第42話 ステージ

『みッなさーん、こんにーちわー』


 ミキハちゃんが、ステージ上で愛想を振り撒く。


『『こーん、にーち、わー』』


 スタンドから、声援が返ってくる。


「えっ、ミキハちゃん?」


 さわちゃんが、控え室の天井から吊るされたモニターに、釘付けとなる。


『プロジョッキーを、目指しているミキハでー

す!』


 会場に向けて、手を振るミキハちゃん。


「うわ。なんで、ステージにいるのあの子………」


 唖然とするさわちゃん。


『若手のホープである、ミキハさんにゲストとして来ていただいたわけですが───』


 司会者が、そうアナウンスすると、


「えっ、待って。若手のホープって。じゃあ、あたしって何なの」


 目が、点になるさわちゃん。


「あれ、キミと同期生じゃないか?」


 さわちゃんの背後から、声がかかる。


「あっ、かキ先輩。はい、そうです」


 人気選手の、かキ先輩に対して緊張するさわちゃん。

 少し、顔が赤くなる。


「仲がイイの?」


 同期生と、交流があるのか聞くかキ先輩。


「たぶん、仲はよかったかと」


 ぼやかすさわちゃん。


「なにそれ。キミ、変わってるね」


 お腹をかかえて、笑うかキ先輩。


「アハッ」


 イケメンの顔が、クシャっとなるのを見て、思わず笑うさわちゃん。


「そろそろ、キミの予選滑空だよ」


 親指を立てるかキ先輩。


「はいっ、かキ先輩」


 親指を立てるさわちゃん。


「うん。がんばってね」


 ニコッと、笑うかキ先輩。


「はいっ」


 ペコッと、頭を下げるさわちゃん。


「次、9番」


 キャップをかぶって、手にタブレットを持った係員が、控え室に来る。


「はい」


 係員のところに行くさわちゃん。


「えっと、新人の子だね」


 と、係員が言うと、


「はい」


 小声で、返事するさわちゃん。


「コースを3周して、ラップタイムが良い方が採用されるから、思い切り飛ばしてポールポジションを取って」


 ニヤッと、笑う係員。


「はい」


 返事すると、機体に跨がるさわちゃん。


「よし、ゴーッ」


 合図を送る係員。

 ホーンの、けたたましい音が、会場に鳴り響く。


「ぐッッッ」


 急上昇して、急加速するさわちゃん。


『続きまして。おっ、これは新人の選手ですね。ミキハちゃんと同期生の』


 司会者が、ステージ上でそう聞くと、


『はい。彼女とは、同じ電車で通っていて、とても仲良くさせて───』


 と、エピソードを話すミキハちゃん。


「そんな、仲良かったか。いかん、集中集中」


 つい、グチがこぼれるさわちゃん。


『さあ、12機全ての予選飛行が終わりました。ミキハちゃんの同期生プリン選手は、7番グリッドからの出走となりますが』


 全機が、予選を終えてアナウンスする司会者。


『はい。とにかくスタートダッシュを決めて、トップを取って欲しいですね』


 7番グリッドは、優勝にはギリギリの位置。


『ロケットスタートが、決まるでしょうか───』


 ミキハちゃんは、ちょっとキビしいと思っている。


「あー、7番スタートか。マズいな」


 イラ立つさわちゃん。


「さわちゃん、7番グリッドからか」


 貴賓室で、見守るわたし。


「うーん」


 レミアちゃんが、難しい顔をする。


「でも、12番じゃなくてよかったじゃん」


 レクラちゃんが、そう言うが、


「まぁ、そうだよね」


 首を、かしげるかすみちゃん。


『さあ、いよいよスタートです。コースを12周まわって、最初にゴールするのは、どの選手でしょうか!』


 司会者に、熱が入る。


「絶対、負けない」


 ライバルたちを、睨むさわちゃん。


「フッ」


 その様子を、鼻で笑うライバルたち。


『各車一斉にスタート!』


 シグナルが、レッドからグリーンへと変わる。

 轟音が、会場に響く。


「ぐにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 フルアクセルの、Gに耐えるさわちゃん。


『おーっと。プリン選手、好スタート。グングン順位を上げて、現在4位』


 さわちゃんが、出だしに成功して4位まで行く。


「ぐぉぉぉぉぉぉ」


 気合い十分のさわちゃん。

 スタンドが、波打つようにわき返る。


『ちょっと、オーバースピード気味ですかね』


 冷静に見るミキハちゃん。


『たしかに、シケインを回りきれるか!?』


 司会者が言う通り、ホームストレートの先には、大減速ポイントがある。


「ぐぉぉ、曲がれぇぇ」


 少しだけ、大回りになるさわちゃん。


『おっと、なんとか曲がったが、後方から刺されて、1つ順位を落とした!』


 司会者が言う通り、少し空いたインに入られて、抜かれるさわちゃん。


「まだまだだな」


 さわちゃんを、振り返るライバル。


「クッ」


 固くなるさわちゃん。


『さあ、先頭はゼッケン3番くろいつ選手。続いて、ゼッケン4番モエノチューボー選手と続きます』


 3機が、絡まるように飛ぶ。


『先頭集団は、ハイスピード区間ですね』


 ミキハちゃんが、そう言うと、


『そうですね。海に突き出たバックストレート! ここで、時速400キロオーバーの空中戦が繰り広げられます!』


 互いに、機体がぶつかり合う。


「よし、一気に加速」


 バックストレートまで来たさわちゃん。


「させねぇよ」


 ライバルが、機体を押し付けて見えない壁に衝突させようとする。


「ちょっ、幅寄せしないで」


 ライバルの、下に潜って回避すると少しロスするさわちゃん。


「お先に」


 加速して逃げるライバル。


「チッ。フルパワーーーーー」


 なんとか、ライバルに喰らいつくさわちゃん。


「クッ」


 後ろを、チラッと見るライバル。


「ぐゅゅゅゅゅ」


 ライバルの横に並ぶさわちゃん。


「おらぁ」


 機体を、またぶつけようとするライバル。


「あぶなッ」


 今度は、相手の上にかわすさわちゃん。


「チッ、避けたか」


 見上げるライバル。


「殺す気なの!?」


 ヒヤッとするさわちゃん。


「オラオラオラ。海の藻屑となれ!」


 グイッと、上昇するライバル。


「わぁぁッ」

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