、はい! 何でしょう、ロックさん!」


「こうやって話す前からそう思っていましたが、俺、決めました。明日にでもリディさん経由で冒険者ギルドへクランの登録を申し入れしましょう」


「おお! ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます!! 感謝致します!!」


「いえ! こちらこそ感謝します! いろいろと話をするうちに、貴方は俺の欠点を補って余りある人だと確信しました。合わせ技と行きましょう!」


「おお! 合わせ技、ですか? そうか! 確かにロックさんこそ! 俺の欠点をカバーし補ってくれる以上の人、そんな気がします!」


「はい! 互いに弱点を補い合い、更にその上を行ける! そんな貴方と組み、誰からも凄い、素晴らしいと言われるような新たなクランを作りましょう!」 


「誰からも凄い、素晴らしいと言われるような新たなクランですか! ですよね!」


「はい、そして命を大事に、を合言葉に、がっつり稼いで、俺達はランクB以上に、つまりランカーとなるんです!」


「ああ! まだランクEの俺達がランカーにですか! 見果てぬ遠い夢ですね」


「いえいえ! 見果てぬ遠い夢ではありません! リディさんが言った、ランカーになるのは楽勝!は言いすぎでしょうが、頑張れば夢ではないと、俺は思います」


「ですか!」


「はい! グレゴリーさん! これから俺達は頑張って鍛錬し経験値を積みつつ、成長するんです! 勿論、お金はがっつり稼いで!」


「ですね!」


「実は今、いきなり新クランの名前も浮かびまして、候補として考えて貰えますか?」


「新クランの名前ですか! は、はい! ロックさん! ぜ、ぜひ! お聞かせくださいっ!」


「ではお聞きください! 俺達の新クランの名は、ステイゴールドです!」


「おお! ステイゴールド! ……ですか! ええっと……いつまでも輝く、輝き続けるという意味ですね!」


「はい! 戦力外になって、一時的に輝きを失った俺達だからこその名前だと思います。これから巻き返して、リベンジし、絶対に輝きを取り戻しましょう!」


「はい! その通りですし、大賛成です! ステイゴールドに決定しましょう!」


こうして……まだたったふたりだけではあるが、

後に伝説の最強クランと称えられる、クランステイゴールドが誕生したのである。

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