第32話 トーナメント

「アファエル、早く戻って来ないかな」


 教室の窓から、グラウンドを見る。

 通常なら、午前中は普通クラスが実技をする時間なのだが、その準備ではなく、特進クラスのトーナメント戦が昨日から実施中なの。


「昨日、バイトしてるところを見たけど、元気にしてたよ」


 そう、レミアちゃんが言うので、


「えっ、またコンビニで?」


 ミキハちゃんの顔を見る。


「あったしのところじゃないわよ」


 両手を振るミキハちゃん。


「あぁ、ファミレスの方ね」


 レミアちゃんが、含み笑いする。


「あっ、そっちの方かぁ。レミアちゃん、よく場所がわかったね」


 アファエルに、聞いたのかな。


「フフン。レミとアファエルの仲だもん」


 両ひじを掴んで、口角を上げるレミアちゃん。


「えっ、それはどういう」


 聞き捨てならないわ。


「アハッ、冗談よ冗談」


 笑って、誤魔化すレミアちゃん。


「なーんだ」


 うーん、あやしいけど。


「私も、アファエルがバイトしているの見たいわ。場所を、教えてくださると嬉しいわ」


 レクラちゃんが、興味津々で聞く。


「あっ、じゃあ今度みんなで行く?」


 レミアちゃんが、妙な笑顔で言うと、


「うん、行く行く」


 わたし、すぐ見に行きたいぐらいよ。


「どんなところか、見たいわ」


 レクラちゃんが、両頬を押さえて言う。


「おーい。授業を、始めるぞー」


 いつの間にか、授業時間になっていた。


「「ハーイ」」


「亀崎教官」


 座ったまま、手を挙げるかすみちゃん。


「おいっ、なんだ」


 かすみちゃんを、指差す亀崎教官。


「今日も、座りからですか?」


 不満を、ぶつけるかすみちゃん。


「あぁ。特進クラスが、実技やってるからな」


「いつまでですか?」


 喰いさがるかすみちゃん。


「今月いっぱいだ」


 6月の残り日数は、座学がメインと言う亀崎教官。


「えー」


「昨日も言ったが、ダイバカップの為に、1名選出しなきゃならない」


 トーナメント戦で、特進クラスの生徒から勝ち残った者が、出られる。


「ハイハーイ」


 レミアちゃんも、手を挙げる。


「なんだ」


「どうして、こっちからは選出されないのですか?」


 やはり、普通クラスもトーナメントに参加するのが筋だと言うレミアちゃん。


「こっちは、能力的にまだプロと一緒に飛べるレベルじゃない」


 断言する亀崎教官。


「えぇーッ」


 どよめく普通クラスの生徒たち。


「さあ、授業をするぞー」


その頃



「おい。女が、選出されるわけねぇから、飛ばねえで不戦敗になれよ」


 特進クラスのモヒカン男が、さわちゃんに圧をかける。


「はぁ? 女に負けるのが恐いのね」


 半笑いのさわちゃん。


「なんだとォ!?」


 イラつくモヒカン男。


「それじゃあ、コース3周勝負。位置につ

け」


 青ジャージの教官が、メガネをクイッと上げる。


「「はいっ!!」」


 ジェットモービルに、跨がる二人。


「あなたみたいなのには、絶対負けないわ」


 腰の、ベルトを巻くさわちゃん。


「ヘッ! 後で吠え面かくなよ」


 ヘッドホンを装着する、モヒカン男。


「よーい」


 右手を挙げる青ジャージの教官。


「クッ」


 口を、歪ませるモヒカン男。


「………」


 真っ直ぐ前を見るさわちゃん。


「スタート」


 右手を、振り下ろす青ジャージの教官。

 ルーザが、ストップウォッチを押す。

 コースは、グラウンドを出発して、体育館の上で、複雑なカーブを繰り返して、そこを抜けると、一気に島に向かい、そこにも、コの字に曲がる減速ポイントがある。


 目印となるドローンには、10メートル以内には近付けなくて、パワーロスになる。


『ヘァアアハァー』


 一気に、加速するモヒカン男。


