第41話 貴賓室
「なんか、久しぶりに湾岸エリアに来たわ」
アファエルが、謹慎でレースに出れなくなって以来ね。
「へぇ、そうなんだ」
アファエルも、感慨深そうな表情になる。
「あーしが、こっち来たの子供の頃だったわ。おぼろげに、観覧車に乗ったような」
かすみちゃんが、右手の甲をおでこに当てて、空を見上げる。
「あー、あったよね観覧車」
ウンウンと、うなずくレミアちゃん。
「なつかしいわね」
レクラちゃんも、そう言う。
今日は、ミキハちゃんは用事があって不参加になっている。
「わたしは、アファエルの応援で何度か来たわ」
こっちに、あまり用事がないからね。
「へぇ、そっか」
ニッと、笑うアファエル。
「うん」
ドキッとするわたし。
「望月さんに言ったら、貴賓室を貸してもらえるようになったから、急ごう」
スタンドを横目に、建物に入るように言うアファエル。
「それはスゴいね」
アファエルに、付いて行くわたし。
「よーし、楽しみだなぁ」
レミアちゃんが、跳ねる。
「ここが、貴賓室?」
エレベーターを降りて、薄暗い廊下を奥まで進むと、ドアの前まで来る。
「そうそう。スペシャルな部屋だよ」
ドアノブを握って、振り返るアファエル。
「早く入れてよ」
レミアちゃんが、ウズウズしながら言うと、
「まぁ、そんなに急かすなよ」
鼻で笑って、ドアを開けるアファエル。
「わぁ、スゴい眺めね」
レクラちゃんが言う通り、全面ガラス張りで、レース場全体が見えるほど開けている。
「コレはイイな」
かすみちゃんが、イスに座って足を組む。
「あっ、わたしジュース買ってくる。行こ」
アファエルの服を引っ張るわたし。
「それじゃあ、
レクラちゃんと、レミアちゃんが唐揚げを買いに行く。
「うん、わたしのもお願いね」
と、わたしが頼むと、
「あっ、人数分にしとこうか」
そう言うレクラちゃん。
「ありがとうー」
わたしが言うと、かすみちゃんが立ち上がる。
どうやら、フレーバーを選びたいみたいね。
「それじゃあ、飲み物なんにする?」
わたしが聞くと、
「カフェラテ、アイスお願いね」
レクラちゃんが言うと、
「あーしコーラ、あったらカロリーないの」
かすみちゃんが言う。
「オッケー。じゃあ、アファエル行こう」
「おう」
部屋を出て、それぞれに行く。
「こっちのフードエリアかしら」
レクラちゃんが言うと、
「けっこう人数いるね」
かなり、込み合っていて行列が出来ている。
「おう、お前らも来ていたんだな」
行列の前の方に並んでいる男が、振り返ると、
「げっ! 来てたの!?」
元特進クラスのモヒカンがいることに、驚くメンバー。
「そりゃあ、クラスメイトの
親指を立てるモヒカン男。
「へぇ。案外、そんなとこあるんだ」
変態を見るような視線のレクラちゃん。
「なんだよ。人を、冷徹超人みたく言いやがって」
声を、荒らげるモヒカン男。
「あら、違ったの?」
苦笑いするレクラちゃん。
「なんだ、あいかわらずムカつくヤツらだ」
イライラするモヒカン男。
「それは、こっちのセリフよ」
レミアちゃんが言うと、
「チッ」
悪態をつくモヒカン男。
「さっさと、どっか行ってよ」
レミアちゃんが、レクラちゃんを盾にして言う。
「仕方ねぇだろ。同じ空揚げの行列に並んでんだからよ!」
至極、もっともなことを言うモヒカン男だが、
「知らないわよ、そんなの」
大声を出すレミアちゃん。
「あれ、空揚げ組みは、まだみたいね」
部屋に戻ったわたしたち。
外の喧騒がウソのように、妙に静かな室内。
「だな。道に迷っているのか」
半笑いで言うアファエル。
「それは、さすがに無いんじゃないかな」
迷うようなところは無いような。
「だって、フードエリアとフロアが違うし」
フードエリアの上の階に貴賓室がある。
「うーん」
こっちの階は、混んでないからなぁ。
「探しに行くか」
座っていたアファエルが、のけ反ってわたしを見る。
「このまま、二人きりでもイイかも」
アファエルのとなりに、ピッタリとくっついて座るわたし。
「なッ。なに言ってやがる」
テレるアファエル。
「イイじゃない」
アファエルの頬に、キスしようと顔を近付けた時に、
「ったくよぉ。あれ、なんかマズかった?」
かすみちゃんたちが、部屋に入って来る。
「いや、大丈夫だ。なにかあったか?」
立ち上がるアファエル。
とんだ、邪魔が入ったわね。
「やー、元特進クラスのモヒカンがいてさ」
ジタバタするレミアちゃん。
「え゛ッ」
ビックリするわたし。
アイツ、同級生を心配するようなタイプじゃないと思ってたわね。
「そうそう。空揚げの行列に並んでいてさ、さんざん口汚く言って来たよぉ」
レクラちゃんが、説明してくれる。
「マジで? しんどいね」
休みの日まで、会いたくないわよね。
「まぁ、レミアさんが言い返してくれたけど」
レミアちゃんを、見つめるレクラちゃん。
「エッヘーン」
腰に両手を置いて、胸を張るレミアちゃん。
「よくやった」
アファエルが、褒める。
「えっ、レミえらい?」
アファエルに、詰め寄るレミアちゃん。
「えらい、えらい」
わたしが言うと、
「キャハッ!」
めちゃくちゃ、よろこぶレミアちゃん。
「かわぇぇな」
ヨシヨシと、撫でるわたし。
「おっ、予選が始まるぞ」
外の景色を見るアファエル。
「さわちゃん。ポールポジションを取れるかな?」
これから、スタート順を決めるタイムトライアルがある。
「さすがに、それは無理だろ」
プロ相手に、出来ないと言うアファエル。
「見て、ステージ!」
司会者や、レースクイーンがいるステージの様子が、その後ろの大画面に映し出されている。
そこに、見慣れた顔がある。
「あっ、なんでミキハちゃんがステージに!?」
ミキハちゃんが、司会者のとなりに立っている。
手にはマイクを握っており、なにか談笑している。
「あわわ」
レミアちゃんが、変な声を出す。
「スゴいじゃん」
かすみちゃんが、鋭い目付きで見る。
「おい、みんなは知っていたか?」
と、アファエルが聞くので、
「いえ、アファエルも?」
わたしも、聞き返す。
「全然知らない。なんだよ、言っておいてくれないと、ビックリするじゃんかよ」
苦笑いするアファエル。
なんか、ガードしていたのは、なんだったんだと思う。
「本当ね。言って欲しかったわ」
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