第8章

第50話 暴露

『さあ、今年もシュナウザーカップの開幕でーす。ミキハさん、今日もよろしくお願いします』


 8月になり、北海道の雄大の大地でシュナウザーカップが開催される。


『はーい、こーんにちわー』


 ステージから、ミキハちゃんが叫ぶ。


「「こーんにーちわー」」


その頃



「あー蒸れるわ」


 頭を掻くさわちゃん。

 1センチほど髪が生えそろっているが、かくすようかつらを付けている。

 アファエルのマンションで、みくこのフリをして生活している。


「どうしたプリム、うかない顔して?」


 アファエルが、聞くと、


「あっ、別になんでもない」


 半笑いで、両手を振るさわちゃん。


「そうか。じゃあ行ってくる」


 アファエルは、これからバイトに出かける。


「うん、行ってらっしゃい」


 片手を振るさわちゃん。

 みくこは、こんなことをしないのだが、


「おう」


 気がつかないアファエル。


「ふぅ。本当は、わたくしが北海道に行ったのに」


 つい5日前のことを、思い出すさわちゃん。


5日前



「えっ、なんだって?」


 みくこちゃんが、振り返ってさわちゃんを見る。


「もう、飛べるところまで回復したから、わたくしがレースに出場したいの」


 体力的に、問題ないと言うさわちゃん。


「いやいや、飛べるようになっただけで、とてもレース出来るような体力はないでしょ?」


 半笑いのみくこちゃん。


「いや、それでも───」


「いーや。みすみす死なせるようなことは出来ないわよ」


 強く言うみくこちゃん。


「でも」


 粘るさわちゃん。


「でもも、ヘチマもないの。くやしかったら、体力をつけてよね」


 鼻で笑うみくこちゃん。


「はぁぁ」


 首を振って、回想を消して、ベッドに横たわるさわちゃん。


「こんにちわ」


 わたしが、アファエルの家のチャイムを鳴らすと、さわちゃんが出てくるので、あいさつすると、


「あっ、こんにちは」


 伏し目がちに、あいさつするさわちゃん。


「アファエルいる?」


 と、わたしが聞くと、


「あっ、バイトに行ってます」


 そう、答えるさわちゃん。


「そう」


 いや、アファエルがバイトに行ったのは知っているけどね。


「はい」


「あのね、今日はプリムちゃんに話があって来たの」


 わたしが、そう言うと、


「えっ」


 目が、点になるさわちゃん。


「あの、ちょっと中で」


「はい、入って入って」


 さわちゃんが、招き入れる。


「うん、お邪魔します」


 サッと入るわたし。


「なんか、ニガいお茶があるけど、飲みますか?」


 急須を、持ち上げるさわちゃん。


「そうね。いただこうかしら」


 中身がなにか、知らないのね。


「それで」


 イスに座るわたしに、詰め寄るさわちゃん。


「うん?」


 首をかしげるわたし。


「わたくしに、なにか用があるのですわよね?」


 聞くさわちゃん。


「そうなの」


「何でしょう?」


 真剣な顔で、わたしを見るさわちゃん。


「まぁ、その前に。顔色があまり良くなさそうだけど、体調はどうなの?」


 それに、疲れているようだし。


「体調ですか。すごくイイですよ」


 ニコッと、笑うさわちゃん。


「それなら、よかったわ。この前、海に行った時に血色が良さそうじゃなかったから心配だったのよ」


「それはどうも。ご心配を、おかけしました。ただ、あの時は日焼け止めをタップリと塗っていたので、そう見えただけですね」


 と、誤魔化すさわちゃん。


「あー、やっぱりそうよね」


「旅館に戻った時に、あの女将のお婆ちゃんがビックリしてたわ」


 さわちゃんが、そう言うので、


「あっ、若女将じゃなくて?」


「若女将?」


 若女将のことを知らないさわちゃん。


「いえ、こっちの話。あの後、宴会状態になって、夜中まで騒いで盛り上がったわよね」


 ちょっと、カマをかけてみる。

 実際は、女将が静かにするように言いに来た。


「そうそう、みんなで雑魚寝してね」


「わたしは、アファエルの部屋に行って二人で寝たわ」


 もう1つダメ押しする。


「えー、そうなんだ」


「冗談よ」


「えっ?」


「あの女将がコワくて、みんな一緒の部屋で寝たの」


 実際の話をする。


「………そうよね」


「あのね」


「はい」


「わたしと、シミュレーションで勝負しましょう」


 もう、実際どうなのか話してもらうには、これしかないわね。


「えっ?」


「わたしが勝ったら、正直に話して」


「………わかりました」


 しぶしぶ納得するさわちゃん。


「えっ、イイの?」


 乗ってくるとは思わなかったので、逆にビックリするわたし。


「わたくしが勝つので」


 ニヤリと、笑うさわちゃん。


「えへへ、すごい自信だね」


「特進クラスを、舐めてもらっては困りますわ」


 腰に手を置いて、胸を張るさわちゃん。


「アハッ、さすがさわちゃん」


「どちらが、先に飛びますか?」


 と、さわちゃんが言うので、


「そうね。わたしから飛ばしてもらいましょうか」


 わたしが、先行でやりたいの。


「イイですよ」


 余裕を見せるさわちゃん。


「よーし」


 ヘッド・マウント・ディスプレイを、装着するわたし。


「それじゃあ、スタート!」


 さわちゃんが、横の画面を見ながら言う。


「よし、出だしよかったわ」


 なかなかのダッシュだわ。


「フフ」


 口角を上げるさわちゃん。


「あーっ、3位か。まぁまぁね」


 12周回って、12番目にスタートして3位でゴールしたわたし。


「それじゃあ、次はわたくしですわ」


 さわちゃんに、ヘッド・マウント・ディスプレイを手渡す。


「じゃあ、準備はイイわね」


「オッケーよ」


 スッポリと、装着するさわちゃん。


「それじゃあ、スタート」


「ぅおーー」


 接触なく、3位に躍り出るさわちゃん。


「わっ、うまく抜けたね」


 すり抜けて、先頭集団に入るさわちゃんを見て、ちょっとくやしい。


「でしょう」


「わっ、まさか」


 12周回って、


「やった! 1位だ」


 上機嫌になるさわちゃん。


「おめでとう」


 残念ながら、わたしの負けね。


「わーい、あっ!!」


 その時、よろこび勇んでヘッド・マウント・ディスプレイを外したさわちゃん。

 かぶったかつらも外れて、あらわになる。


「あ………」


 なにか、マズいものを見たと思って、固まるわたし。


「っと」


 なにもなかったように付ける。


「どうしたの髪は?」


 さすがに、気になるわ。


「なんでもないよ」


 真顔になるさわちゃん。


「でも………」


 やっぱり、スルーした方がよかったかも。


「ちょっと、病気でね」


 苦笑いするさわちゃん。


「詳しく聞かせてよ」


「………うん、秘密にしてくれるなら話するわ」


 小声で言うさわちゃん。


「うん、イイよ」

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