第51話 癒しキャラ

「3番テーブル、ナポリたん」


 アファエルが、厨房に向かって言うと、


「あいよ!」


 おやっさんが、フライパンを振るいながら答える。


「ふぅー」


 盆を、小脇にかかえて、ため息を吐くアファエル。


「三浦さん、お疲れですか?」


 リホナちゃんが、アファエルの肩を軽く揉む。


「リホナちゃん。ちょっとね」


 ニコッと、笑うアファエル。


「なにかあったんですか?」


 心配そうに、アファエルの顔を覗きこむリホナちゃん。


「あっ、いや」


 顔色を赤くして、顔をそらすアファエル。


「あーっ、なんか隠したー」


 反対側から、覗きこむリホナちゃん。


「ハハハ、例えばさぁ」


 苦笑いするアファエル。


「うん、例えば?」


 正面に回るリホナちゃん。


「友達がさ、遠い親戚と一緒に住んでいたんだけど、最近雰囲気が変わったらしいんですよ」


 頭を、掻くアファエル。


「へぇー、その子って女の子?」


 ニッコリ笑うリホナちゃん。


「はい。あーいや」


 ズバリと当てられ、バツの悪いアファエル。


「アハッ、話したくなったら、話すんじゃないかな?」


 そう、アドバイスするリホナちゃん。


「やっぱ、そうっすよね」


 かなわないなと、笑うアファエル。


「うん」


「ありがとう、リホナちゃん。気持ちが晴れたよ」


 頭を、下げるアファエル。


「えっ、いえいえ」


 顔の横で、手を振るリホナちゃん。


「おーい、ナポリたんあがったぞ~」


 おやっさんが、声をかける。


「はーい」


 アファエルが、お皿を受け取り、お客さんのところまで運ぶ。


「ナポリたんのお客様」


 テーブルに、お皿を乗せようとすると、


「はい」


 受け取るお客さん。


「ふぁあ~」


 その時、店の奥からパジャマの上着と、ショートパンツ姿のレミアちゃんが、アクビをしながら出てくる。


「おい、レミ」


 おやっさんが、声をかける。


「なーに?」


 伸びをしながら、聞くレミアちゃん。


「ちゃんと服を着て来いよ」


 へそも、フトモモの付け根もまる出しだ。

 おやっさんが、注意すると、


「別にイイじゃん。ねぇ、アファエル」


 アファエルに、甘えるレミアちゃん。


「いやー」


 頭を掻くアファエル。


「それより、リホナちゃんとなに話してたのかなぁ」


 さっき、話していた内容が気になるレミアちゃん。


「えっ、特には。ねぇ」


 誤魔化して、リホナちゃんを見るアファエル。


「アハハ」


 アゴを、さわりながら笑うリホナちゃん。


「レミは、ちゃんと見てたよ?」


 アファエルに、詰め寄るレミアちゃん。


「あー、ちょっと友達の家の話をね、リホナちゃん」


 あくまでも、誤魔化すアファエル。


「そうですね」


 うなずくリホナちゃん。


「えー、イチャイチャしているように見えたけど?」


 さらに、つっこむレミアちゃん。


「気のせいでしょう」


 リホナちゃんが、苦笑いする。

 そして、お客さんの呼び出しでホールに出るリホナちゃん。


「ホントにそう?」


 アファエルの腕を掴んで、左右に振るレミアちゃん。


「やめて下さいよ」


 困り顔のアファエル。


「ねぇ、だったらさあ」


 アファエルの耳元で、ささやくレミアちゃん。


「なっ、なんですか?」


「レミと付き合お?」


 小声で言うレミアちゃん。


「なッ!?」


 ビックリするアファエル。


「すぐでなくてもイイから。ね?」


 念押しするレミアちゃん。


「うーーー」


 ハッキリと、断れないアファエル。


「考えといてね」


 アファエルの頬に、軽くキスするレミアちゃん。


「あっ、むぅ」


 口を、への字にするアファエル。


「どうしたの?」


 リホナちゃんが、オーダーを受けて帰ってくる。


「いや、なんでもない」


 また、誤魔化すアファエル。


「ふぅーん」


 目を細くして、アファエルを見るリホナちゃん。


「いや、そんな目で見ないでよ。唯一の癒しキャラなんだからさ」


「ホントに、ワタシって癒される?」


 と、リホナちゃんが聞く。


「えっ、ホントホント。かなり、癒されるよ」


 アファエルが、そう答えると、


「アハッ、そう言ってくれるの三浦さんだけよ」


 顔色を、輝かせるリホナちゃん。


「えっ、なんで!? こんなに、話しやすいのに」


 と、続けるアファエルに、


「なぜか、冷たい人って思われて避けられるの」


 困り顔のリホナちゃん。


「へぇー。それって、クールビューティーだからかも」


 意地悪そうな顔で、言うアファエル。


「なにそれクールビューティーって」


 つっこむリホナちゃん。


「あっ、ゴメン。誉めたつもりだったんだけど、気分悪くした?」


 気分を、とりなすアファエル。


「ううん、逆に申し訳ないなって」


 苦笑いするアファエル。


「えっ?」


 のけぞるアファエル。


「クールでも、ビューティーでもないのに、お世辞言ってもらって」


 困り顔で、笑うアファエル。


「いや、美しいよ」


 真顔になるアファエル。


「フフ、ありがとうございます」


 思わず、ふき出すリホナちゃん。


「イヤ、ホントに」


 両手を、振るアファエル。


「アハッ」


 アファエルの両手を、握るリホナちゃん。


「ハハ、ぎょッ」


 奥の柱の陰から、レミアちゃんが頭を半分出して見ているのを、アファエルが気付いて戦慄が走る。


「ジーーーーッ」


 ずっと、アファエルを見るレミアちゃん。


「わっ、レミアちゃん!」


 寒気がするアファエル。


「ふーん」


 スーッと、奥に消えるレミアちゃん。


「なんだよ、もう」


 固まるアファエル。


「どうしたの?」


 リホナちゃんが、聞くので、


「いや、オレとリホナちゃんの間を、疑っているみたいなんだよ」


 レミアちゃんが見ていたと言うアファエル。


「えーっ」


「イヤだよね、ハハ」


 困り顔で、笑うアファエル。


「ワタシは、三浦さんとの間、疑われてもイイわよ」


 はじけるような笑顔のリホナちゃん。


「ですよね。………えっ!?」


 目が、点になるアファエル。


「ウフフ」


 口を、おおって笑うリホナちゃん。


「またまた、冗談でしょ?」


 口角を上げるアファエル。


「さあー、どうでしょう?」


 ニッコリ笑うリホナちゃん。


「じゃあ、脈アリってことです?」


 探るように聞くアファエル。


「アハッ、そうかも知れませんねー」


 はぐらかすリホナちゃん。


「なんか、オレで遊んでるでしょ」


 苦笑いするアファエル。


「さあ、どうかなぁー」


 ほっぺたに、指をあてて首をかしげるリホナちゃん。


「ハハっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る