第46話 海の家

「わぁーーー」


 海沿いの道からビーチを見ると、海の家が建っており、砂浜にはカラフルな水着を着た人々がいる。


「いつも、見てるだけで泳いでなかったわね」


 レクラちゃんが、ボンネット帽子を抑えながら海を見る。


「そうよね」


 レミアちゃんも、うなずく。

 かすみちゃんと、ミキハちゃんは、後から合流することになっている。


「それじゃあ、予約しておいた旅館に行こう」


 と、アファエルが先を歩いて行くので、ゾロゾロと付いて行くと、


「わー、ここかぁ」


 趣のある、と言えばイイが、外見が古い旅館だね。


「風情があるわね」


 レクラちゃんが、苦笑いしながら言う。


「いきなり予約したから、どんなところかと思ったけど、案外よさそうだな」


 アファエルは、ここで満足そうだね。

 みんなが、エントランスに入ると、


「いらっしゃいませ」


 背後の、入り口の方から和服を着た老婆が声をかけてくる。


「ヒッ。どうも」


 固まるメンバー。


「おッ、お世話になります」


 と、わたしが言うと、


「ご予約のぉぉぉ、お客さんですかぁ?」


 老婆の女将さんが、声を震わせながら聞いてくる。


「はい、そうです───」


 アファエルが、そう言う途中で、


「お待ちしておりましたぁ………どうぞ、こちらへ」


 廊下を、スーッと歩いて行く女将さん。


「ハハハ………これはこれで、風情が」


 アファエルが、そう言って付いて行くので、


「ねぇ」


 呼び止めるわたし。


「ん!?」


「お化けとか、出ないでしょうね?」


 小声で、アファエルに聞くわたし。


「ひぃ、お化け!?」


 レミアちゃんが、反応する。


「そんなわけないじゃん、ハハハ。ねぇ、女将さん?」


 アファエルが、苦笑いしながら女将さんに聞くと、


「は? なにか、おっしゃいました?」


 ギロッと、振り返って眼光が鋭い女将さん。


「あっ、いや」


 たじろぐアファエル。


「変よ。あやしい。こんなハイシーズンに」


 レクラちゃんが、顔色を青ざめて言う。


「それは、そうだよな」


 腕組みするアファエル。


「お客さん」


 詰め寄る女将さん。


「はい!!」


 声が、裏返るアファエル。


「ラッキーでしたね」


 ニヤリと笑う女将さん。


「えっ?」


 顔色が、青ざめて固まるアファエル。


「ちょうど、キャンセルが出て、お部屋が空いたんです。ビァビァビァ」


 口を、手で覆って笑う女将さん。


「あー。それは、よかった。なぁ!?」


 かろうじて、首を回して振り返るアファエル。


「そうよね」


 どん引きなわたし。


「この部屋で、ございます」


 ドアを開けて、ふすまを開けると、部屋はめちゃくちゃキレイになっている。


「へぇ、イイ部屋じゃん」


 建物のすきまから、海も見える。


「4人部屋となります」


「へぇー」


「引率の方は、こちらの部屋になります」


 アファエルを、別の部屋に案内する女将さん。


「えっ、オレのことか」


「左様で」


 女将さんに、ついて行くアファエルに、


「それじゃあ、着替えて海に行きましょ」


 と、声をかけるわたし。


「おう、後でな」


 手を振るアファエル。


「それでは、ごゆっくり」


 2人部屋に入るアファエル。


「ハハッ。コワ」


 つい、本音が出るアファエル。


「あっ、かすみちゃんからメッセ来てた」


 わたしが、着替えながらスマートフォンを見ると、連絡が来ていた。


「なんだって?」


 レミアちゃんが聞く。


「バイト終わったから、今から行くって」


 と、わたしが言うと、


「おー、そうなの」


 さわちゃんが、上着を脱ぎながら言う。


「ミキハちゃんも、来るって言ってたし」


 レクラちゃんが言うので、


「これで、みんなそろうね」


 レミアちゃんが、ニコニコして言う。


「だね」


 わたしは、さわちゃんのホクロのことを思い出して、


「ん、わたくしの顔に、なにか付いてますか?」


 さわちゃんの方を、ジロジロ見ていたら、さわちゃんにつっこまれる。


「イヤイヤ、さわちゃんだなって」


 変な、誤魔化しの言葉を言うわたし。


「なんですの、ソレは」


 口をおさえ、クスクス笑うさわちゃん。


「アハッ、忘れて」


 苦笑いするわたし。


「ウフフ」


 結局、着替え終わるまで、確認出来なかったわたし。


「さあ、海に行こう!」


「イエーイ」


 テンションの上がるレミアちゃん。


「遅かったな。ってパレオ………」


 旅館の出入口で待っていたアファエルが、さわちゃんが腰にパレオを巻いているのを見て、ズッこける。


「ん?」


 頭に、ハテナが出るさわちゃん。


「アファエル。なに、処理してる」


 歩きながら、足がつるつるなのを聞くレクラちゃん。


「あぁ、まぁ一応な」


 両腕を、さするアファエル。


「なに? レーザー?」


 レミアちゃんが聞くと、


「顔とマタな。後はT」


 説明するアファエル。


「へぇー」


 感心するわたし。


「あそこ、ツルツルなの?」


 レミアちゃんが、股間をジロジロと見る。


「聞くなよ」


 困り顔で笑うアファエル。


「アハッ」


 レミアちゃんが、舌を出す。


「よし、海だ」


 景色が、開ける。


「よいしょっと」


 さわちゃんが、海の家で借りたビーチパラソルとビーチチェアを持ち、


「さわ。なにを」


 アファエルの目の前で、セッティングするさわちゃん。


「日焼けしたくないの。全身に日焼け止めを塗っているわ」


 チェアに、横になるさわちゃん。


「ぐぬぬ」


 これでは、確認が全く出来ない。


「アファエルは、わたくしと泳ぎたかったの?」


 さわちゃんが聞くと、


「いや、なんでもない」


 誤魔化すアファエル。


「そう?」


「アファエル~こっちこっちー」


 レクラちゃんが、ビーチボールを持って手招きする。


「レクラちゃんが、呼んでるよ」


 片目を閉じるさわちゃん。


「あぁ。ちょっと行ってくる」


 トボトボと、ビーチを歩くアファエル。


「なにしてたのよアファエル」


 と、レクラちゃんが聞く。


「いや、別にコレと言っては」


 答えにくいアファエル。


「もっと、楽しみましょ?」


 レクラちゃんが、ウインクする。


「あっ、ハイ」


「どうだった?」


 わたしが聞くと、


「腰の布が邪魔で見えない」


 首を振るアファエル。


「そうなの」


 残念ね、それじゃあ無理よ。


「それより、着替えの時に見えなかったか?」


 と、アファエルが聞くので、


「なんか、さとられてて無理だったわ」


「マジでか。参ったな、ぐふ!」


 レクラちゃんの打ったビーチボールを、レミアちゃんが取りそこねて、アファエルの顔面に直撃する。


「あー、アファエルごめーん。ボールそっち行ったー」


 レクラちゃんが、いたずらっ子みたいに笑う。


「いや、モロ顔面に喰らいましたけど?」

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