第4話 進化と調和

 ルナとカイは黒いスーツの男を前にして、次の一手を探っていた。男の背後にはウイルス拡散装置が鎮座し、絶え間なくデータを送り出している。ルナはクリオに密かに指示を出し、装置へのアクセスを試みた。


 「君たちに何ができる?」男は冷たい声で挑発する。「私たちは未来を作っている。君たちのような保守的な考え方では、進化のスピードにはついていけない。」


 「進化の名を借りた破壊に未来なんてない!」ルナは断固とした声で答えた。その瞬間、男は背中の装置に手を触れ、何かを起動した。


 男の身体が異様な光を放ち始め、AI家電を超越した動きでルナたちに向かってきた。




 「カイ、時間を稼いで!」ルナは叫びながら、装置の制御パネルに向かった。カイはためらいながらも男の動きを阻止しようと立ちはだかった。


 カイの身体AI家電が最大限に稼働し、彼の動きは機敏だったが、男の異常な力には圧倒されつつあった。「早くしろ、ルナ!」


 その間、クリオは装置のデータにアクセスし始めていた。だが、装置は高度なセキュリティに守られており、解除には時間がかかる。


 「ダメだ、このままじゃ間に合わない!」ルナは焦燥感に駆られたが、そこで一つの策を思いついた。「クリオ、ウイルスのコードを逆利用して、男の身体AI家電を一時的に停止させられない?」


 「試みますが、成功率は低いです。」クリオは即座に応じ、ウイルスを逆手に取るプログラムを実行した。




 男がカイを追い詰めようとした瞬間、彼の動きが突然止まった。背中の装置が火花を散らし、異常音を発している。「何をした!」男は怒りの声を上げたが、身体は思うように動かなかった。


 「今よ!」ルナは装置の最後のセキュリティを解除し、ウイルスの拡散を停止させる操作を完了した。


 タワー内の機械音が静寂に包まれ、拡散されていたウイルスが完全に封じ込められたことを確認すると、ルナとカイは安堵の息をついた。




 数日後、政府の専門機関が通信タワーを調査し、ウイルスを拡散させていた背後組織の一部が明らかになった。「ネクサス・エコー」は、AI家電を用いた新しい形の管理社会を目論む秘密組織であり、今回のウイルスはその実験の一環だった。


 ルナは公の場で証言を行い、身体AI家電のセキュリティ強化と倫理的な使用の重要性を訴えた。




 パンデミックが収束し、街は徐々に活気を取り戻していった。人々は身体AI家電の力を信じつつも、自分たちの身体の自然な機能を見直す動きを始めた。


 「身体AI家電は補助的な存在であるべきだ。私たちの身体そのものが、本来持つ力を取り戻すことが本当の進化なんだ。」ルナの言葉は多くの人々の心に響いた。




 ある晴れた日、ルナはクリオに向かって言った。「これで一段落ね。でも、次はもっと大きな挑戦が待っている気がする。」


 「その時は、また一緒に乗り越えましょう。」クリオの声には温かみがあった。


 ルナは微笑みながら歩き出した。彼女の目の前には、新しい未来が広がっていた。

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