第3話 進化か、破壊か
翌朝、ルナは自宅の作業スペースで再びウイルスの解析に没頭していた。患者データから抽出したプログラムコードには、不自然なシンボルが繰り返し現れている。それは円を囲む六つの点が連なる形状で、どこか組織的な意図を感じさせた。
「クリオ、このシンボルに関連する情報を検索して。」
「了解しました。関連する記録を探します……見つかりました。これは『ネクサス・エコー』と呼ばれる組織のものに酷似しています。」
「ネクサス・エコー?」ルナは聞き覚えのない名前に眉をひそめた。
「公式記録にはほとんど情報がありません。ただ、過去数年にわたり、複数の技術的事件に関与していると噂されています。」
クリオがスクリーンに投影した地図には、いくつかの地点がマークされていた。その中で最も怪しいのは、市街地から離れた廃工場だった。
ルナは防護スーツを身につけ、廃工場へと向かった。建物は長年使われていないようで、外壁は錆びつき、内部は埃っぽい匂いが漂っていた。しかし、そこには新しい足跡があり、明らかに誰かが最近立ち入った形跡があった。
工場の奥で、彼女は奇妙な装置を発見した。人間の身体AI家電を模倣したかのような構造を持つ機械が並んでいる。装置の中には、ウイルスのコードに酷似したプログラムが刻まれていた。
「やっぱり…ここでウイルスを製造しているのね。」
装置に触れた瞬間、背後から低い声が響いた。「ずいぶんとおせっかいな真似をしてくれるな。」
振り返ると、そこには黒いスーツを着た男が立っていた。目は鋭く、背中には人間の背骨を模したような装置が取り付けられている。
「あなたがこのウイルスを?」ルナは問い詰めた。
男は静かに笑いながら答えた。「ウイルスと言うのは違うな。これは進化のための『鍵』だ。」
男は続けた。「身体AI家電は確かに便利だ。しかし、その便利さが人々の怠惰を生み、真の可能性を閉ざしていることに気づいているか?私たちの目的は、身体を再び覚醒させることだ。」
「それが人々の命を危険に晒す方法で?」ルナは怒りを抑えきれなかった。
「代償はつきものだ。」男の目は冷たかった。
ルナはその場を逃れつつ、装置のデータを急いでダウンロードした。これ以上の対話は無意味だと悟った彼女は、工場を離れる際にクリオに指示を出した。「データを解析して、この装置がどこから制御されているのかを特定して。」
帰宅したルナは、即座にカイに連絡を取った。「この問題、私一人では解決できない。協力してくれる?」
カイはルナの話を聞き、少し戸惑いながらも頷いた。「わかった。でも相手はただの犯罪者じゃない。慎重に動こう。」
二人はデータ解析に集中した。その結果、ウイルスの拡散に関与する主要な拠点が都市中央の通信タワーにあることが判明した。
「ここを押さえれば、感染を止める糸口が見つかるかもしれない。」ルナの目には決意の光が宿っていた。
夜、ルナとカイは通信タワーに潜入した。タワー内は厳重なセキュリティが敷かれていたが、身体AI家電の特性を活かして進む彼らの動きはスムーズだった。
「ここだ。」カイが指さしたのは、巨大なサーバールームだった。その中央には、ウイルスを拡散する主装置が鎮座していた。しかし、そこにたどり着く前に再び現れたのは黒いスーツの男だった。
「よくここまで来たな。」男は冷たく笑った。「だが、これ以上進むことは許さない。」
ルナは冷静に言った。「人々の未来を犠牲にするやり方は、進化なんかじゃない。ただの破壊よ。」
二人の間に緊張が走った。
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