『ぐッ』


 初手から、少し出遅れるさわちゃん。


『ヘイヘイ!』


 さわちゃんの進路を、妨害にかかるモヒカン男。


『くッ』


 思うように、スピードに乗れないさわちゃん。


「あー、プリンが頭、押さえられたな」


 ルーザが、となりの青ジャージの教官に言う。


『ヘッヘッヘ』


 モヒカン男は、機体から出るバーナーをさわちゃんに、浴びせかける。


「熱いッ」


 少しだけ、ひるむさわちゃん。


『ホラホラ、黒コゲになっちまうぞ』


 さらに、攻撃してくるモヒカン男。


「右、左、右、右」


 体育館の上まで到達すると、冷静にコースのドローンを目印に、効率よく回っていくさわちゃん。


『ヘッ!』


 あくまでも、さわちゃんのジャマをするモヒカン男。


『クッ』


 左右のレバーを、巧みに操作するさわちゃん。


『オラよ』


 大きくケツを振って、バーナーを当てようとするモヒカン男だが、


「ッツ! 今よ」


 見事にかわして、一気に抜き去るさわちゃん。


『なにっ!?』


 体を、振られるモヒカン男。


「おお、かわしたか」


 青ジャージの教官が、ドローンからの映像を見て、感心する。


「よしっ! パスした」


 これから、島までストレートという直前で、抜くことに成功したさわちゃん。


『クソが』


 あわてるモヒカン男。


「ィーーーーーーギッ」


 フルパワーで、飛んで行くさわちゃん。


『ぅおおおおおおお』


 景色が、ものすごい速さで流れる。


「ストレート区間で、どれだけスピードに乗れるかが勝負の別れ道だな」


 ルーザが、つぶやく。


『待ちやがれこの』


 髪型のモヒカンが、高速でめちゃくちゃになる。


「待つかってのバーカ」


 つぶやくさわちゃん。


『言ったな、このアマ!』


 怒りが、爆発するモヒカン男。


「あそこに、ドローンか」


 目標が浮かんでいる。


『インは、取らせてもらうぜ』


 コの字の入り口の最短を目指すモヒカン男。


「させない!」


『アチチチチ』


 バーナーに、あぶられるモヒカン男。


「お返しよ」


 舌を出すさわちゃん。


『やりやがったな!』


 怒髪天を突く。


「このカーブきつい」


 コの字が、思いのほか狭い。


『もらったァ』


 強引に、抜こうとするモヒカン男。


「しまっ」


 あせるさわちゃん。


『わっ! 強制減速ッ』


 ドローンに、近付きすぎて、見えない壁に衝突するモヒカン男。


「おあいにくさま」


 島を、1周して学校まで戻って来るさわちゃん。

 すぐ後ろをモヒカン男。


「おぉ、良い勝負をしているな」


 青ジャージ教官が、つぶやく。


「ですね」


 ルーザが、ストップウォッチをチラッと見る。


『まだだッ。まだ2周残ってる』


 あせるモヒカン男。


「もう、先は行かせない」


 ルートをつぶすさわちゃん。


『クッ』


「降参する?」


 上から言うさわちゃん。


『まだまだァ』


「そう」


 右足を、踏み込むさわちゃん。


『アチチ』


「あら、ごめんなさい」


『やってやる。お前を、黒焦げにしてやるぞ。ブルルルル』


 復讐心を燃やすモヒカン男。


「あなた、気合いが空回りしているわよ」


 つっこむさわちゃん。


『うッ。うるさいうるさいうるさーい』


 首をブンブン振るモヒカン男。


「あー、だいぶ差がついたな」


 ルーザが、そう言うと、


「この差を、あいつはひっくり返せるか」


 青ジャージの教官が、口角を上げる。


「よし、このまま」


「ゴール」


「やったわ!」


 リードを、保ったままゴールするさわちゃん。


『クソォーーッ』

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