第7話「ロックとグレゴリーは、早朝に王都市内をランニング。 すぐへばっていたロックも地道に基礎体力をつけて行く」

人口約5万人の王都サフィールから、約300㎞離れた町アガット。

プラティヌ王国の中では中規模の町で人口は王都の1/10の約5千人である。


ルナール商会は町の行政と商業契約を結んでおり、

アガットに営業支店を置き、業務を遂行していた。


中でも昔から町で消費する生活物資のほとんどをアガットへ輸送し供給、

またアガットにおいて生産する特産品を始めとした商品、食料他を仕入れ、

王国各地へ売却する窓口ともなっている。


ルナール商会は自前の商隊で輸送便を毎回運行しているのだが、

今回はコスト、時間、手間等を比較して計る意味で、

ロックとグレゴリーのクランステイゴールドをトライアル起用するとの事だ。

もしも上手く行くようであれば、最初は併用。

徐々に量の比重を、ステイゴールド便へ振り替えて行くという。


「では、今回の依頼の内容をご説明致しますね。出来るだけ分かりやすく、いつ、どこへ、どこで、何を、誰がどうするという順番でご説明します。その後で、質疑応答を行いましょう」


という事で、リディが説明したのは下記の通りである。


いつ……本日から、1週間後を目安に王都サフィールを出発。

日にちが前後する場合は、相談に応じる。

ルナール商会側では出発準備を整えておくとの事。


そして運行日数だが、通常、ルナール商会の商隊は、

馬にとって負担が少ない形で、何日も継続して長い距離を移動する。

時速に換算すると時速5から6㎞ほどで、

休憩をはさみながら8~9時間弱、1日に約50㎞前後進むという。

つまり、アガットまでは片道約6日、往復で約12日をかけて移動する。

そして作業日、休養日3日間を加え、都合15日。

これを少しでも短縮すればインセンティブが支払われるのだ。


今回は、グレゴリーの快足による、日数短縮の期待がかかる。

当然、積み荷の無事は必須条件。

他にもインセンティブの項目がいろいろと決められた。


どこへ……王都サフィールを出発し、

王都サフィールから約300㎞離れた町アガットへ。


何を……ルナール商会扱いの商品100箱、食料品100箱、

ワイン、エールが各100樽、資材100箱、その他100箱のアガットまでの輸送、

及びアガット支店への納品。

リディが言った通り、運ぶのに大型馬車20台が必要というのも納得の、

凄まじい荷物量である。


誰が……クランステイゴールド、

クランリーダーのロック・プロストとグレゴリー・バルトが請け負う。


そして報奨金は金貨200枚、諸条件を全てクリアすれば、

インセンティブを加え、最大金貨400枚が支払われる。


但し、荷物を紛失したら、ペナルティとして紛失分を全て弁償しなければならない。


高額の財宝に等しいこれだけの量を運ぶので、賊に狙われないよう、

隠密裏に行動するのは必須である。

また、魔物の脅威にも充分注意しなければならない。


そんなこんなで、いくつかの質疑応答の後、


「リディさん」


とロックが挙手。


「はい、何でしょうか、ロックさん」


「あの、ご質問ではなく、ご提案なのですが、どうせなら、王都からアガット支店へ納品した荷物と引き換えにあちらでアガット支店の荷物を回収し、王都へ持ち帰りましょうか? 帰りが空便からびんというのも何ですし」


ロックの提案を聞き、リディは柔らかく微笑む。


「うふふ、ロックさんはとても前向きですね。そうして頂けますか。実はルナール商会からは往路の輸送だけでなく、復路輸送の発注も私が委任されておりまして、凄くありがたいです」


「ですか! これから遠慮なくご要望を出してください!」

「自分達、クランステイゴールドに全てお任せください!」


「ありがとうございます、頼もしいですね。クランステイゴールドのデビュー戦、一番最初の初仕事なので、無理を言えないと私は思い、控えておりました。ですが、おふたりとお話しして、ご了解を頂けるようであれば、復路も輸送を依頼しようかと考えておりました」


「こちらこそ、ありがとうございます。望むところです!」

「ガンガン仕事をしますよ!」


「了解です。では往復で輸送して報奨金は倍額、おふたりで計400枚。インセンティブも倍額と致しましょう。そうなると支払金額は最大で、金貨800枚になりますね」


これは瓢箪から駒。

前向きな姿勢が追加発注を呼んだ。

インセンティブを全てクリアしたら何と何と!

往復の輸送で最大金貨800枚の報奨金が受け取れる事となった。


「とりあえず、支度金という意味も込め、おふたりへは前金で400枚の半金、金貨200枚をお支払いします。1時間後の手配で、ギルドの所属登録証カード機能へ各自100枚づつ入金しておきますね。ご出発は本日から1週間後の早朝5時という事で宜しいでしょうか?」


「あ、ありがとうございます! 前金なんて、お気遣い頂きありがとうございます! 本当に助かります! これで装備を含めた旅支度をしますよ!」


「リディさん、深く深く感謝しますよ」


大喜びのふたり。


「いいええ、どういたしまして。それとケースバイケースで、初めてのクライアントとやりとりする場合、ギルドの職員が同行する場合もあります。ですが今回、私は所用がある為、申し訳ありませんが同行致しません」


