第2話 ウイルスの脅威
男性を救護センターに送り届けたルナは、自宅のワークデスクに向かい、即座に状況を整理し始めた。彼女のAIアシスタントである「クリオ」が浮かび上がり、柔らかな声で話しかけてきた。
「ルナさん、さきほどのケースは、単なる機能異常ではありません。ハッキングによる可能性が高いです。」
「ハッキング…やはりそうか。クリオ、最新のウイルス情報を検索して。」
クリオの目がスクリーン上に浮かび、情報をスキャンしていく。数秒後、クリオが深刻そうに言った。「複数の都市で類似のケースが報告されています。このウイルスは、身体家電の制御システムに侵入し、ランダムな暴走を引き起こしている模様です。」
ルナは胸の奥が冷たくなるのを感じた。身体AI家電はこの世界の生命線だ。その機能が侵されれば、人々の命そのものが危機に晒される。
翌日、ルナが通勤路を歩いていると、街の様子が明らかに変わっていた。身体の動きが不自然な人々、急に立ち止まって動かなくなる人、息苦しそうにしている子どもたち……。
「ルナさん!」突然呼び止められた声に振り向くと、彼女の友人で同僚のカイが駆け寄ってきた。
「見たか?最近の異常事態。仕事どころじゃないよ。」カイは汗を拭いながら話した。「病院も満員だ。メンテナンスセンターのスタッフもパンク状態だって。」
「わかってる。でも、私たちにできることがあるはずよ。カイ、患者たちのデータを共有してくれる?」
カイは困惑した表情を見せたが、最終的に頷いた。「わかった。だけど危険だぞ、ルナ。こんな時に目立つ行動を取ると、ウイルスを開発した連中に目をつけられるかもしれない。」
ルナは自宅に戻り、カイから送られたデータを慎重に解析し始めた。患者たちの身体内で何が起こっているのかを解明するために、彼女は自身のAI身体家電を使い、仮想的な再現実験を行った。
「このウイルス…単なる偶然の産物ではない。」ルナはデータを凝視しながら呟いた。「これほど高度に身体システムを狙った攻撃ができるのは、誰かの意図が働いているに違いない。」
データをさらに深掘りすると、ウイルスのプログラムコードの中に奇妙なサインが隠されていることに気づいた。それは特定の署名のように見えたが、解析にはさらなる時間が必要だった。
その夜、ルナは街に出た。解析だけでは足りない。彼女は、自ら感染者の一人に会い、直接調査することを決意していた。
感染者の家を訪れると、そこには沈んだ空気が漂っていた。玄関を開けてくれた女性は涙ぐんでおり、彼女の背後にはぐったりした姿勢の少年が横たわっていた。
「お子さんの状態を詳しく教えていただけますか?」ルナは優しい声で尋ねた。女性はしばらく迷っていたが、最終的に全てを話してくれた。
「彼は昨日まで元気だったんです。でも、急に身体のスイッチが入らなくなって……」
少年の手首を触ると、そのスイッチは不規則に点滅していた。明らかに外部からの干渉によるものだ。
「フィルターを一旦リセットしますね。」ルナは手際よく少年の身体に施術を施しながら、内心で焦りを募らせた。「これでは根本的な解決にはならない。何かもっと大きな力が働いている…。」
家を出る頃には夜も更け、街灯が冷たい光を放っていた。ルナは歩きながら、自らの足首を動かしてみた。彼女自身のコンセントは正常に機能している。だが、この状況が続けば、自身も感染者になる可能性がある。
「クリオ、このウイルスを作ったのは一体誰なのかしら?」ルナは問いかけた。
「まだデータが不足しています。しかし、何か規模の大きな計画の一環である可能性があります。」
「規模の大きな計画…」ルナはその言葉を噛み締めながら、闇に消える道を歩き続けた。
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