第3話 いい人をやめるエクササイズ
仕事終わりの満員電車。僕は車内の喧騒にイライラしながら座っていた。隣の人が肘を当ててきたのが気になり、前の席の人が声を少し張っただけで目障りに思えてしまう。
「ああ、最近本当にイヤな奴が多いな……。」
そう心の中でつぶやいた瞬間、ふと自分の言葉に違和感を覚えた。
以前読んだ本の一節が頭をよぎる。
「疲れたとき、人は世界を敵のように感じる。自分のエネルギーが不足しているだけなのに。」
僕は今日、ずっと肩が重く感じていた。午前中からイライラしっぱなしで、些細なことで人に冷たく接してしまったことも思い出す。
「もしかして、僕がイヤな奴だったのかもしれない。」
その晩、帰宅して鏡を見た僕の顔はひどく疲れていた。ずっと「いい人」でいなければならないという無意識のプレッシャーが、僕を消耗させていたのだ。
本当はイライラしているのに、それを抑えて笑顔を作る。無理に周りに気を使い、やりたくないことも引き受ける。気づけば胸や鎖骨周りが張り詰めて、深呼吸さえしにくくなっている。
「いい人をやめてみよう……。」
その瞬間、心が軽くなるような気がした。
僕は「いい人をやめるエクササイズ」を試してみることにした。
① 片手の人差し指と中指で鎖骨を軽く撫で、左右に10回動かす。
② 両手で鎖骨を下に押して10秒キープ。
③ 立ち上がり、片足を大きく一歩前に踏み出して肘を軽く曲げ、腕を大きく前後に50回振る。
最初は不慣れでぎこちない動きだったが、鎖骨周りが少しずつ柔らかくなり、呼吸が深くなるのを感じた。イライラがすっと溶けていくような感覚に包まれた。
僕はこのエクササイズを通じて気づいた。
「正しさは他人基準、幸せは僕基準なんだ。」
無理に「いい人」を演じる必要はない。自分の感情を抑え込むことで得られる正しさよりも、自分が楽でいられる幸せ感を優先していいのだ。
翌日、僕は電車の中でまた少し混雑に巻き込まれたが、前日のような苛立ちは感じなかった。鎖骨周りが軽く、呼吸が滑らかだと、自然と視界も柔らかくなるのだと気づいた。
周囲の人も自分と同じように疲れているのかもしれない。だからこそ、無理に「いい人」を演じるのではなく、まずは自分を整えることが大事なのだ。
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