第4話 始めての悪巧み
ヴァイオレットの部屋でのお茶番から早一ヶ月。
ミアはその後すぐヴァイオレットのメイドとして、別邸から本邸へと異動した。
そして、間もなくして、なぜかヴァイオレットの評判がドン底に落ちた。
彼女はお茶会を無断欠席したり、公爵家の公務を放置したりして、今までのヴァイオレットらしからぬ行動を取るばかりだ。よからぬ噂がどんどん広げて、もはや炎上状態となった。
事態の収束を図ろうと、ミアはイアンに呼ばれた。何も彼女こそ黒幕という説があるからだ。
「今の状況、ご説明いただけますか?」イアンの表情は険しいだ。
「それは……言えません」
「クビされても構わんか?」
「そ、それでも……」相当の圧にかけられても、ミアは言う気がなさそうだ。
そしたら、イアンは冷徹とした態度を一変し、普段のような落ち着いた口調で言った。
「まぁ、いい。言わなくても大体の事情は把握した。概ね王太子殿下との出会いを回避するだろう?」
「なぜそれを……?」
どうやら図星のようだ。
「屋敷内での出来事を知るのが僕の仕事だから」イアンは腕を組んで、続けた。「貴女の活気あふれる姿をずっと観察しているのだ」
どうやら自分はいつの間にか上司に狙われているらしい。
「あの、これは訳があって……」こうなったら、イアンを説得するしかないと、ミアは慌てて説明しようとしたが、すぐ止められた。
「説明は結構だ」イアンは鋭い視線をミアに送る。「僕はがっかりしたよ」
命の恩人にそう言われて、ミアは思わず息を飲んだ。しかし無理もない。
イアンの目から見れば、自分の行動はきっと恩を仇で返す行為に違いない。歯を食いしばって、責められる覚悟をしたが――
「なぜ僕を巻き込まらない?」
「え?」
「僕だったらもっと上手くやれるよ」
「それはつまりイアン様が協力してくれるってこと?」
「その通り」
「なぜですか?」
立場上、ヴァイオレットに忠誠を尽くすというより、イアンが仕えるのはハルパレート家なので、てっきり今すぐやめろと警告されるかと思った。
「面白いからだ」イアンが真顔でわけのわからないことを言った。
「ん?」
「そうと決まったら、早速ヴァイオレット様と作戦会議を開こうか?」イアンはそう宣言して、ミアと一緒に、ヴァイオレットの部屋に訪ねた。
◇◆◇
「まず確認として、これがヴァイオレット様ご自身の意思でしょうか?」
ヴァイオレットの部屋で、イアンは面接官のような口調で聞いた。
「はっ、はい」そして、ヴァイオレットはまさにその面接者である。しかも、極めて緊張しているタイプだ。
「理由を聞かせてもよろしいでしょうか?」
「そ、その、私は……結婚したくないです!」ヴァイオレットの視線はずっと床に向いているが、はっきり言った。
「その日、ミアからこの世界のことを聞いてから、ずっと考えているんです。もし本当に世界がリセットし、また次のヴァイオレットがここに来るのなら、殿下と結婚するのではなく、ヴァイオレットとしての残りの人生を自由に送りたいの」
ヴァイオレットの両手がドレスの裾を力強く握って、これを述べるには相当の勇気が必要なようだ。
「そうですか」イアンは小刻みに頷いた。
「それに、もしかして、あの婚約パーティーさえなければ、世界はリセットしないかもしれません。そしたらお嬢様も消えてなくなりません、と思うから」ミアが補足した。
「それは……確かにいい発想かもしれない」イアンはしばらく考え込んだ。
「で、でも、ご覧の通り、このようなビビり屋なので、一人じゃ何もできない……」
ヴァイオレット百号はとても心優しい人だが、弱気全開なのだ。前の世界では周りにいいように扱われても言い返せない。二股をかけた恋人にふられたばかりの状態でこの世界に移転したら、また知らない人に婚約破棄されたから、耐えられなくて、逃走したわけだ。
「そこで、ミアに頼んで、協力してもらったの」
「だから殿下と会えるかもしれないお茶会を欠席し、王族が関わる公務を放置するのですね」
「私は経験が少ないから……それしか方法を思いつかなくて」ミアは少し顔を俯いた。
「……確かにやり方が些か荒いではあるが、うまく利用すれば、逆転できなくもない」イアンはすでに何かしらのいい案が思い浮かんだように、
「いいか、これからは――」と計画を述べ始めた。
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