第48話 アスレチック

「あー、やっと着いた」


 ミキハちゃんが、遅れて海の家まで来る。


「来たわね」


 かき氷を、あらかた食べ終わっているみんな。


「あー、みんな食べてるなら、あったしも」


 そう言って、注文するミキハちゃん。


「おいしかったわ」


 レクラちゃんが、ミキハちゃんに言う。


「ねぇ。あれ、やってみない?」


 レミアちゃんが、海を指差す。


「あれ?」


 わたしが、聞くと、


「海に、浮かんでるじゃん」


 海に、エアーで膨らませた遊具が浮かんでいる。


「おお、イイね」


 アファエルが、ニヤリと笑ってわたしを見る。


「そうね、みんなでクリアしよう」


 おそらく、わたしに作戦をしろとアファエルが言っているのね。


「おう」


 メンバーが、右手を突き上げる。


「コレ、桟橋の段階ですでに難しいんだが」


 フロートまで、浮き桟橋があるのだが、不安定で海に落ちそう。


「そうね。あったし、落ちそわわわ」


 ミキハちゃんが、足を滑らして落ちる。


「ハハハ、こんなところで落ちるなよ」


 引っ張り上げるアファエル。


「うー」


 アファエルに、抱きつくミキハちゃん。


「ここは、ターザンロープか」


 フワフワな階段を上がると、係員がロープを持って立っている。


「アファエル、先に飛んでよ」


 けっこう思ったより高いので、アファエルに先に行かせるわたし。


「いや、アトラフィルさんが先に飛んで」


 アファエルが、わたしに振る。


「じゃあ、身長のあるレクラちゃん」


 と、レクラちゃんに振ると、


「いえいえ、素早いレミアちゃんは、どうかな」


 レクラちゃんが、レミアちゃんに振る。


「レミは、ロープに届かないかも」


 しりごみするレミアちゃん。


「じゃあ、オレが先に飛んでやるよ」


 アファエルが、そう言うと、


「「どうぞどうぞ」」


 メンバーが、声を合わせる。


「うるせぇ」


「アハッ」


 思わず、ふき出すわたし。


「見てろよ」


 ロープを掴んで、飛び出すアファエル。


「おー」


 向こうまで行けたので、感心するわたし。


「やったぜ。次は?」


 ロープを、係員に向かって投げるアファエル。


「ハーイ。次は、わたくしが飛びます」


 さわちゃんが、ロープを掴む。


「えっ、さわちゃん気をつけて」


 レクラちゃんが、声を震わせて言う。


「うん。見事に飛んで見せますわ」


 苦笑いするさわちゃん。


「がんばー」


 レミアちゃんが、エールを送ると、


「ゥウッ。ああぁぁぁ」


 手を、滑らせて海に落ちるさわちゃん。


「だッ、大丈夫!?」


 心配するわたし。


「なんか、頭を押さえて落ちたね」


 レミアちゃんが言う通り、髪を押さえて落ちたさわちゃん。


「あっ、浮いてきた」


 海の中で、髪を整えて浮かぶさわちゃん。


「ふぅー」


 ホッとした表情を見せるさわちゃん。


「ねぇ、大丈夫?」


 別の階段を上がって来たさわちゃんに、声をかけるわたし。


「大丈夫よ」


 手を振るさわちゃん。


「よかったー」


「わたくしは、ビーチに戻りますわ」


 そう言って、階段を降りていくさわちゃん。

 アファエルが、チラッと腰を見る。


「そうなの?」


 レミアちゃんが聞くと、


「シャワーを浴びて、日焼け止めを塗りなおして来ます」


 と、答えるさわちゃん。


「うん、また後でね」


「うん」


「さわ!」


 アファエルが、さわちゃんを呼び止める。


「ん? どうしましたアファエル?」


 キョトンとするさわちゃん。


「気をつけてな」


 ほほ笑むアファエル。


「はい、アキ兄ぃ」


 ゆっくりと、階段を降りていくさわちゃん。


「次は、わたしが飛ぶわ」


 ロープを掴むわたし。


「よし、来い」


 両手を、広げるアファエル。


「わー、あと少しっ」


 つま先だけ、引っかかる。


「よっ」


 わたしを、抱き抱えるアファエル。


「ありがとうアファエル」


