第49話 組み込み

「ねぇ」


 みくこちゃんが、海の家でシャワーから出て来たさわちゃんに話しかける。


「わっ、ビックリした」


 ビクッとなるさわちゃん。


「まだ、大丈夫なの? しんどいなら変わるけど」


 周囲を見回すが、シャワー室内に他のお客さんはいない。


「うん、大丈夫───」


 ふらつくさわちゃん。


「おっと。やっぱりここまでね」


 みくこちゃんが、抱きしめる。


「ごめんね」


 肩で、息をするさわちゃん。


「なに言ってんの。血を分けた仲じゃない」


 さわちゃんの頭に、キスをするみくこちゃん。


「ありがとう。血液型まで同じになっちゃったね」


 ニヤリと、笑うさわちゃん。


「そうよね。それじゃあ、着替えよっか?」


「うん」


 Tシャツを脱ぐみくこちゃん。


「あー。ノドがかわいたわ」


 みくこちゃんが、水着姿で砂浜に出てくる。


「さわ、遅かったな」


 アファエルが、声をかける。


「えっ、そうかしら」


 苦笑いするみくこちゃん。


「あー、髪を乾かしたのか」


 髪が、サラサラなみくこちゃんを見て言うと、


「えっ。あー、そうなの」


 笑って、誤魔化すみくこちゃん。


「ホラ、腰の布。泳いだ時に、落ちたろ」


 海を、潜って回収したアファエル。


「あっ、ありがとう。久しぶりに、かき氷食べたいな」


 話をそらすみくこちゃん。


「えっ、さっき食べたろ」


 つっこむアファエル。


「そっ、そうよね」


 ヘラヘラ笑うみくこちゃん。


「頭、ぶつけたか?」


 心配するアファエル。


「大丈夫よ。アハハ」


「そろそろ、旅館に戻ろうと思ってるの」


 わたしが、そう言うと、


「じゃあ、あたしもそうする」


 と、みくこちゃんが答える。


「うん。一緒に露天風呂に入らない?」


 お風呂に、誘うわたし。


「イイね。入る入る」


 乗って来るみくこちゃん。


「よかった」


 ホッとするわたし。


「えっ?」


「いいえ、なんでもない」


 誤魔化すわたし。


「かすみちゃん、寝てるね」


 パラソルの影が伸びる。

 眩しそうに、ビーチチェアに横たわるかすみちゃん。


「起こそう」


 かすみちゃんを、撮ってから揺さぶるわたし。


「んん!? あぁ、寝てた」


 ヨダレを拭くかすみちゃん。


「旅館行くよ」


「あー、ついてくわ」


 飛び起きるかすみちゃん。


「おかえりなさいまし」


 20代前半の和服美女が、出迎える。


「あれ、お婆ちゃんじゃない」


 レミアちゃんが言うと、


「わたし、若女将です」


 と、言う若女将さん。


「おー、若女将さん。今、大浴場って入れますか?」


 わたしが聞くと、


「24時間いつでも、ご利用いただけますよ」


 ニッコリ笑う若女将さん。


「わーい」


「それじゃあ、さっそく入ろうよ」


「イエーイ」


 体を洗い合うメンバー。


「あ゛ー」


 露天風呂に入る。


「癒される~」


「よし、出よう」


 みくこちゃんが、すぐ出る。


「えっ、もう?」


 その時、みくこちゃんの腰を見るわたし。

 少々、頭が混乱して取り乱す。


「うん」


「あっ、アファエル」


 お風呂から出たわたしが、ロビーにいるアファエルを見つけて、歩み寄る。


「おっ、出たか」


 背もたれに、しっかりと沈みこむアファエル。


「うん、それでね───」


 話そうとするわたしを、遮って、


「スマン」


 両ヒザを掴んで、頭を下げるアファエル。


「えっ?」


 どうしたの?


「オレの勘違いだったわ。さわがフロートから落ちた後、見たらちゃんとホクロがあって、あいつがさわってことはわかった」


 落下の衝撃で、パレオが外れたところを見たアファエル。


「えっ、ホクロってホントにあった?」


 なんか、思っているのと違うな。


「うん、あった」


 うなずくアファエル。


「でも、さっき見たけど、無かったよ?」


 お風呂で見たのは、さわちゃんじゃなかったけどなぁ。


「そんなわけない。アイツはさわで間違いない」


 アファエルは、頑としてゆずらない。


「でも」


「変なこと言って、悪かったな。忘れてくれ」


 苦笑いするアファエル。


「う、うん」


 よく、わからないけど。


「なんの話を、してるのかな?」


 レクラちゃんが来る。


「いや、なんでも」


 腕組みするアファエル。


「えー」


 アファエルの隣に座るレクラちゃん。


「うん、なんでもないよ」


 アファエル越しに、レクラちゃんに言うわたし。


「そう。花火を見る前に、食事を済ませておく?」


 アファエルに聞くレクラちゃん。


「あっ、そうだね」


 うなずくアファエル。


「アファエルも、一緒に部屋で食べようよ」


 レミアちゃんが、言うと、


「おう。なんか、一杯呑みたい気分だ」


 ニヤリと笑うアファエル。


「わたしも、付き合うわよ」


 と、わたしが言うと、


「イイねぇ」


 立ち上がるアファエル。

 フロントに行く。


「ご用意が、出来ましたー」


 中居さんが、ロビーまで呼びに来てくれる。


「はーい」


「よーし、乾杯しよう」


 テーブルに、人数分の食事とお酒が用意されている。


「あっ、ミキハちゃんは未成年だから」


 アファエルが、ミキハちゃんのグラスにも、ビールを注ごうとする。


「あー、そうだね」


 キャッキャと笑うアファエル。


「それじゃあ、ジュースで」


「さわちゃん。プロデビューおめでとう、そして、みんな脱落者なしで夏まで来た祝いを祝して」


 と、アファエルが言う。


「「乾杯!」」


「プハァー」


「おめでとう」


「ありがとう。でも、8位だし」


 みくこちゃんが、そう言うと、


「十分スゴいぞさわ」


 みくこちゃんの、肩を叩くアファエル。


「うれしいわ。アファエル」


 ウルッとくるみくこちゃん。


「おう」


「さあ、花火を見に行こう」


「よーし」


 食事を済ませると、ビーチに出て花火を待つ。


「キレイね」


 大輪の花火が、夜空を焦がす。


「なんか、イイ夏休みだったな」


 アファエルが、わたしを見て言う。


「そうね」


 顔が、赤くなりそうなわたし。


「さわは、シュナウザーカップ頑張れよ」


 エールを送るアファエル。


「うん、がんばるよ。アファエルも、早く復活してね」


 みくこちゃんが、そう言うと、


「おう、一緒にレースを荒らしてやろうぜ」


 親指を立てるアファエル。


「うん。やってやるわ」

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