ルナール商会訪問の際、リディにアテンドして貰えば、

スムーズに進行出来ると思っていたから、ちょっとだけ残念だ。


そんなロックの思いを感じてか、


「ロックさん、大丈夫です、ルナール商会の営業部長へしっかり話は通してあります。私の名刺をお渡ししますので、訪問の際の手順はこうしてください」


リディは「ふう」と息を吐き、ルナール商会訪問の際の説明を始める。


「出発時間の1時間前、当日の午前4時までに商業街区のルナール商会本店へ赴き、営業時間外の為、閉ざされた扉へノックをして、クラン名を名乗り、訪問を告げつつ、私の名刺とギルドの所属登録証をともに提示してください。そうすれば、クランステイゴールドだと確認して貰えますから。そして中へ入れて貰えたら、営業部長を訪ね、同じように名刺と所属登録証を提示し、要件を伝えてください。それで話は通ります」


対して、ロックとグレゴリー。


「分かりました」

「所属登録証は肌身離さず持っています」


「それから営業部長から部長のサイン入り伝票と商品等々を受け取るのですが、中身と数は必ず確認し、受け取ったら確認のサインをしてください。このやりとりはアガットでも同じで、アガットでの担当は支店長となります」


「はい、間違いのないよう、しっかりと確認します」

「ふたりでダブルチェックをします」


「おふたりとも良き心がけです! あと、何度も申し上げておりますが、防犯の為、おふたりは第三者に対し、目立たないように気を付けて行動してください。また約束の時間は必ず厳守してください。それとけがや病気には充分に気を付けてくださいね」


「「了解です!」」


という事で、リディの指示と支払い条件等が記載された、

『指示書兼契約書』が手渡された。

勿論、追加発注の部分は加筆されている。


そして指示書兼契約書にサインをして、

ステイゴールドとしての初仕事を正式に受諾。


サイン後、ロックとグレゴリーは、

意気揚々と冒険者ギルドを後にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


最初が肝心という、ことわざがある。


いかなる物事も、最初に失敗があると、その後もうまくいかない事の、

戒めとして使われる言葉だ。


クランステイゴールドにとって、初めての依頼遂行。


そう! 食料品等々のアガットへの往復輸送は、

何としても成功させなければならない。

完璧に行い、インセンティブを含め、金貨800枚をゲットするのだ。


それがふたりを信じて高額報酬の依頼を任せてくれたリディ、

そしてルナール商会の期待に応え、それぞれの信頼度が、大幅にアップするからだ。


また大きな実績を積む事で、ルナール商会の次回の発注、

あるいは他クライアントの発注にもつながって行く。


さてさて!

出発まで1週間。


この時間も無為に過ごし、無駄にするわけにはいかない。


やる事、やらなければならない事はたくさんある。


まずは当日、遅刻するわけにはいかない。

特にグレゴリーは方向音痴。


なので、一緒に行動するという事も含め、

前日はルナール商会に近いロックのアパートに、

グレゴリーが泊まる事を決めた。


また改めて旅の装備品を購入する事にもした。


ロックは動きやすさ優先で普段着用している法衣ローブではなく、

これからの事を考え、革鎧を着用する事に決め、

予備を含めた既製品上下一式3着を購入。

また、背中へしょえて、ポケットがたくさんある大型ディバッグも一応購入した。


予備の魔法杖も『水属性』のものがあったので、

非常時の際の飲料水用も兼ねてだと思い、えらく高かったが思い切って購入した。


風弾の魔法杖と同じ、100発の中級レベル水弾を射出するタイプで、

魔力を補填すれば半永久的に使用出来る。


そして、遠方確認用の距離500m有効の魔導望遠鏡、

唐辛子成分などが含まれた魔物や人間を追い払う効果のある魔導発煙筒なども、

同じく金を出し惜しみせず購入する。


そして、方向音痴のグレゴリーが大量の地図をコレクションしていたのだが、

古くなっていたものもあり、ロックは改めて最新版のプラティヌ王国全図、

同王都サフィール、アガット、その経路の地図、

更についでだと、主要な町や村の詳しい地図を大量に購入した。


自分の支度金金貨100枚では到底足らず貯金をだいぶ使ってしまったが、

必要経費だと思い、悔いは無かった。


一方、街道を走るグレゴリーは、特に革靴を多めに購入。

これで長距離を走破し、履きつぶしても、すぐに対処出来る。

ちなみに予備の革鎧は3着もあるので大丈夫との事。

他の私物とともに、ロックの収納魔法で空間に仕舞って欲しいと希望した。


それとふたり共用で金を出し合い、キャンプ用品一式、道中の食料品と水、

体力回復用の魔導ポーションを中心に、各ポーション、各薬草、

予備の肌着などなどを購入した。

当然、すぐに使用する物は大型ディバッグ。

使用しない物はロックの空間魔法で収納する事となる。


そんなこんなで、数多の買い物が済んだので、後は実践訓練。


ロックとグレゴリーは、早朝に王都市内をランニング。

すぐへばっていたロックも地道に基礎体力をつけて行く。


朝食後は、すぐ王都の外へ……

正門を出た後で、グレゴリーがロックを背負って、近郊の無人原野へ赴き、

昼食休憩をはさんで、悪路での移動訓練と、

魔法射撃の練習を兼ねた戦闘演習を行った。


出現した数多のゴブリンを、ロックはグレゴリーの背から、

威嚇射撃で正確に完璧に追い払うという素晴らしい成果も得る。


また風弾、水弾の二丁撃ちも試し、実戦への手ごたえも充分につかんだ。


……結果、ふたりの息はぴったり合うようになり、

互いの欠点を無理なく補えるようになったのである。

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