 アファエルに、しがみつくわたし。


「いいや。よし、次」


 ミキハちゃんが順調に飛んで、


「レミが行くから、捕まえてよアファエル!」


 レミアちゃんが、ロープを掴むと、


「おう、まかせろ」


 両手を広げるアファエル。


「がんばってね」


「やるよぉー、とぉーーーーー」


 なんとか、飛び出すレミアちゃん。

 しかし、


「わっ、落ちちゃった」


 落下して、水しぶきを上げるレミアちゃん。


「ぷはぁー。ちょっと、ちゃんと受け止めてよ!」


 レミアちゃんが、文句を言う。


「いや、全然届いてなかったし」


 苦笑いするアファエル。


「最後は、私ね」


 レクラちゃんが、震える手でロープを握る。


「よし、レクラちゃん飛べ」


 と、アファエルが言うが、


「ぅうぅう、高くてめまいが」


 目が回るレクラちゃん。


「大丈夫だ。落ちて死ぬ高さじゃない!」


 勇気付けるアファエル。


「でもぉ」


「ちゃんと、受け止めるから」


「頼んだわよ、アファエル」


 覚悟を決めるレクラちゃん。


「おう。飛べ!」


「キャアーーー」


 跳ねるレクラちゃん。


「よし来い」


「やった」


 ギリギリで、レクラちゃんに抱きつくアファエル。


「ぐぉぉお」


 ふんばるアファエルだが、


「キャアー」


 二人とも、海に落ちる。


「うぶぶ。大丈夫か」


 アファエルが、聞くと、


「ピュ。わー、こわかったわー」


 泣き顔のレクラちゃん。


「泣くなよぉ」


 なぐさめるアファエル。


「ごめんなさいー」


 つい、目からあふれるレクラちゃん。


「早く上がって。次は、吊り橋よ」


 わたしが、ちょっとイラッとしながら言う。


「アファエルぅー」


 吊り橋は、さらに高い位置にあってレクラちゃんが、また泣きそうになる。


「わかった。手を握ってやるから」


 右手を、さし出すアファエル。


「うん」


 アファエルの右手に抱きつくレクラちゃん。


「レミも、レミもー」


「よし、レミアちゃんも」


 左手を出すアファエル。


「よかったわねアファエル」


 なんか、イラつくわ。


「なにがだよ」


「両手に花で」


 ニッコリ笑うわたし。


「なに言ってんだ」


 吊り橋を、渡る三人。


「揺らさないで、アファエル」


 レクラちゃんが、アファエルにすり寄る。


「こーわーいー」


 レミアちゃんも、すり寄る。


「ハハ、なんなんだ」


「早く来てー。滑り台があるよ」


 吊り橋を、先に渡ったわたし。


「おう、待ってくれ」


「この滑り台、けっこう高いな」


 ほぼ、垂直に見える滑り台が、波に揺れている。


「いーやー」


 レクラちゃんが、叫ぶ。


「レクラさんは、ちょっと無理かな」


 ミキハちゃんが言うと、


「うん、無理かも。アファエルが手を」


 また、アファエルの手を掴もうとするので、


「ハイ、さっさと行く」


 レクラちゃんを押すわたし。


「わっ、なんで押すのぉー」


 ミキハちゃんを掴んで、レクラちゃんが海に落ちる。


「よし、次はレミアちゃん」


 悪い顔をするわたし。


「わっ、レミもアファエルと」


 すかさず、レミアちゃんとアファエルの間に入って、


「えいっ」


 レミアちゃんを押すわたし。


「押さないで、押さないでキャー」


 落下していくレミアちゃん。


「よし。邪魔者は、いなくなったわね」


 おでこの汗をぬぐうわたし。


「アトラフィルさん」


 わたしを見るアファエル。


「ん? なーにアファエル?」


 ニコッと笑うと、


「案外、コワいとこあるよね」


 どん引きのアファエル。


「えっ、そうかしら」


その頃



「ふぅー」


 シャワーを浴びているさわちゃん。

 かたわらにかつらがあり、


「頭に、汗をかいていたから、ちょうど涼しくなったわ」

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